お上品

時は2XX4年2月11日。R-1グランプリ準決勝当日。

トンツカタンお抹茶は寝街(ねまち。いわゆるベッドタウン。又の名を埼玉)から電車に揺られ決戦の地、東京は有楽町へと向かっていた。

音響オペレーターをお願いしていたスパイシーガーリックの片山と待ち合わせをしていたのだが、思ったより早く着いてしまったため一人で会場へ。

会場に入ると去年と同じ大部屋の控室に通された。懐かしい光景。たくさんの長机が準決勝進出者と同じ数だけ並べられている。今年もここに来れたんだ。と、誰か言ったりしたのかなと思いながら自分の居場所を探す。誰がどこの机か場所は決められておらず、好きなところを陣取っていい。いわゆるフードコートスタイルである。(他にいい例えがあれば募集していました。昨日まで)

そんな中、お抹茶は当然のように吉住の前を陣取った。同じ事務所で、同い年。僕の方が先輩だが、そんなことは関係ない。勝手に10年来の友人ということにしているので、勝手に陣取っても文句を言われないだろう。(そんなハラスメント体質を抱えながら、お抹茶は今日も生きている。)
吉住はいつだって親しげにしてくれる。いつの間にか彼女の方がかなり先を走っている。それでも、変わらず接してくれる平民にも優しい女王なのである。だからお抹茶は、何よりも優先してお抹茶自身の心の安寧を求めて吉住の前の席を陣取った。これでメンタルは保証されたも同然。ありがとう吉住。

ネタの準備をしていると、突然スタッフさんから呼び出しを食らった。喧嘩が始まる可能性を考慮しつつ、リハーサルへと向かった。音響オペレーターの片山、マネージャーのチームお抹茶に加え、吉住、吉住の音響オペレーター鈴木コウジロウの盤石な布陣でリハを行う。前日に、一人でリハするのが不安だということをブツブツと言っていたら、みんな集まってくれた。ありがとう。いやぁ、去年も感じたけど全然一人じゃないよな。お抹茶のR-1は。みんな、ほんとありがとうって感じ。というか勝手に巻き込んでるだけか。でもありがとう。

そして、チーム盤石のみんなで音響・照明を確認した。正直、舞台上からだとわかることが少なく、客席から見た感じをチームのみんなが音響さんに伝えてくれた。素晴らしいチームワークで音響・照明5調整ができた。リハーサル史に残る完璧なリハだったと思う。


さぁ、あとは本番を走り抜けるだけ。


と、意気込みかけたが。出番までまぁまぁ時間もあるということで、マネージャーさんと片山とコウジロウで有楽町の街に繰り出すことに。
少し散策して見つけた喫茶店に入り、みんなでサンドウィッチをいただいた。この中で唯一の純ピン芸人である鈴木コウジロウだけなぜかチャーシュー単品を注文して、それだけを食べていたのがちょっとピン芸人すぎるムーブだなと思った。みんな気心の知れた奴ら(マネージャーさんもこの瞬間だけは奴らの一員です。すいません)なのでとてもリラックスした時間を過ごせた。

そして、あいも変わらず俺という男は、一銭も払うことなく店を出る。マネージャーさんに出来るだけ深いお辞儀と申し訳なさそうな顔をして感謝の意を伝えた。すると、何かを手渡してくれた。缶バッジだ。レジ横で売られていた喫茶店オリジナルの缶バッジを何故か3人分買ってくれた。突然のことで、とりあえず「どゆこと~」と高らかにツッコんだが、誰の心にも留まることなく、有楽町の空へと虚しく消えていったんだとか。素敵なお守りが増えました。が正解だったかも。


控室に戻るとすでに準決勝は始まっていた。お抹茶の出番は後半ブロック。まだまだ時間がある。お腹も満たされ、すっかりおねむのお抹茶は仮眠をとることにした。椅子に頭を置き、切り離された体を床に横たわらせる。

