【連載小説】神様に何を誓ったか? 第14話

「一型糖尿病については、世間ではあまり知られていないと思う。一般的に糖尿病と言えば、大体の場合は二型糖尿病を指すから。二型糖尿病は食生活等の環境と体質との組み合わせで発症すると考えられていて、四〇歳以上で発症する事が多いみたい。糖尿病患者のうち十人に九人以上はこの二型糖尿病らしいよ」

 彰は頷きながら、紗椰の発する言葉の一つ一つを取りこぼさないように必死だった。

「じゃあ、一型糖尿病とはどういう病気なのかっていう話なんやけど。一型糖尿病は、発症の原因が正確には分かっていなくて。何らかの原因によって膵臓の機能が破壊されて、インスリンがほとんど分泌できなくなる。発症時期は様々だけど、私の場合は六歳の時に突然発症した。そのときからずっと、一日に四回インスリン注射を続けてる。これは絶対に止めることはできなくて、死ぬまでずっと、毎日続けないといけない。インスリン注射をしなければ、私は死ぬから」

「⋯⋯その病気は、治らないの?」

彰は、答えを聞きたくない質問をした。

「うん。治らない。少なくとも、今の医療では」

紗椰は、二ヶ月前とは違った。彰から決して目を離さない。

「一生付き合っていかないといけない。血糖値のコントロールがちゃんとできなければ合併症を引き起こす危険もある。低血糖になって、意識を失うこともある。その代わり、血糖値のコントロールを上手くやっていれば、普段は健常者とほぼ変わらない生活ができる。仕事もできる。子供だって産める。ただ、人とは違った命の危険があって、毎日のインスリン注射が必要なの」

ひと吸おいて、紗椰は言った。

「一緒に暮せば、迷惑をかけると思う。合併症で、失明するかもしれない。彰には迷惑をかけたくない。でも⋯⋯」

「紗椰」

彰は、紗椰の言葉を遮った。

「一緒に暮らそう」

紗椰は目を大きく見開いた。

「俺だって今健康でも、将来どうなるかなんて分からない。明日何かの病気に蝕まれるかもしれないし、大怪我して手や足が使えなくなるかもしれない。誰にだって死ぬリスクはあるし、誰にだって、誰かの世話になることがある。だから、紗椰が一型糖尿病でも、俺は気にしない」

 気にしないというのは、嘘だった。一生治らない病気のことが気にならない筈はない。不安は大きい。だがそれ以上に、彰は紗椰の傍に居たいという想いを強めていた。自分が紗椰を守らねばと思った。

 身の程も、わきまえずに。

「ありがとう⋯⋯」

 紗椰は瞳を潤ませた。すぐに立ち上がってお手洗いに行ってしまったから、涙がこぼれ落ちるのを彰は見なかった。

 戻ってきた紗椰は、いつもの笑顔だった。

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