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「文菊師匠ライジング」/わたしの落語語り&アニメ特撮・徒然草<5>

けさ飛行機に乗る前に、ネットでこんな記事を読んでいました。

私の世代でギリギリ「ああー」となるくらいの存在「ライダーマン」についてのもの。というか、再放送でしか認識していないのですが。
「仮面ライダーV3」の中でサブライダーとして出てくる存在で、いわゆるほかの「昭和ライダー」に比べると格段に弱い。「改造人間」ではなく、生身の人間(エリート科学者)が強化スーツを着ている存在なので、逆に言うと、そのスペックで怪人との戦いに臨むのはむしろ無謀。
手枷足枷となる制約まみれの中で戦う姿は、いまでいうなら「ワンパンマン」の中の『無免ライダー』のように涙と哀愁を誘います。

そしてきょう、ひとりの噺家が「ライダーマン」のように宿命を背負いながら新たな境地に覚醒する瞬間を目の当たりにしました。

誰あろう、古今亭文菊師匠です。

大学卒業後に二代目古今亭圓菊師匠に弟子入り志願した文菊師匠。二代目圓菊師匠は志ん生師匠の弟子。文菊師匠は若くして頭角を顕し、28人抜きでの真打昇格という離れ業をやってのけました。
ココだけ見ているとまさに「落語エリート」。

私もこれまで、鈴本や池袋演芸場で何度かお見かけしたことがあり、「格段に上手い」という印象を持っていました。これが独演会だとどうなるのか。そんな興味から足を運んでみたわけです。

そして、きょうの「芝居」(文菊師匠は高座のことを「芝居」と表現されることがあります)を見て、イメージが一変しました。

開口一番の後に出てきた文菊師匠。
マクラとして語りだしたのはなんと、この先への決意表明でした。
内容を要約でお伝えすると(笑)

・高座に上がる前に、奥様を「大しくじり」
・自分としてはいまだに前座修業が続いている
・圓菊師匠からは「苦労こそが芸の道」と仕込まれた
・妻は「雑念を捨てろ」と厳しくいってくる
・小さなことに喜びを見出す芸を目指す覚悟を決めた
・そうしてみると「すき焼き弁当」のネギが旨かった

文菊師匠と言えば「ナルシストっぽい『気取り芸』」というイメージがあり、マクラで20分以上も素を出しつつボヤキ続ける姿は、私にとっては新鮮でした(思いのほか時間をとったためか、一本目の『出来心』はよくしられる「花色木綿」のくだりが出てくる前にサゲとなり、ご本人も「反省しています」との言)

会場内を見渡すと、30代・40代らしき人も多く見られ、寄席などに比べて客の平均年齢は若いように感じました。たぶん『出来心』を終えて文菊師匠が「ごめんなさい」といった意味がわからなかった方も多かったかもしれません。

これはいいことだと私は思います。
文菊師匠に惹かれて、新たなファンが集まり、古典に新鮮味を感じている。
『古典が新しい』周回の始まりかもしれないのです。

二本目の「幾代餅」は、吉原がらみでありつつも、人情噺の要素も入った内容。三本目が『二番煎じ』とあらかじめネットで告知されていたので、「あれ?幾代餅が三本目じゃないんだ」とちょっとだけ違和感を感じていましたが、『二番煎じ』には仕掛けがありました。

冒頭でさんざんボヤいた際に繰り返していた「ネギが旨い」のフリを『二番煎じ』で見事に回収。
文菊師匠が学生時代に経験された「舞台演劇」のように縦軸のある見事な構成となりました。

「二番を煎じておけ」と頭を下げた文菊師匠。
その姿になぜか「ライダーマン」が重なって見えました。

エリートでありながら、苦難の道を歩まざるを得なかったこと。
TVメディアなどで「主人公」的な立ち位置に恵まれなかったこと。
手にした武器(キャラ)の破壊力が大きくなかったこと。

そしていま、「素の弱さ」を聴衆の前にさらけだしたこと。

逆境の中で、複雑な思いを胸に抱きながら戦い続けたライダーマンにV3は「君は英雄だ」という言葉を送ったといいます。
ライダーマンが背負うものの重さを知る視聴者には、この言葉は深く響いたことでしょう。

まだ43歳の文菊師匠。
あわてる必要は全くありません。
本寸法の芸は、廃れることは決してないのですから。

次に聴ける日を、いまから楽しみにしています!(^^♪



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