前日は遅めのライブがあった。お世話になってるサンシャインさんに誘ってもらった下北沢のライブ。
準決勝を翌日に控えているので無理して出演しなくてもいいという相方からの声(ウィスパー)もあったが、お抹茶が仲良い人に会って落ち着いた状態で準決勝に臨みたい。ということで出演することになった。
トリオネタでのオファーだったが、ご厚意でピンネタもやらせてもらった。ありがたい。
ライブが終わり、時計を見ると20分後にはお抹茶の終電が迫っていた。会場から駅までは割と近い。普通に帰り支度をして会場を出れば間に合う時間である。みんながお抹茶明日がんばれとエールを送ってくれる中、サンシャインののぶきよさんだけ終電大丈夫か?ほんとに間に合うか?車で送ってやろうか?と紳士的な振る舞いをしてくれた。車で送ってやろうか?ってなんだよ。と思っていると、のぶきよさんがカーシェアのアプリを開いているのが見えた。まじ?と思ったが、どうやらまじらしい。ぼく埼玉ですよ?と言っても、のぶきよさんは揺るがない。先輩にそこまでしてもらうのは意味わかんないと思ったが、最終的にお抹茶が丸め込まれる形で車で送ってもらうことになった。

みんなに別れを告げ、会場からカーシェアがある駐車場まで移動した。自分が乗ってきた自転車を押しながら歩くのぶきよさんの後ろにくっついて歩いた。車で送ってくれようとしてる優しさを、わざわざ自転車を置いてまで?という変さが追い越してくる。
のぶきよさん、お抹茶、お抹茶の大荷物(この日珍しく仕事が3本あったため。これを運んでもらえるって、ほんとにありがたかった)を車に乗せて、ウルフルズの暴れだすを歌いながら埼玉へと走った。ほんとに熱くなった。なんて最高の兄さんなんだよ。なんでこの人が、この後、下北沢まで戻って、自転車で帰らなきゃいけないんだよ。
埼玉の自宅に到着し、のぶきよさんに決勝へ進出することを誓った。ありがとうございます。優しくてあたたかい。そのあたたかさのおかげで、すぐに眠りにつくことができた。

3時間で目が覚めた。ソワソワして眠れないというのは経験があるが、ソワソワして目が覚めるというのは初めての経験だった。

そんなこともあって、当日は早めに会場に着いてしまったし、おねむになってしまったのである。とはいえ10分ほど仮眠をとったら結構スッキリした。人間ってワンダー。

モニターを見ると前半ブロックが終盤に差し掛かっていた。余裕っぽい感じで過ごしていたつもりだったが、心の中に忍んでいたソワソワが顔をだす。(実際はずっとソワソワしていたのかも。せっかく吉住の前の席を陣取ったから、写真いっぱい撮ろうと思ってたのに自撮りの2ショット一枚しか撮らなかったから)

とはいえ、ソワソワしたって、やることは変わらない。準備してきたことをやるだけだから。準々決勝までは、どうなるのか楽しみというワクワク感があったが、準決勝まで来てしまったらすっかり信頼感のあるネタになっていたので、ワクワク感はあれど、堂々とした心持ちだった。
今回のとんでもないR-1の準決勝まで来れた時点で、自分のピンネタが面白いということは認められたも同然。こんなに面白い人たちの中に自分も居れるというのが嬉しかった。
あとは楽しむだけなのだ。本当に。そして、みんなに笑ってもらう。そこから先は審査員の皆さんに委ねるのみである。

ネタ練習を終え舞台袖にスタンバイする。爆発したような笑い声が聞こえた。舞台上にいるのは、お抹茶の前の出番のななまがりの森下さんである。凄すぎる。森下さんはお抹茶の前の出番でもあり、控室でもたまたまお抹茶の前に陣取っていた。控室に戻った時に聞いたら、爆発したところは直前で増やした新しいくだりらしい。異次元のかっこよさ。
そんな爆発したネタの次にぼくのネタ。去年はここでややウケだった。でも、今年は違う。自分史上一番好きなネタがある。それに加えて信頼感もある。やってやるんだ。そして出番。






たまらん。





気持ち良すぎた。お客さんからもなんかパワー感じた。新しく追加した演出もはまった。こんなに気持ちよくなっていいのかよ。最高すぎる。時間が許せば、もう一度舞台に上がり、客席に向かってゆっくり一礼しに行ったかも。それくらいの達成感があった。

