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大宮見取図#15 大宮を応援する気持ちを、旗に込めて。

●辻旗店 
  辻 益行(つじ ますゆき)さん

 「辻旗店」は、その名の通り、旗屋さん。
創業なんと1916年という、100年以上大宮の地を見てきた超ベテラン店舗さんです!
「旗」はそこまで生活に馴染みがなく、イメージがつきにくい人は多いかもしれません。
ところが、辻旗店では国旗や市町村旗から、毎年の氷川神社の祭礼旗、そしてJリーグの大宮アルディージャの大旗などさまざまな旗を手がけており、聞いてみると「あぁ、なるほど!」と思えるはず。
 
伝統産業としてさいたま市でも認定されている辻旗店さん。ここ大宮で大正時代から続く「旗」事業の真髄、そして歴史を刻んだ辻旗店の建物に迫ります!


旗のなびき方が違う。

お話をうかがったのは、辻旗店の店主である辻さん。
 
辻旗店では冒頭ご紹介の旗をはじめ、横断幕や会社の旗、学校の旗などあらゆる旗を製作。
近年では、氷点下80度の南極で耐えられる旗や、チョモランマの山頂でも掲げられる日の丸国旗など、その技術は今日も進化し続けているそうです。
 
辻さん「特徴的なのは、綿で作る旗です。綿の染めや仕立てには熟練の技術が必要なので、誰もが簡単にできるものではありません。天然素材にこだわって丁寧に手染めされた旗は、色味や風合いなど、やっぱり出来がいい。大宮区役所の前にある国旗や埼玉県旗、さいたま市旗はウチで手がけました。なびき方が全然違うので、前を通ったらぜひ見てほしいですね」
 
 
旗の「なびき方」が違うとは、すごいプロフェッショナル! 次に区役所前を通る際は要チェックですね。
 
辻さん「旗の補修、修理もしています。使い捨てはせず、お客さんの旗が古くなってほつれていれば直してあげるんです。学生が使う応援団旗や、そのベルトの皮の補修なんかも行っています。学生さんは何万円もするようなものは買えないですからね」
 
 
やさしい……、そしてとてもSDGsな事業ですね!
ただやはり、こうした昔ながらの丁寧な仕事は少しずつ減ってきてしまっているのだとか。
 
辻さん「もともとは東京で刺繍専門旗屋をやっていましたが、祖父は大宮で創業しました。戦時中は戦地出世旗、大宮国鉄工場の団体旗、皇室祭事の旗なども手がけていましたね。今でも綿の旗は自信をもって取り扱っていますが、最近はほとんどがポリエステルなどの化学繊維を使用した旗の販売になっています」
 
 
時代の流れと言えばそれまでなのかもしれませんが、なんとなく寂しいですよね。
 
こうした伝統産業は後世にぜひ残していきたいですね

大宮アルディージャを通じて、地域を応援。

地元のプロサッカーチーム「大宮アルディージャ」の旗製作も多く手がける辻旗店。
その話を振ると、予想以上の熱い語り口で辻さんの「アルディージャ愛」があふれていました。
 
辻さん「Jリーグがスタートした1993年からサッカーを応援しています。その最大の魅力は、地域連携です。Jリーグの理念などを見ると、地域に根差すことをとても大切にしていたんです。当時スポーツでそういった動きは他に聞いたことがなかったですし『地域のためになるなら』と、当初から熱心に応援していました」
 
 
Jリーグが始まったばかりの頃は浦和レッズを応援していたという辻さん。1999年に大宮アルディージャのJリーグ加盟が決まると、より地元に近いチームに熱を入れて応援するようになったのだとか。
 
辻さん「特に加盟当初は、チームが地域に入り込むような活動をすることが多く、こちらも熱心にサポートしていましたね」
 
 
店内を少し覗くと、いくつかの綿の旗とともに大量のオレンジ(大宮アルディージャのメインカラー)の旗が目につきます。
 
辻さんにとって大宮アルディージャの応援は、大宮地域を応援することと同じ意味を持つように感じられました。
 
 
2023年現在はJ2で苦戦をしいられている大宮アルディージャ。
早くJ1の舞台に戻ってきてほしいですね。がんばれ、アルディージャ!

古きものには、意志が宿る。

辻さんに、改めて大宮の街としての魅力を“サッカー以外で”お聞きしました。
 
辻さん「氷川神社はもちろんですが、駅との間の街並みを見てほしいです。その昔、ウチの前の通りは片倉新道※と言って、商店街があったり旅館があったりで賑わっていました。今は少し静かな通りになってしまいましたが。昔の雰囲気をイメージできるとしたら、この辺だと、うち(辻旗店)や斜め向かいにある西原小児科さんですかね。この建物はずっと昔から大宮の街とともにあるんですよね。以前氷川神社の宮司さんに『神社には華やかさは不要で、厳かで、神宿る木々さえあれば、それで神社なんです』と言われたことがありましてね。なので、所々に残る一見古いだけの建物や街並みにも、ただ古いだけでなく、それをそのまま残してきた人の意志みたいなものを同時に感じていただけると、より魅力的に見えてくるはずです」

※片倉新道…片倉製糸工場と寮とを行き来する女工さんや職工の方々で人通りが激しい通りだった。
 
 
大宮を見て歩く際のポイントとして辻さんは「最近は氷川参道の辺りにいくつかいいお店が出てきているので、そういったお店で休憩しながら歩いてみてほしい」と教えてくれました。
 
忘れてはいけない、辻旗店さんの店構えもこの通りのレトロ感を後押ししています。正面から屋根が見えない建築は、昭和30年代の流行りだったとのこと。店の壁は竹組み土の壁、「雨戸からよく見えるよ(笑)」と辻さん。玄関はいると土間、そしてカウンター。建て替える前は、カウンターの先の板場が手染めの作業場だったんだそうです。そこで手染めの道具を見せていただくと、昭和30年代の新聞紙の型が!先代から引きついだ1点しかない型なんだそうです。今でも手染めの際はこちらの道具を使用しているとのこと。こんなところにも大事に使い続ける精神が垣間見えてきます。
 
手染めの綿の旗づくりをずっと続けてきた辻さんならではのお話に、胸を打たれます。

 最後に改めて店奥を見せてもらうと、年代物のミシンや旗の収納箱など、歴史を感じるものがたくさんあることに気付きます。
一方、鮮やかなオレンジを基調としたサッカーチーム応援用の最新の旗も並んで置かれています。
 
この光景は、まるで新旧混交の大宮の街を表しているかのように感じられました。

 大宮を訪れる際は、旗に、古い街並みに、思いを馳せてみるのもいいかもしれませんね!


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