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旅先の食

5月に行った大阪では、とにかく「食」が楽しかった。
私が旅に出る目的に「食」が加わったのは最近のことだ。

物心つくまでは、食べることに全く関心がなかった。ここではない場所に行けるという点で旅行が大好きだったけれど、あの時どこで何を食べたかという記憶がまるでない。
大学時代は、とにかく非日常を体験できるということに魅了されて、旅をしまくった。多少ハメを外すのもあり。そういうわけで食べることは二の次。どの店でも取り敢えずラーメンがあったら食べる。貴重な夕食の時間を、無難なチェーン店で済ませたこともあった。
20代後半くらいから、地酒の楽しさを覚えて、そうしてようやく「食」にも関心が持てるようになってきた。「せっかくだから、今ここでしかできないことを」と同じだと気づいた。「せっかくだから、今ここでしか食べれないものを」。
今ではインターネット上で行ってみたい店を見つけては、ノートに書き留めている。

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大阪は、東京よりも繁華街がぎゅっと1ヶ所にまとまっている印象。小ぢんまりとした居心地の良いビアスタンドから2分も歩けばホスト街がある。雨だったため傘もあり、とにかく人が多くて歩きにくい!とも思ったが、この空気感に身を任そうと決めた。歩けど歩けど店があるので、ウォーキングで小腹を空かせながらのハシゴ飲みがしやすいなと思った。

着いて早々に食べたたこ焼きに、シーフードたっぷりのお好み焼き。名物は一通り味わった。
今回の大阪旅では、それに加えて飲食店のお気に入りが3つも増えたので、嬉しい。

1つは、創業昭和20年代の喫茶店。少し治安の悪いところにあるよと聞いていたのでドキドキしたが、開店後すぐに店内はお客さんでいっぱいになった。
喫茶店のショーケースって、いつ見ても心踊る。当時のままのラインナップ、値段だけが現代仕様。時代の流れを感じて少し切なくなる。
店内も店内で、その場にいるだけでタイムスリップしたような心地になって、かつては贅沢なイベントだった、喫茶店でプリンアラモードを食べるなんてことが日常になってしまった今も感謝せずにはいられない。
こんな話をしておきながら、この日はコールドブリューのフローズンドリンクとカステラをいただく。

2つ目は、立ち飲みのクラフトビアスタンド。ここは1年ほど前にSNSで見つけてからずっと、行きたい…!と焦がれていた。ギリギリのところで入れた。
コップやコースターも可愛くて、店オリジナルのものだとテンションが上がる。それから、流れている音楽がどれも心地よかった。ゆるいヒップホップなど、令和の歌ばかり。ビールも一品料理の味付けも全て美味しく、音楽に合わせて踊り出したくなるほど気分が良くなった。
隣に居合わせた外国人留学生と少しだけ世間話をしてみた。知らない人に話しかけやすい雰囲気があるのは、ここが賑やかな街だからだろうか、旅先で気持ちが大きくなっているからだろうか。

3つ目はディープ中のディープを攻めた。繁華街を抜けた先にあるレトロな雑居ビル。個性的なバーが集まるが、その中でも一際入りにくそうと感じたお店に入ってみた。ドアを開けて営業している店も多い中で、ドアが閉まっているだけでも心構えがいる。アンティークなドアに、壁にぎっしりと貼られたサブカル系のポスターたち。これは入口から作品のよう。
照明で真っ赤に照らされた店内は、聞いたこともないようなジャンルの音楽が流れていて、細部までこだわりを感じる。「静と動」ならば、ここは完全に「静」の空間だと思った。超大人の空間。ここの良さがわかる人にだけ、深く楽しんでほしいような…と初めて訪れた客は一丁前に思う。
珍しいお酒がたくさん用意されていて、キャラメルのお酒が美味しかった。おつまみもお酒に合わせてチョイスしてくれているようだった。壁一面に置かれた本たちは、背表紙だけで興味深いから一生見ていたくなる。なかなかに価値ある資料だと感じた雑誌を、店主に断ってから手に取る。次の日も通ってしまった。

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旅好きの、旅の目的に新たに「食」が加わった。
それが楽しみになると、世界が広がった。訪れる飲食店にこだわりを持つようになり、興味を持たなければ行けなかった場所がたくさんあった。
同じ旅先でも何度でも飽きずに繰り返せるし、旅先で過ごす時間はさらに味わい深くなる。
これはもう、また近いうちに旅に出ない理由なんてない。どの季節だって旅に向いているのだから。

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