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クマと暮らせば

うちにクマがやってきて1週間が経った。

近所のコンビニの前で出会ったクマ。
シロクマの絵がついた夏季限定マンゴー味のアイスがどうしても食べたかったのだそう。
買ってあげたら、そのまま家までついてきた。

レジでもらった木のスプーンでざっくざっくと力強く凍ったマンゴーを砕いて、豪快にアイスを食べたクマはとても満足そうだった。
お礼に子守唄を歌ってくれるという。


「わたし、もう大人なんだけどな......」
そう思いつつ、断る理由も特にないのでお願いする。
拍子に合わせて私の背中をトントンとしながら歌うクマ。大きな体に似つかわしくないその声は、キャンプの夜に聞いた川のせせらぎみたいにおだやかで、気づけば夢の中。久々にぐっすりと眠った。

以来、クマは我が家に居座っている。

人がいる空間が苦手だ。心がざわついて脳内が忙しくなって何もできなくなる。
だけど、クマはそんなことお構いなしに私の本を好き勝手に読んだり、冷蔵庫を漁ってご飯を作ったりしてマイペースに暮らしている。つられて私も気にせず1人の時と変わらないペースで暮らしている。
なんだ、わたしもクマみたいにできるじゃん。

眠る時、クマは布団のようになってギュと私を包み込む。
他人に抱きつかれるのは苦手だと思っていたけれど、相手がクマなら恥ずかしくない気がした。そして、もうさみしくなかった。

大きくなって、大人になって、さみしいって思うのは恥ずかしいことだと思っていた。クマにそう話したら、人間は大人と子供で別の生き物になるの?と首を傾げていた。


クマのせいで部屋はちょっと狭くなったけれど、この共同生活は悪くないなと思っている。


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ちょっと結末の違う、縦書き版を作りました。


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