自分の芸人人生の中で、これはかなり大きな出来事なんです。トンツカタンとしてキングオブコントの準決勝に過去2回行かせてもらったことがあって。しかし、2回とも思ったようにはウケなくて悔しい思いをして。R-1でも去年初めて準決勝に行かせてもらったが、ここでもややウケ。その都度、勝手に求められてなさを感じて、勝手に泣きそうになった。勝手に落ち込んだ。勝手に思い詰めた。そんなことの繰り返しの11年間。ようやく、自分の声がみんなに届いた気がした。
ちゃんとネタを作り始めて3年ちょっとだけど。俺にとっては10年かけてやっとたどり着いた場所。ピンネタだけど、自分だけの力じゃ来れなかったんですよ。トリオがあって、なんのキャラもないから、3番手みたいな芸風で、もちろんネタ書いてなくて、悩んで、落ち込んで、舞台上で泣いたりもして、ライブ中のトークで吉住にトンツカタンで付き合うなら誰?と言うよくわからん話題でお抹茶だけ選ばれずに怒って帰ったりして(困惑させてごめんやで吉住)、それでもぼくのこと面白いって言ってくれる人たちがいて、お抹茶のボケ褒めてくれて、ネタ褒めてくれて、天才だって言ってくれて、それでもやっぱり敵わないときがたくさんあって、落ち込んで、またネタ作って、今年ダメならもう知らないと思って、ようやく掴んだ準決勝の感触なんです。ほんとにありがとう。みんな。抱きしめさせてくれよ。




控室に戻ってからは、あんまり覚えてない。とにかく興奮していたし、興奮しすぎてることにより、周りの芸人さんに嫌な感じで思われないようにとにかく平静を装うことに必死だった。
森下さんにタバコを誘ってもらって、嬉しくて、オペレーターの片山とついていった。お抹茶は5年前にたばこを辞めていたが、今でも全然吸いたい。でも吸っていない。タバコに口もつけていない。その代わり喫煙者について行って副流煙をもらうことがある。それを伝えると、森下さんがニコッとしながら、変やなぁ。といった。森下さんほどの変な人に変と言ってもらえてなんだか誇らしい気持ちになった。喫煙所では二人ともよかったなぁ。一緒に決勝行けたらいいですね。直前でくだり足して爆発はかっこよすぎます。などと話した。
途中、タバコ吸ってないのに喫煙所にいることが気まずくないように、新しいタバコに火をつけて持たせてくれた。お気遣いまでも変な人すぎて嬉しかった。
森下さんが吸い終わって喫煙所を出て行く流れになった。タバコはアメスピだった。他のタバコより持ちがいい。まだ半分くらい残ってる。先輩と一緒に喫煙所を出るのがマナーだと思うが、でもせっかくもらったタバコを。しかも吸ってもいないタバコを半分で捨てるなんて。と言う前代未聞の天秤案件に葛藤した。最終的に森下さんの、俺行くけどまだ(副流煙を)吸ってていいよと言うお言葉に甘えて、お抹茶は一人喫煙所に残ることにした。森下さんはほんとにおもしろかっこいい。結局タバコの火が消えるまで喫煙所にいた。普通にヤニクラした。

再び控室に戻り自分の陣地を整えていると、ウエストランド井口さんに誘ってもらって何人かでご飯に行くことになった。井口さんはM -1チャンピオンになる前からライブでよくご一緒させてもらっていた。そんな井口さんとお互いピンで準決勝の会場で一緒になるのは不思議な感覚だった。一緒に行ったスパイシー片山とこたけ正義感とアゲみざわ信子は同期らしい。こんなに種類の違う人間が同期と名乗っているのを見て改めてお笑い芸人は素晴らしいなと感じた。この3人も数年後、どこか違う場所で一緒になって不思議な感覚になったりするのかなと思った。
お店では9割井口さんが話してた。そして10割井口さんがご馳走してくれた。さすがチャンピオン。ご馳走様でした。


あっという間に決勝進出者発表の時間がきた。さっきまで戦っていた準決勝進出者が一堂に会する。周りを見渡すと面白い人しかいない。こんな人たちの中でやっていたんだなと改めて思いながらも、完全に気が抜けていたので調子に乗って最前列に立った。そして発表が始まった。

呼ばれた。

こんなに嬉しいのか。そんで俺やったーて言うんかい。子供に対して嬉しいことがあったら「やったー」て言えるように練習してたら、まさか俺のほうに練習の成果が出たんかい。周りの芸人も祝福してくれた。俺の人生は賞レースのファイナリストになれる人生だったんだな。すごいじゃん。

発表が終わって芸人が散り散りになった時にようやく気がついたのだが、寺田さん泣いてた。お抹茶の進出で。なんでだよ。たしかに去年、寺田さんが仲良くなりたい芸人呼んでやるトークライブにお抹茶を呼んでくれたことあったけど。大喜る人のライブを含めても年に4、5回しか会わないのに。泣いてた。よくわからん感情になって、最終的には推しが進出して寺田さんおめでとうの気持ちになった。

