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物書きVTuberが同人誌を作ってデザインの楽しさに目覚めるまでの話

お久しぶりです、思惟かねです。
noteには書いていなかったのですが、実はこの1年、私は『Platform』という同人誌の編集(誌面デザイン)をやっています。隔月刊、つまり年6冊のペースで40Pほどと、同人としては相当なハイペースです。

1年間で刊行した6冊+1周年記念特別号

『Platform』はメタバースを題材にした写真旅行誌です。
VRChat、cluster、NeosVR、そして現実世界…4つのメタバースを、各号1つのテーマに沿って横断し、フォトグラファーが切り取った美しい風景と、ライターの旅情溢れる紀行文でワールドの魅力を読者の皆さんへお伝えし、旅へと誘う…そんなコンセプトの同人誌です。
フォトグラファー、ライターという肩書が表すように、製作は分業制で、編集長、校正者などを含む10人ほどのチームで製作をしています。私もまたその中で編集(エディトリアルデザイン)として、写真と文章を一つの誌面にとりまとめたり、表紙のデザインをしたりして、素材を一冊の本として仕上げるという、とても大事な役割を受け持っています。

Vol.2『幻の夏』 - VRChat/nagisa no machiより

そんなプロフェッショナリズム溢れる企画で、私が編集&デザインという大役を頂いているのは、ちょっと不思議な話かもしれません。
かつて私にとって創作活動とは一貫して「文筆」であり、かつてはブログが、昨今はこのnoteこそが私の本丸でした。それは文字と文字の連なりを紡ぐ営みであり、視覚的であり、より多次元的であるグラフィカルなデザインとは似ても似つかない領域です。
実のところ私はほんの2年前まで、同人誌を作るどころか、おおよそデザインと呼ぶべきものに携わったことさえもなかったのです。

それがどうして、デザインというまったく別の分野で活動し、同人誌のデザインをすることになったのか?『Platform』という企画がありがたくも1周年を迎えたこの折に、備忘録も兼ねて皆さんにお話できればと思います。


◆きっかけ:デザインの入り口

私が初めてデザインというものに触れたきっかけは何だったでしょう。学校で作ったPowerPointのスライド? noteのヘッダー画像? VTuberの企画のサムネイル?
けど、書籍のデザインに限れば、それは間違いなく2021年11月に頒布したバーチャルポートレート写真集『VVe』でした。

現実の風景の写真×バーチャルな存在である私たちを一枚の写真に溶け合わせるのが「バーチャル・ポートレート(Vポトレ)」という創作です。

『VVe』Theme.2「アンリアル」より

2021年に入って、これを一緒に楽しんでいたVTuberの仲間うちで「Vポトレをテーマに一冊の本を作ろうという」という企画が持ち上がります。
もとより企画ごとが好きで、この時もまとめ役を買って出た私でしたが、同人誌制作はもとより、真っ当にデザインもしたことがない私にとって『VVe』の編集は未知との戦いの連続でした。

そもそも私には書籍というものが、blogやTwitterのような媒体とどれほど違うものかということがピンと来ていなかったのですが。文章を書いて軽く装飾し、画像をインラインで入れればOKなWeb媒体と違って、書籍というのはページという限られた誌面の上で、無限の自由度でそれをレイアウトできます。背景やフレーム、ワンポイント、全て自由自在です。
普段私たちは意識していませんが、実は両者は福笑いで顔を作るのと、ゼロからイラストを書くのぐらいの差があります。

そして私は本を作るということが「デザイン」に他ならないと、その作業に取り掛かってようやく気づきました。

さて、いかにもな「デザイン」…ロゴや表紙、天地小口のデザインは、私にデザインのいろはを教えてくれた友人の櫻井マヒロさんにお願いすることができましたが、それ以外の(私が「デザイン」と理解していなかった)デザイン…エディトリアルデザインは、全て私の手に委ねられました。本を作るのに必須の組版(文章・画像のレイアウト)はもちろん、全体の構成、目次やあとがきのデザイン、誌面を鮮やかに見せるための色使いやワンポイントの制作など、完成度を上げるためにすべきことは山ほどありました

