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【雑文】拝啓、NUMBER GIRL様

拝啓 向暑の候、 NUMBER GIRLの皆様におかれましては、ますますご繁栄のこととお慶び申し上げます。

皆様の音楽と出会ってから、はや20年が過ぎようとしております。

当時、大学生に入学したばかりの私は、初めての一人暮らしにアルバイト、慣れない環境や人間関係、専門領域の勉強と、精神的に少しの余裕もありませんでした。もともと根が暗い私は積極的な人付き合いが出来ず、暫くの間は、一人きりで堕落した生活を甘んじているような状態でした。


周りと馴染めない孤独主義者の私が、支えとしていた一つの思想が、人と違う音楽を聞いている、ということでした。ものすごくしょうもない。

「オレ、メジャーどころの音楽って合わないんだよね」とか言い出しそうな当時の自分がダサすぎて悶絶してしまいますが、あの頃はなにもない自分をどうにか演出し、虚栄を張ろうと必死だったのかもしれません。

そして色んな音楽の中でも、特にのめり込んだのが、NUMBER GIRLでした。



熱狂、夢、そして解散

皆様が持つ特異な存在感唯一無二の疾走感に、なにもない私は強く引き込まれました。

特に聴き込んだアルバムは『シブヤROCKTRANSFORMED状態』。本気で何回聞いたか分かりません。「EIGHT BEATER」や「透明少女」も好きですが、このアルバムの「SUPER YOUNG」は本当にエモい。終盤にアドリブで、子供の頃の夕暮れ時を思わせるシーンを歌い出すところなどは、なぜか毎回涙腺が緩くなってしまいます。
なんでやろ、まぁええわ。

ライブシリーズ『Distortional Discharger』最終日、渋谷クアトロでのライブの模様をそのまま収録したアルバムである。ジャケットおよび歌詞カードは新聞風になっている。日本版ローリングストーン誌が発表した「日本のロック名盤 BEST100」において92位にランクインした。

『シブヤROCKTRANSFORMED状態』Wikipediaより引用


他にも色々と好きな曲は御座いますが、「OMOIDE IN MY HEAD」は多くのファンにとって、そして私にとっても特別な曲です。

ライブ盤から伝わるこの曲の迫力と観客の興奮は、熱狂という言葉を体現したかのようで、いつか、いつかこの曲だけは生で聴きたいと、「福岡市博多区から参りましたNUMBER GIRLです。ドラムス、アヒト・イナザワ」の口上から始まる叩きつけるようなドラムと、唸るようなギターとベースが極限まで混じり合った後に訪れる一瞬に、会場にいる観客と声を合わせて叫び、跳びたいと思っていました。

そんな日を夢見ながら過ごしておりました。しかし、その夢は叶わないと、ある日のCDショップで知りました。

NUMBER GIRL、解散

そしてラストライブのアルバムがリリースされると知りました。



冷凍都市の暮らし、あいつ姿くらまし

解散後の皆様が、各々音楽活動を続けられていることは知っていましたが、なんとなく触れることが出来ない時期が続き、ぼんやりと色んな音楽を聞き続けていました。
意外とミスチルもいい曲書くやん、とか思うようになりましたし、興味の中心が洋楽へと移っていきました。


そうこうしているうちに、私は大学院を卒業。社会人になって、苦しみと引き換えに自由に使えるお金をそこそこ得られるようになりました。あの頃は手の届かなかった、ライブ会場やフェスに行けるようになったのです。

NUMBER GIRLは観ることは叶いませんが、フロントマンである向井秀徳さんが結成したZAZEN BOYSは観ることが出来る!生で!向井さんが!見れる!と気持ちが高まりました。

でもライブには行けませんでした。

何度か機会はありましたが、もしNUMBER GIRLよりZAZEN BOYSを好きになってしまったらと思うと、足が向かいませんでした。

あとFuji Rock Festival2011に、LEO今井さんとKIMONOS名義で出演していた際は素で見逃していたので、感傷に浸って……とかではありません。申し訳御座いません。


