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『偏好演芸日記』#3 令和6年2月篇

っしゃァ!
まくら無しで2月篇いくぜ!

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2024.02.02
文春落語会 二人会 夜の部
於 渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール

「やかん」小太郎【前座】
「時そば」喬太郎
「三十石」市馬
ーお仲入りー
「対談」市馬・喬太郎
「明日に架ける橋」喬太郎

落語協会百年記念と見えて、協会会長の柳亭市馬師匠が夜の部、副会長の林家正蔵師匠が昼の部のゲストというメモリアルな日。

会場に入る前にスタッフさんから謎の小瓶を頂く。見ればラベルに“赤兎馬”とある。気になって調べてみると、なるほど喬太郎師匠と文春にちなんだ御土産ということらしい。

喬太郎師匠が推すお酒。そういう酒をわたしも推したい…。

そんな芋焼酎片手に会場へ。

桟敷席があるホールって珍しいんじゃないかい、と思い、チケットは舞台上手側の壁寄り桟敷席を取った。桟敷にさらに椅子なので目線がだいぶ高くなって見やすい。

演目は、のっけから喬太郎師匠の『時そば』で蕎麦が食べたくなる。すする出汁の湯気すら見える芝居に舌鼓を打つ。

市馬師匠の落語を拝見するのは初めて。相も変わらずApple Musicでいくつか高座音源を聴いて、お声だけは予習していたが、生で聴く市馬師匠の芝居と歌は音源以上に凛と響いて美しい。

市馬師匠と喬太郎師匠の対談は、多分とても価値のある会話の連続だったと思う。協会の歴史、歴代会長の逸話、現会長・市馬師匠のお話…。自分の落語知識が浅すぎて拾い切れないが、知らない世界を少しずつ知ってゆく過程が楽しい。

そんな対談を受けてトリの喬太郎師匠は『明日に架ける橋』。
還暦を迎えたサラリーマンのこれからと、百年という節目を迎えた落語協会が、どことなく重なる。温かい一席で大団円。

2024.02.03
神田愛山・宝井琴調 〜冬の会〜
於 らくごカフェ

「爆烈お玉」愛山
「細川の茶碗屋敷」琴調
ーお仲入りー
「野狐三次木っ端売り」琴調
「就活物語」愛山

久しぶりの講談。

毎度お馴染みのApple Musicにて聴き込んでいた宝井琴調先生と、伯山先生のラジオや神田鯉花さんのSNSで度々お目にかかる神田愛山先生という、個人的に気になっていた両名の二人会。

開場時間まで、大学時代の友人と神保町を散策。中古文学に精通する彼女と古書街を回り、知っている論文著者の名前を見つけてはしゃぐというマニアックな愉しみ方をする。

ぱらぱらとめくって面白そうだったので、露店本屋で売っていた『江戸の銭勘定』(山本博文 著)を衝動買いし、らくごカフェへ。

風の噂で「愛山先生はあまり張り扇を叩かない」と聞いていたが、確かにあまり叩いていなかった気がする。…もしかしたら1回も叩いてないかも。

その関係性を「トムとジェリー」と称した愛山先生と琴調先生の仲が素敵で、こちらまでほっこりする。さらに琴調先生のかけられた話が2席とも良い話で、またまたほっこりする。存分にほっこりしたところで愛山先生の『就活物語』。ひと笑いしてお開き。

2024.02.15
ノラや30周年記念落語会
於 座・高円寺2

「浮世根問」ひろ馬
「お血脈」小せん
「のめる」文蔵
「蕎麦の隠居」扇辰
ーお仲入りー
「たいこ腹」菊之丞
「すなっくらんどぞめき」喬太郎

なんだか、新参者がひとりでヒョコヒョコ行くような雰囲気ではない落語会にばかり参戦している気がするなぁ。

時間が経った今でも鮮明に声が蘇るくらい、扇辰師匠の『蕎麦の隠居』は衝撃的だった。繰り返される蕎麦屋でのやり取りに、この後トンデモなサゲが来るんだろうなという期待感。そんな中で、確かにヒートアップしていく蕎麦屋の主人の芝居に思わず笑ってしまう。扇辰師匠のお声がよく通る。いかにも落語なサゲが良い。

喬太郎師匠はまくらで現代の池袋を縦横無尽に語り尽くし会場を爆笑で爆発させた後、何事もなかったかのように「旦那、」と入り「古典なんですか!」。この流れで古典落語に入る奇天烈な展開に笑いを堪え切れないでいると、今度は登場人物の口から「池袋」という現代すぎるワードが。「古典じゃなかったんですか!」に、もう腹筋崩壊。
噺は終盤。強引にキスを迫る男と嫌がる女の芝居の勢いで、「こうやって使うものじゃないのに!」と言いながら釈台に抱き付いていた喬太郎師匠が忘れられない。
釈台もびっくりな夜。