たまたまセールで買って持っていたDTPソフトのAffinity Publisherを初めて触り、フリーフォントや素材をお借りし、なけなしの画像編集の技術を駆使し、他の雑誌などを見様見真似で紙面を作っていったわけですが、とにかく試行錯誤の連続で、これには時間がかかりました
企画がスタートしたのが2021年の3月。タイトルが決まり、本格的な写真・文書制作が始まったのが5月。おかげでコンテンツ自体は7月頃にできあがっていたのですが…。

2021/7時点での草稿

この時点で原稿は(中身はともかく)デザイン的にはラフな組版だけが終わった状態で、半ば「白紙」もいいところ。これではとても世に出せない(と少なくとも当時の私は思っていた)ので、ここからなんとか「それっぽく」しようと数ヶ月あがいて…完成した原稿がこれです。

『VVe』コラム①「Vポトレの魅力を語る」完成稿

今見ると拙い部分も多い(そもそも印刷を意識したレイアウトになっていないという根本的な問題も)ありますが、ともかくそれなりに手の凝った誌面に仕上がりました。ここでは件のVポートレートで培った画像編集技術が大いに役立ちました。
ただ全編がこの調子で計80ページという初めての同人誌としては正気でない分量も相まって、編集には相当な時間がかかりました。作業を終える頃には秋も深まり、頒布は11月のComicVket2までずれこみました。

制作期間、実に半年。Vol.1と銘打ってはみたものの、「これをもう一度やるのはちょっと無理ぃ~…」というのが当時の正直な思いでした。

けれど、原稿を前に「どうすればもっと良く見えるかな」と頭を悩ませ、ああでもない、こうでもないと試行錯誤をしている時間は、私にとってすごく楽しい時間でもありました。
ただの文字と写真の集合だったものが、私の手で一つの誌面に整然と、美しく並んでいき、本来伝えたかった「何か」を一目で伝えられる力を得ていく。その作業は文筆や画像編集とは全く別のベクトルでクリエイティブで、とても刺激的な体験でした。

『VVe』コラム③より
ページ下のビジュアルは思惟かね作成

また曲がりなりにも10人近い参加者を自分の手で取りまとめ、デザインもある程度自分で手掛けた冊子を、とにかく世の中に送り出せたということは、今にして思うととてつもなく大きな価値があったと、今にして思います。
なにしろあくまで写真や文章といった素材の「まとめ役」でしかないエディトリアルデザインは、上達する上でもっとも大事な経験を積むこと、活躍の場を得ること自体が難しいからです。
(なのでこの企画で編集を任せてくれた参加者の皆さんにはとても感謝しています)

事実、ここでの経験が「」につながります。


◆メタバース写真旅行誌『Platform』との出会い

明けて2022年、4月のこと。

VVe』の刊行以来、半年ほど無聊をかこつていた私に、友人のニッソちゃんからDiscordのDMが届きました。いわく「同人誌を創刊したいと思っているが、編集ができる人がいなくて困っている」と。
言うまでもなく私に声がかかったのは、半年前に刊行した『VVe』をニッソちゃんが読んでくれていたためでした。
せっかく得た編集技術をどこかで発揮できる場があれば、と思っていた私にとっては渡りに船の話で、私は二つ返事で「お手伝いできたら嬉しい。ぜひお話を聞かせて欲しい」と返しました。

この同人誌が冒頭で紹介した『Platform』でした。
VRChatの中で初めて企画プレゼンを聞いた時のことは今でもよく覚えていて「いまはまだバラバラに分かれたいくつものメタバースを横断し、その間を行き来する流れを作り出す冊子になりたい」というその理念、コンセプトに強く共感したことが記憶に残っています。
人と何かをするのにもっとも大事で、しかしてもっとも得難いのは信頼(リスペクト)と共感だと私は思っていて、そこを最初からクリアしていた編集長ことニッソちゃん、そして『Platform』は、私にとって実に得難い機会でした。

私にとって一番の不安は、自分の能力でした。所詮一冊、なんとかかんとか同人誌を編集しただけの自分にそんな役目が務まるだろうか…という思いは正直ありました。
ただ「こんなまたとないチャンスは絶対に見逃したくない」という思いがそれを上回りました。それに私の経験上、能力というのは多かれ少なかれチャンスの後からついてくるものでした。