結局、一度もNUMBER GIRLを、ZAZEN BOYSや向井秀徳を生で聴くことのないまま、平成が終わろうとしていました。そんな私に衝撃的なニュースが飛び込んできました。

NUMBER GIRL、再結成。



繰り返される諸行無常

再結成の理由を向井さんは以下のように述べられました。

2018年初夏のある日、俺は酔っぱらっていた。そして、思った。またヤツらとナンバーガールをライジングでヤりてえ、と。あと、稼ぎてえ、とも考えた。俺は酔っぱらっていた。俺は電話をした。久方ぶりに、ヤツらに。そして、ヤることになった。できれば何発かヤりたい。

『NUMBER GIRL、再結成。向井秀徳「またヤツらとナンバーガールを」』rockin'on.comより引用


そして、このニュースを知った直後の私が以下になります。もうなんぼでも払うよ、という心持ちでした。

嫁さんの実家で挙動不審になった後のツイート。


しかし皆様の活動再開を喜んでいるのは、私だけではありません。

活動再開後、初ライブとなった新宿LOFT公演はチケット争奪戦に落選。日比谷野音も落選。地獄の出費を覚悟して、北海道までRISING SUNに参戦しようかと考えていたら、台風で休演。

ツアー開始のアナウンスがされるも、某感染症の蔓延によって、音楽業界自体も含めて、自粛の波に飲み込まれていきました。

その後、思い入れのあるFuji Rock Festivalにも皆様は参戦されましたが、私は感染症の影響を考慮し参加を見合わせ、結局Youtubeでライブ配信を見守ることになりました。本当に……悔しかった……。


そうです。せっかく再結成頂いたにもかかわらず、私はNUMBER GIRLを生で聴くことが出来ないままでいました。こうして列挙してみると、もう観れないこと自体が、なにか運命として定められているような、気がしてなりません。

そうしている間にも、月日は流れていきました。



チルいフェスとオッサン

そして今年。某感染症の社会への影響も落ち着き、私たちに日常が戻り始めてきた矢先、NUMBER GIRLが「森、道、市場2022」に参戦するという話を耳にしました。

もう皆様を観ることは出来ないと半ば諦めていた私でしたが、この話を聞いて、今度こそは夢が叶うのでは?という気持ちが膨らんで参りました。色々と条件が揃っていたのです。


まず音楽フェスですから、十中八九、チケットは購入できます。感染症についても、ワクチン等である程度はリスク軽減ができているでしょうし、客が入り乱れぬようモッシュピットはロープで客の位置が区切られています(そもそもモッシュは禁止)。開催地も、そこまで遠くはありません。

なにより、開催地である愛知県蒲郡市は、昨年他界した祖父が過ごした街でしたから、これまた勝手ながら、なにか運命めいたものを感じてしまいました。

Tips!:夢見る中年は運命を感じがち


唯一の不安は、「森、道、市場」から感じるチルいフェス感です。

森、道、市場の「空間」は、“空” 気感と“ 間” 合いを意味します。その土地が持つ魅力や環境の変化といった五感で感じることのできる空気感、人と人、人と自然、人と食、人と作品、人と音楽など、それぞれの関係性に
ちょうどよい距離感が生まれてくることを大切にしています。(中略)私たちが忘れかけてしまった大切なものを探しに、「それぞれの森、道、市場」へお出かけしましょう。

『森、道、市場2022』公式HPより引用


フェスの名前やコンセプトから滲み出るオシャレ感がスゴイ。「」と””を使いこなしている。恥ずかしい。これに参加するオッサンの私、恥ずかしい。

海辺でチルい音楽聴きながら、ゆったり時間を使うようなフェスに、もう四十近いオッサンがソロ参加して良いものか悩みましたが、その様子を想像してニヤニヤしていた嫁さんが背中を押してくれて、最後には参加することを決めました。



OMOIDE IN MY HEAD

久しぶりの音楽フェスです。自粛生活の前も色々あったので、3年ぶりくらいですかね。

快晴!


