いってらっしゃい

「再来週、そっちで用事続くから週末から2泊3日を2回、中1日で帰るね〜」

と連絡が来たのは先週。
俺の出張が終わって帰ってきた日だ。
そこから行きたいところ、食べたい物のURLが次々と送られてきたのだった。 

一緒にいる時間なんて、本当にあっという間で。彼女が行きたがっていた水族館、俺が行きたかったオムライス屋さん、たまたま通りすがったら「タピりたい!」と言うもんだから立ち寄ったタピオカ屋さん、急遽行くことにしたらスコアボロボロのボーリングも、「外食続いたから…」と俺の分だけ作ってくれた晩ごはんも全部。彼女がいるだけで、心がこんなに暖かくて癒やされた気持ちになるんだよな。きっとこれは愛しい以外の何でもない。


帰り際に想定どおり涙ぐんだ彼女を見て、
「泣いてる子はお見送りにすら行きませーん」
って毒づきながら慰めたけど、実は俺も泣きそうだったし、【少しでも早く、帰らせなくていい環境にしよう】と心に決めたのだった。

新幹線駅まで送る電車の中で彼女は俺の手を離さなかった。前に「外でもくっついてられるし、落ち着くの。」なんて言っていたっけ。
涙をこらえて俺の手を握る彼女はやっぱり【幼稚園児】のようで、帰すのですら心配である。

「もー、着いちゃったじゃない!あっという間すぎなのよ!」
と口を尖らせながら無茶なことを言う彼女がとても切なかった。
新幹線改札の前で立ち止まって、
「ほんとにほんとに、たくさんありがとう」
なんて彼女は言ったけど、俺の方がありがとうなんて返すのも野暮だから。
その代わりの一言に、たくさんの想いを込めて。

「いってらっしゃい、気をつけて行っておいで。」


彼女は多分、泣いていたんだろうな。
新幹線に乗った彼女から
【ティッシュもハンカチもないのに、大泣きで大変。助けて】
と連絡が入る。
やっぱり最後まで幼稚園児な彼女だった。

おわり。


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