そこからトントン拍子に話は進み、無事デザイナー(編集)の立場に収まった私は早速デザインに着手。5月頃には表紙と全体デザインの構想を始めていました。ゼロから一つの冊子を作り出すとあって、やるべきこと、考えることはたくさんありましたが、本当に楽しい時間でした。

まずは表紙とロゴ(VI)のデザイン。これが最初期、5月頃のデザイン案です。

2022/5頃の表紙案

当時は「ぷらっとふぉ~む(仮)」という名前でプロジェクトが進んでいましたが、この時点でデザイン案③(右上)をベースとして、正式名称が英字の『Platform』に決定。これをブラッシュアップしていき、7月頃には完成形に近いデザインができあがります。

メタバースの様々なプラットフォームをつなぐ旅行誌」というコンセプトの下、ロゴのベースラインを駅のプラットフォームに、文字を乗客に見立てています。矢印は未来を目指す列車の進行方向。 基線とクロスしたfの文字はクロスプラットフォームを暗喩している…そんな意匠です。

そしてもう一つの難題が、誌面のデザイン
デザインのもっとも重要な仕事は、写真や文章といった本来バラバラで無関係(に見える)要素を、読み手の理解を促すため、あたかも一つの意味ある結合体のように見せることだと思います。
そのため、デザインの背後には共通のコンセプトやモチーフがあるのが望ましいですが、この点『Platform』というのは当初からコンセプトが練られた企画だったので「」そして「鉄道」というモチーフに至るのに時間はかかりませんでした。また何号も続けて刊行することが前提だったので、デザインは使い回しが利くシンプルなものに。
そういった考えの下、6月頃にできあがったのがこのデザイン案。これはほぼ現在に至るまで小修正を経つつ継承されています。

2022/6頃の誌面基本デザイン案

ただこの頃はまだ組版(文章や写真のレイアウト)の経験が少なく、縦書きでのデザインも初だったため、可読性の良さ(次にどこを見たらいいか分かりやすい、ゴチャついて見えない)や余白の加減などがまだまだ甘いなと思います(とはいっても、ここは正解がなく、いまだに試行錯誤している部分なのですが…)。

なお余談ですが、編集ソフトは定番のAdobe InDesign…は高い(サブスクで年3万)ので、機能的に近い安価な買い切りソフトのAffinity Publisherを使っていたのですが、これには日本語対応が悪く、縦書き・右開きに対応していないという大きな欠点がありました。
『VVe』の時は素直に横書きにしたのですが、冊子のコンセプト、デザイン的にはやはり縦書きにこだわりたいという思いが強く、1ヶ月ほど苦戦した末、縦書きを実現することができました。方法としてはZen Old Minchoをベースに90度回転させた改変フォントをPythonスクリプトで作成し、横書きベースで文字を縦書きにするという力技です。お力添えいただいたWebデザイナーのなつき氏Affinity JPコミュニティには大いに感謝を。

話はそれましたが、やはり物事をゼロから始めるというのは本当に大変で、こうしたデザイン的・技術的な課題の他にも、そもそもどういう可視化されていない作業があるか(例:表題の設定、あとがきや序文の作成)、今後を見据えてどういうチームワークで制作をしていくか、そういった課題がどんどん出てきました。
特に私は企画の最終的なアウトプットである誌面を取りまとめる責任者(と私は理解していた)としてそれらを全部クリアにする必要があり、こうした課題を片っ端から提起し、「こうしたらどうでしょう!」と編集長のニッソちゃんに提案を投げ、メンバーに諮り、時にはデザイン案という形で直接決定を下したりしました。
他のメンバーも同様にモチベーションは高く、様々な提案、提言が飛び交っていて、実にやりがいのあるチームでした。

とにかく決めるべきことは山ほどあり、分からないこともたくさんあり、それをクリアしていくのは大変でした。けれどそれは同時に自分が新しいものを作っているということの裏返しであり、たくさんのエネルギーを必要とはしましたが、その疲労感はそれ以上の達成感を伴っていました。

