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“左耳 知らなかった穴  
覗いたら昔の女が居た
アタシは急いでピアスを刺す”

私の好きなクリープハイプの『左耳』という曲にこんな歌詞がある。
初めて聴いた時、その言語感覚の非凡さに痺れたのと同時に、人の身体に最初からあいている穴ではなく、後天的に自分の意思で開ける穴は確かにピアス穴くらいだなと思った。
モテたくて開けたのか、昔の女とお揃いのピアスをするために開けたのか。眠っている恋人の耳にあった小さな穴に気づいて、自分と出会う前の自分の知らない過去に漠然と嫉妬したくなる歌の中の「アタシ」の心境は、なぜだかよくわかる気がした。

私が初めてピアス穴を開けたのは高校3年の時だった。
制服も校則もない自由な高校だったので、本業に差し支えるほど常軌を逸していない限り、どんなおしゃれも服装も咎められることはなかった。当時流行っていた大ぶりなフープピアスをつけた友達がとても大人びて見えて、私はバスケ部を引退してすぐに「失敗しても文句は言いません」と誓約書を書いて、友達に頼んで両耳に穴を開けてもらった。

それから約5年後、失恋の記念に左耳に3つ目の穴を開けた。その人が当時流行っていたJUDY AND MARYをよく聴いていたので、歌詞を真似て開けたのだった。思い返すと私にも私なりの「若気の至り」があったのだ。
私は身に着けるものを自分で選んで買いたいので、交際相手にアクセサリーをねだったことはない。でもその3つ目の穴にはいつも小さな石のピアスを挿しているので、そこを飾るための一粒ピアスだけは何度か人からプレゼントしてもらった。

そして、あの時放課後の教室で私の耳たぶに穴を開けてくれた同級生は、その後宝石と彫金の勉強をして資格を取り、アクセサリーデザイナーになった。今も海外を拠点に作品を作り、毎年夏になる頃日本に帰ってくる。
彼女がデザインしたピアスを30年経った今もその耳に飾っているなんて想像もしていなかった。
というか、あの頃の私たちは今に夢中で前途しかなくて、30年後を想像することすらなかった。

ああ、やっぱりピアスの穴を覗くと昔の何かが見えてしまうのかもしれない。


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