とりあえず、スマホが触れる状況になったので家族とお笑いの赤ちゃん(真空ジェシカガクさんとさすらいラビー宇野)に決勝報告のラインを送った。俺、こう言う時、まず家族とお笑いの赤ちゃんに送るんだな。

控室に戻ると、現場に残ってくれていたコウジロウと片山とマネージャーさんから祝福を受けた。聞いてはないがマネージャーさんの目を見る限り、泣いてくれたっぽい。いやー、この一年誰よりもぼくの頑張りを見守ってくれていたし、ぼくがピンネタライブをやりたいと言ったら全力でサポートしてくれて、ほんとにお世話になりましたもんね。ありがとうございます。報われてよかった。そして、おめでとうございます。久々に担当芸人がファイナリストになりましたよ。

吉住も決勝に行った。これは、めちゃくちゃ嬉しい。そんでもってさすがだよ。あんたは。これで決勝の楽屋で喋ると言う夢が叶いそうです。あとは個室じゃないことを祈るばかり。本番はころしあいをしよう。

落ち着いてからスマホを見ると200件を超える通知がきていた。芸人や家族や久々の友達から。いや、これってめちゃくちゃファイナリストじゃん。俺。芸人始めた頃の俺が聞いたらぶったまげるんだろうな。10年後、Rー1のファイナリストになるってよ。

相方にも報告した。二人とも祝福してくれた。いや、よかったよ。何度かお抹茶が解散を口にして二人を困らせているけどさ。トリオを諦めないでよかった。トリオを諦めないでくれてよかった。トリオがなければ、こんなにお抹茶全開でピンネタでやれないもん。矛盾してるようだけど、トリオのネタがしっかりしてないと、こんなに自由にピンネタできないんですよ。もし、自分がピン芸人だったら、もっと守りに入ったネタやってると思う。トリオがあって本当によかった。ありがとう。これでトンツカタンを勢いつけられますように。少しだけ恩返しができたかも。

他にもたくさん。たくさん。ここに書ききれないほどたくさんの人からお祝いの連絡をいただいた。みんなに、みんなが関わってくれたおかげで、ここまでこれましたよ。と。ありがとう。と。お祝いの連絡をくれた全員をまとめた大きなライングループを作って、一言だけお礼を言って退室したい。

とまぁ、こんな感じでものすごい達成感で満たされている。この記事を書いている決勝前日の今までずっと浮かれ続けてる。
この浮かれも明日で終わるのかと思うとかなり寂しい。

正直な話。お抹茶は、決勝に行けたのが嬉しすぎて優勝と言うのは頭になかった。お抹茶のピンネタが最高の舞台でやらせてもらえて、しかも大先輩に見てもらえる。それで、満足すぎると思っていた。

でも、会う人会う人。応援してる。優勝できる。気負わずに楽しんできて。と言ってくれる。ありがたいよ。嬉しいよ。そんなこと言われたらさ。やるしかないじゃん。もう優勝するしかないじゃん。面白すぎるピン芸人たちを全員倒して優勝するしかないじゃん。任せてくれ。それに1番見たいだろ。ピン芸人でない、トリオでもブレインでもないやつが突然、ピンの大会で優勝するところをさ。だから、みんなお抹茶を見てていてくれ。そして、今までで一番のありがとうを言わせてくれ。


お抹茶

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長いよな、一回の記事が。ほんとはさ、準決の前日にAマッソさんyoutube撮影に呼んでもらって嬉しかったとか、そのあとは、かーしゃさんのライブに言ってエールもらって気力が漲ったとかも細かく書きたかったんだけどさ。決勝進出決まった後の密着取材で入った居酒屋のお通しのきんぴらごぼうが、小鉢からはみ出るくらいの特盛だったことかも書きたかったんだけどさ。とにかく長いのよ。まぁ、そんなこともありつつ。今日は気心の知れたお兄さん方に決勝に臨むためのメンタルを整えてもらうために激漫に出てきます。読み返して気がついたけど、一番のありがとうを言わせてくれって、ちょっとジェロニモっぽい言い方になってしまっていた。去年のR-1を一緒に戦った戦友だから、その思いが乗っかったのかも。ということにしてくれ。若干拝借します。

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