2024.02.16
日本講談協会 定席 講談新宿亭
於 新宿Fu-

「熱湯風呂」梅之丞【前座】
「真田幸村大阪出陣」紅希【前座】
「妲己のお百」陽乃丸
「細川三代 出世の松飾り」松麻呂
「出世の富くじ」紫
「お富与三郎 HipHop ver.」紅
ーお仲入りー
「醍醐の花見」紅純
「二度目の清書」伯山

講談だけの会に行ってみたいなと思って参加。キャパ70名くらいだったような。伯山先生の2番弟子・青之丞さんが受付ともぎりをして下さる。寒いのに、掛け流しの着物で。前座さんは凄い。

出囃子無しで次々に講釈師が出てくる新鮮さを楽しむ。講談にも色々な話があって面白い。

中でも、紫先生の『出世の富くじ』が印象的だった。ただでさえ貧乏な男・井上半次郎が、困っていた小僧に人助けでお金を渡してしまい、その後なけなしの金で買った富くじが大当たりして喜ぶが、おかみさんから「贅沢したら子どもが立派に育たない」「富くじなんて焼いてしまえ」(意訳)と言われ、大当たりの富くじを焼く…というまさかの展開。

え、そうくるか、と興味深く聴いていたら、なるほど講談らしい綺麗な終わり方。この話は『無欲の出世』とも言うらしい。身につまされる思いだ…。

「ネタ出ししていたことを昨晩まで忘れていた」と仰った伯山先生は"年に一度しかやらない"という『二度目の清書』。
講談では大石内蔵助の妻の名前が“いし”と著されるが、旧姓が“いしづか”で、嫁ぎ先が“おおいし”で、名前が“いし”。ストーンヘンジすぎる。それはそうとして、話はとても切ない。内蔵助、本当にお前というやつは…。

自分の、講談を聴く耳がまだ全然育っていないせいか、言い立てには振り落とされないようについて行くので精一杯。
いつかまた聴くときには、内蔵助率いる赤穂義士の想いと姿を、すぐに描いて解るようになりたいもんです。

2024.02.19
神田伯山PLUS
於 イイノホール

「熱湯風呂」梅之丞【前座】
「出世浄瑠璃」伯山
「芝居の喧嘩」琴調
ーお仲入りー
「雨夜の裏田圃」伯山

12月ぶりの『伯山PLUS』。ゲストは琴調先生。愛山先生との二人会でも思ったが、琴調先生のお着物が可愛い。

前座・梅之丞さんの『熱湯風呂』から、伯山先生の『出世浄瑠璃』、琴調先生の『芝居の喧嘩』と、どんどん加速する先生方の芝居と笑いが沸騰する会場が楽しすぎる。賑やかで、ライブハウスみたいなアツさ。
そんな前半を受けての『雨夜の裏田圃』。高低差と緩急で心が揺さぶられる、講談ジェットコースターみたいな日。

2024.02.20
噺小屋銀座スペシャル!如月の三枚看板
於 銀座ブロッサム 中央会館

「初天神」まんと
「甲府ぃ」扇辰
「スナックヒヤシンス」文蔵
ーお仲入りー
「錦木検校」喬太郎

文蔵師匠が「スナックヒヤシンス」を口演して下さった伝説とも言えそうな夜。

前の扇辰師匠は高座に上がるとまくらを振ることなく噺へ。おっ、とすぐに惹き込まれる。先日の『蕎麦の隠居』のときも思ったが、こんなに聴きやすい落語があるのか…と思う。ド素人の感想になるが、これがメチャクチャ洗練されているということなのかもしれない。
入りからサゲまでしっかり楽しい。「こうふぃ〜」が好きすぎたので、ぜひ明日から使っていきたい。

1月に寄席で拝見したきく麿師匠の高座で知っていたが、文蔵師匠が柿ピーを食べ始めたあたりで吹き出す。

噺自体はもちろんのこと、文蔵師匠が口演するギャップが相乗効果になって会場はお祭り状態。「キモーイキモーイキモーイ」と踊り、「恋のハンクラッチ〜」と歌う。この噺、出てくるフレーズが全部面白いのがずるい。「ビビクリマンボ!」が便利すぎるので、ぜひ明日から使っていきたい。

仲入りを挟み、喬太郎師匠は人情噺『錦木検校』。なぜか父親に疎まれ、いわゆるお坊ちゃまでありながら家を出て下屋敷で寝食をする角三郎と、彼に気に入られた、話し上手で腕も確かな按摩・錦木の友情が涙を誘う。なんだかちょっとだけ青春な気分もお裾分けしてくれる。

しっとりと、静かに短編映画のような時間を味わって帰宅。

***

会場でお酒を貰い、講談のジェットコースターに乗り、古典に新作に落語を浴びた2月。バレンタインデーも忘れるほどに光陰矢の如し。

バレンタインデーといえば、小学生の頃、弟のために家までチョコを持ってきた女の子がいた。照れてるのか、ツンなのか、分からないがとにかく出たがらない弟に代わって自分が対応。弟に「女の子がチョコ持ってきたよ」と言ったら「いらない」と言われたので、間髪入れずに「じゃあもらうわ」と、その場で自分が食べたというカカオ100%な思い出がある。

あと味が悪いようで…


それでは、また次回。

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