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大宮見取図#16 本を通じて人をつなぐ。「シェア本棚」が話題のユニーク本屋!

●CHICACU Design Office & Bookstore ~本と喫茶 夢中飛行~
  直井薫子(なおい かおるこ)さん

氷川参道の二の鳥居の入り口近く。
ここに「シェア本棚」というユニークな取り組みをしている本屋「本と喫茶 夢中飛行」があります。
 
シェア本棚とは何なのか、そしてどんな想いで本屋が運営されているのか。
 
店主の直井さんに、お店の、そして本の魅力をお聞きし、その想いに迫りました!


他人の本棚を覗ける「シェア本棚」

ただでさえ、個人がセレクトする本屋はその特徴が色濃く出るもの。
そこにさらにシェア本棚なるものを取り入れた夢中飛行さんが、面白くないはずがありません!
 
 
お店には、新刊棚や企画棚など同じようにシェア本棚が並ぶわけですが、そもそもシェア本棚がどんなものかについてお聞きしました。
 
直井さん「1棚1オーナー制で、月額費用を支払えば誰でも本の貸し出しや販売ができる仕組みのことを言います。現在約80人のオーナーさんが、自由に棚を使って本を並べています。本屋の一部場所貸し、といったイメージでしょうか。ジャンルは見事にバラバラで、それぞれのオーナーさんの個性が如実に出ますね。他の本屋では見られないバックナンバーに出会えたり、オーナーさんの本の並びを見て『この人こんな人なんだろうな』と想像したりするのもひとつの楽しみ方です。人の本棚を覗くことって、すごく面白いことだと思うんです」
 
 
よく「本棚を見れば、その人がわかる」と言いますからね。
 
並ぶ本は文芸やコミック、絵本、アート本など本当にバラバラ。
それぞれの棚にオーナーのプロフィールが書かれており、それを眺めていくだけでも面白い。

 直井さん「でも、ただシェア本棚を置いているのではなく、これを通じて大宮の本好きコミュニティを形成したいと思っているんです。そのためには、気が向いたときにふらっと入りやすい雰囲気をつくることも大切にしています。本を媒介にいろんな人がゆるくつながることができる空間……そんな本屋でありたいですね」
 
誰でも参加できる本を通じたイベントの開催をはじめ、次々と新しい企画を実施していることからも、直井さんのそこにかける熱意が感じられます。

 図書館の跡地に、ひと目惚れ。

本屋の店主として精力的に活動する直井さん。
その原動力となっているものは何なのか。直井さんの生い立ちからお聞きしました。
 
直井さん「生まれは東浦和で、就職は東京の出版社でした。働きはじめて何年かすると、ローカルメディアが注目されてきて、編集をしている友人がそんなメディアをつくりたいとのことで、葛飾区のチームに入れてもらいました。友人が編集、私がデザインを担当し、たくさんの人に話を聞いては誌面に落とし込む作業をしました。そのメディアを機に、多様な人と人とがどんどんつながっていく様を目の当たりにして『これを地元でつくりたい』と感じたんです」
 
 
続けて直井さんは、地元への想いを口にします。
 
直井さん「あるとき、自分の故郷にきちんと向き合ったことがないと気づいたんです。それで見沼田んぼを見渡してみると『ああ、やっぱりここ好きだわー』と感じました。それで地元に戻ることを決めましたね。最初は北浦和にいい物件があって、そこに住みながら小さな本屋を始めました」
 
 
大宮に来ることになったのは、ある人の誘いが決め手になったとのことです。
 
直井さん「本屋を始めて少ししてから、ハムハウスのオーナーの宮本さんに声をかけていただいて。旧大宮図書館の跡地を活用する施設『Bibli』で本屋をやらないかということでした。本に携わる者として図書館が活用できるのは魅力的でしたし、空間を見た瞬間ひと目惚れして、すぐに決めました。それに、大宮はすごく栄えていて面白い人も多いのに、なぜ書店が少ないんだろうと思ったことも決め手のひとつです」
 
 
Bibliでは新刊書店をやる選択肢もあったようですが、考えたすえ、シェア本棚にチャレンジしてみたそうです。

直井さん「売り上げ的な理由もありましたが、コミュニティデザインを学んでいた時の同期と話していたらシェア本棚をやっている人がいることを教えてもらって。北浦和の書店でも販売以外に信頼できる人には本を貸してもいたし、まず大宮の人々の本の読み方を知りたいというのもありました。総合的に考え、やってみることにしたんです」
 
 
そして現在はBibliから出て、近くの物件に移転。
もちろん、シェア本棚は継続中です!

本を読む人もアーティスト。

あらためて、直井さんに本の魅力を聞いてみました。
 
直井さん「たまたま来たお客さんに『本の前だと肩書きとか役割がない自分でいられる』と言われたんです。自分の好きなことや悩みにきちんと向き合える。それが本の大切な価値のひとつだと思います」
 
 
そしてその話は、そのままシェア本棚の魅力へとつながっていきます。
 
直井さん「以前までは本を書く作家さんだけがアーティストだと思っていたんです。ただ本屋を始めてから、本を選ぶという行為そのものも表現だと感じるようになり、つまり本を読む人もアーティストなんだと考えるようになりました。シェア本棚はまさに、オーナーさん一人ひとりのギャラリーなんです。例えば直接話すことが苦手な人でも、本棚を通してなら時間をかけて相手の価値観を理解することもできます。そんな質の高いコミュニケーションを生み出す点も、本、そしてシェア本棚の魅力だと思います」
 
 
今後もまだまだ面白いことをしていきたいと話す直井さん。
最後に、これからの展望をうかがいました。
 
直井さん「大宮で、よりいろんな人に出会える場所をつくりたいと思っています。例えば、見沼田んぼを借景にした本屋もそのひとつです。目の前に広がる自然、反対側を見れば都市、そしてジャンルにとらわれない本の数々。このトリップ感のなかで人と人が出会うことで、また新しい何かが生まれるような気がしています。本と人が自然と集まってくるような空間がたくさんできたらいいなと思います」

本の魅力に加え、本を通してこんなことがやりたいと熱く話す直井さんは、ものすごく輝いて見えました。
 
これからの大宮を、そしてさいたまを盛り上げていくのに、欠かせない人物であることを感じさせてくれた取材になりました!
 

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