NUMBER GIRLの出番は夕方でしたので、昼くらいに着けばいいかと、最寄り駅からのんびり歩いて会場入りしました。複数エリアを歩いてみたり、市場エリアを覗いてみたり、色んなアーティストを聴きながら、ゆるく過ごしていました。

会場のラグナシア遊園地は東京リベンジャーズとのコラボまっさかりだったので、会場の至るところにマイキーやタケミチが顔をだしていました。チルいフェスでヤンキーがお出迎えするという……。うん、令和やね。

海賊コスしたヤンキーが疲れた参加者をお出迎えする図。



そうこうしている内に、NUMBER GIRLの開演時間が迫ってきました。割と前の方に陣取ることができ、徐々に私も落ち着かなくなりました。こんな間近で観ることが出来るのかと。

ちょっとひさ子さんよりに待機。


一人でしたので、誰とも喋らず、色んなことを思い出しました。皆様の音楽を聴きながら過ごしてきた年月を振り返りました。
就職もしました。結婚もしました。子供も授かりました。18歳だった私は、もう40歳間近です。でもまだ貴方達の音楽を聴いて、そしてここに来ることが出来ました。


リハで中尾さん,アヒト,ひさ子さんが、そして向井さんが、まるでコンビニにでも行くかのようにスッと登場し、「水色革命」のイントロを弾き始めた時、「あぁ、あの音だ」と。向井さんのギターからしかならない音を、声を、NUMBER GIRLでしか再現出来ない音楽を、僕は聴くことが出来ました。

そこからは年甲斐もなく、ずっと縦揺れです。


ライブ終盤、「OMOIDE IN MY HEAD」が始まりました。画面越しにずっと観てきたように、いつもの聴いていたアルバムのように、「ドラムス、アヒト・イナザワ」の口上から、ドラムが、ギターが、ベースが鳴り響き、そして向井さんが歌い始めます。

会場の熱気は最高潮でしたが、私はその場に立ち尽くしました。そして目尻に熱いものを感じました。

18歳の頃に聴いていた、ひたすらにカッコいいOMOIDE IN MY HEADとは違っていたのに、ノスタルジックな思いが止められませんでした。怠惰に過ごした若かき日々が懐かしく、そしてもう戻らないと知り、懐旧の情に堪えませんでした。

NUMBER GIRLが好きな人生で良かったと思いました。

現実と残像を繰り返し 気がつくとそこに
ポケットに手を突っ込んで センチメンタル通りを 練り歩く
17才の俺がいた In my head

『OMOIDE IN MY HEAD』より引用 向井秀徳 作



拝啓、NUMBER GIRL様。

この度は私の夢を叶えてくださり、誠に有難う御座いました。お陰様で、また一歩、どこかに踏み出せた思いで御座います。願わくばこの先も、皆様の音を支えの一つとして、繰り返される諸行無常の日々を、ふてぶてしく生きていきたいと思います。

暑い日が続きますが、ご自愛のほどお祈り申し上げます。


敬具



参考

やっとNUMBER GIRLを生で聴けたぜ!やった!という内容をざっと書くか〜と思っていたのに、終わってみればいつも長さ。積年の想いというのは恐ろしいものですね……。

兎にも角にも、これでようやくZAZEN BOYSも向井秀徳アコースティック&エレクトリックも気兼ねなく観れるな!チケット取れるかは別だけど!!!

是非みんなも聴いてくれよな!


オススメ1:自問自答(向井秀徳アコースティック&エレクトリック)
今の時代背景も含め、こみ上げるものがヤバい。特に以下の演奏では終始鬼気迫るものを感じる。何かを訴えるための曲ではないかもしれないが、聴いた者は響くものを得るはず。


オススメ2:「Honnoji」「Cold Beat」(ZAZEN BOYS)
MIYAさん加入後のCold Beatは本当に好き。即興でよくここまで完成度高められるよなと感心することしか出来ない。


オススメ3:「ポテトサラダ」(ZAZEN BOYS)
コメントにある「ファンになってから何年経っても、未だに「カッコいい......のか?」って疑問になる瞬間がある。」のわかりみが深い。ハイ!ハイ!

以上!終わり!


(いつもの:マガジン『大衆象を評す』

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