そうして企画スタートから4ヶ月弱、2022年8月6日。
『Platform』Vol.1「夢の中の図書館」を世に送り出すことができました。

『Platform』Vol.1「夢の中の図書館」

もう一度やりとげた。そういう思いがありました。
けれども、以前『VVe』を刊行した時のような疲れ果てた感じはありませんでした。私にとって本を作りあげるということは既に2度目の挑戦であり、『VVe』の制作がゴールの分からない、とにかく完走すればよいマラソンだとすると、『Platform』の制作はゴールを理解した上で、曲がりなりにもタイムを考えて…クオリティを追求して走ることができたマラソンだったからでしょう。

少なくとも私は9か月前よりだいぶ前に進んだ。そして、これからも前に進んでいけるだろう。そう信じられることが嬉しく感じました。


◆楽しかったこと。

さて、ここまで『Platform』刊行に至る私のデザイナー(というとやや気恥ずかしいでが)としてのささやかな回顧録を語らせていただきました。
ここから今現在の2023年8月にいたるまでの1年、『Platform』は7冊の刊行とともに歴史を積み上げていくわけですが、それはまたいずれ別の記事で。

こうして振り返ってみて思うのは、デザインというのがすごく楽しい、素敵な経験をさせてくれる創作だということです。
デザインというのはなんだか難しくて、経験のある人しかできないものと思っている人が多いように感じますが、決してそんなことはなく、むしろデザインというのは当たり前過ぎて気づかないだけで、ハードルはとても低いものだと思います。

パソコンやタブレット1つ手元にあって、スライドや画像編集ソフトを使い、文字と画像を並べればそれはもうデザインです。
お互いの大きさはどうするか? どのラインで揃えるか? 距離はどれくらい? 配色はどうする? 背景は? 考えることはたくさんあるけど、基本原則自体はすごく単純です(おすすめの一冊を紹介しておきます)。

その原則を一つ学んで試すだけで、あなたのデザインは変わる自分の上達を感じることができる。情報はネットでも書籍でもたくさんあるし、そもそも参考にすべき優れたデザインも世の中にたくさんある。実際、私はデザインを始めてから色んなものの見方が変わった気がします。
そして今のSNS時代、発表の場は色々な形で作ることができますし、学業や仕事でも活かすことができます。それを積み重ねることで、さらに経験を積み、上達して、より良いものができるようになっていく。それは何より楽しいことだと思います。

そして、これはきっとデザインに限らない話です。
新しい物事に挑戦すること、新しいことができるようになること、上達していくことは、多分人の根源的ななにかに触れる楽しさだと思います。

世の中には大きく分けて「今できること」「できるか分からないこと」「できないこと」の3つのことがあります。

今できること」をするのは簡単です。けど、それを続けるだけでは今自分がいる所より前に進めない。だから進歩するには…新しい「できること」を増やしていくには、「できるか分からないこと」に挑戦していかないといけない。
当然不安はあるし、悩むことも多いけど、最後までやり遂げればそれは「できるか分からないこと」から「今できること」に変わります。さらにその経験は巡り巡って、新しい「できるか分からないことでも自分は成し遂げられるだろう、そんな自信に変わる。そうやって日々できることが増えていく。

私がデザインを通して経験したのは、まさにそんな素敵なサイクルだったんじゃないかなと思います。
最初は不安でどれほど大変かもわからなかった『VVe』での同人誌の編集も、それを成し遂げたことが実績と経験になって、次の『Platform』のチャンスに挑戦することができました。そしてその『Platform』で6冊を刊行する間の試行錯誤は、まさにデザインにおける挑戦と成長の繰り返しに他ならず、日々その技術が上達していくことを「本」という形で多くの人に見てもらえた私は、この1年、本当に楽しかったのです。


もし皆さんが、何かチャンスを得て、けれどそれが「できるか分からないこと」だった時は、迷わず挑戦した方がいいと、私は思います。

そして私がそうだったように、チャンスとは人との縁から転がってくるものだから、ぜひたくさんの良いつながりを持ってほしいと、私は思います。

最後に、こうしてデザインの楽しさに触れた者として、あなたが何かを「デザイン」するチャンスを得た時は、ぜひ挑戦してみてほしいと、私は思います。

あなたの人生にも、挑戦する楽しさがありますように。
思惟かねでした。

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今回もお付き合いいただきありがとうございました。
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