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惨めな1日

フレックス制度を導入している弊社では出勤時間は個人の裁量に任せられるが、今日はちょっと早く行ってお仕事頑張っちゃお〜な気分だったので少し家を早く出た。

早めにお弁当も詰めて、早めに身支度を終わらせたため、少しゆとりのある気持ちで駅へ向かう朝8時。足取りもゆったりと、ぼんやりと歩くと、ファミリーマートの店員が割引券を配っていた。朝から大変ね。

お得なものには目がない拙僧、とりあえず受け取り地下鉄の階段を降りる。時計を見ると、電車が来るまであと2分。あれ?余裕を持って出たはずなのにな?と思いながら、気が遠くなるほど長い階段を降りる。この地下鉄…深いッ…

半年経っても慣れないパンプスをパカパカと靴擦れさせながら、急いで階段を降りる。降りきったらダッシュだな、と一寸先の地面を見やる。

カツン、と1番下の段を降りた右足の音が鳴った時に、号砲が鳴ったかのように走り出す。4、5歩走ったところで、裾の余ったパンツにパンプスの爪先が引っかかった。

あ、と思った瞬間に地面は目の前。うわ〜〜転んだ。手のひら痛い。膝痛い。なにより周りの目が痛い。走って転んだのなんていつぶりだろう。立ち上がるのが恥ずかしくてたまらなかった。

だが電車が来るまであと1分少々。たくましい私はすっくと立ち上がる。左手前におじさんサラリーマンが気まずそうな顔でこちらを見ている。助けようとしてくれたのかもしれない。にへら…と笑って「スミマセ…ヘヘ…」と言ってまた走り始める。あー恥ずかしい。はっきり喋れよデコ助野郎。


恥ずかしさのあまりおじさんの元から早く立ち去りたかったため、私の走りは加速。無事電車に間に合った。

滑り込んで乗り込んだ電車のドアのガラス部分に私が映る。前髪はボサボサ、もうファンデーションはヨレ始めている。情けなくて惨めだ。



昨晩から自分が惨めでしょうがなかった。

一昨晩、恋人は「高校の友達と飲んでくる」と言って出かけていた。何かルールがあるわけでも、私が切願したわけでもないのに、どんな予定の時も前もって連絡をくれ、マメな恋人だ。

私は「楽しんできてね」と伝え、飲み会が終わる頃には自分は寝ているだろうと思ってベッドに入り、案の定寝た。

そして朝LINEを見ると酔った恋人からポロポロとメッセージが来ていた。「終電の1本前で帰ったよ」「寝ちゃったかな」

可愛らしいなあ、と思ったのも束の間、他のSNSでの彼の投稿を見かける。「〇〇ちゃんの誕生日の飲み会だったのに俺が潰れた」とあった。
あれ?高校の友達と飲んでたはずだよな?とモヤつきが現れる。

きっと高校の友達と飲んだ後に大学の後輩の誕生会に参加したのであろう、ということは想像がついたが、それは果たして終電で帰ったことになるのか?高校の友達との飲み会は報告してなぜ後輩の女の子の誕生会は報告しないのか?時間帯から憶測するに誕生会にいながら私にLINEを寄越しているが、これは罪滅ぼしの意識からなのか?


そんなこんなでモヤモヤと葛藤する自分が気持ちが悪く、惨めな気分になった。

その癖、そのモヤモヤを相手に伝えることは怖がり、冗談半分で誕生会について触れ、彼もまた冗談半分で謝りながら返すのであった。


そもそも、なににモヤモヤしているのかを追究してみた。知らない女の子がいる飲み会に行かれるのは嫌じゃない。私の知らないところで潰れられるのも嬉しくはないが、禁止するほどのことではない。嫌なのは、今までは詳らかに報告してくれていたものを、突然なくされたことだった。

それまであったものがなくなると嫌でも違和感を感じる。今までとは違うのか、と勝手な想像が膨らむ。

しかし私は報告を望んだこともなく、取り立ててお礼を言ったこともないから、それがなくなったところで異議申し立てをする権利もさしてない。



となると、自分が勝手に相手に期待して、その期待を無意識的に押し付けていることが問題なのだった。相手の無防備な善意を享受して、そこに胡座をかいて、それが享受できない時に一丁前に不満を抱く自分が問題なのだった。

1人でいる時はそのようなことは容易く思考ができた。他人に期待するから怒りが湧く、悲しみが滲む、失望する。期待しなければそんな必要がない。だから必要以上に期待しない。

分かっていたはずなのに相手ができてしまうと私はあまりに傲慢で強欲で盲目で、夢みがちなのだった。惨めなことこの上ない。



相手に勝手に期待して勝手に失望するのは時間の無駄なので、それであれば期待を裏切られないくらいに自分が魅力的になってやろう。

そう思い立って筋トレを始めようと床に体をセットしたが、今朝擦りむいた膝が擦れて痛いのでやはり断念する。


かっこ悪い1日だ。

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