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【SS】竹とんぼ

 小さい頃は父親が作ってくれた竹とんぼ。最初は、両手でクルクルしてパッと離してもうまく飛ばない。幼い子には、飛ばすコツを掴むまでにちょっと時間がかかる。そして、友達よりも早く上手に飛ばせると上機嫌で自慢する。

 幼い時は、やることは何でも初めてで冒険でもあった。竹馬、カン下駄、水鉄砲なども大体は父親か近所の年寄りが作ってくれたものだ。そんな昭和の良き時代のお金をかけない遊びを、現代のゲームやYoutube世代の幼い子に教える授業が小学校で開催された。先生は、近所のシニアクラブの人たちだ。すばらしい。

 特別授業と称して計画された「昔の遊び」授業は授業参観として保護者も参観できるように土曜日に設定されていた。そうなると懐かしく思い出すのは、子どもたちの両親ではなくおじいちゃんやおばあちゃん達だった。

 普段家に帰ると、真っ先にテレビの電源を入れ、おやつを食べながらYoutubeを見ている孫達が昭和の遊びである竹とんぼに夢中になっている光景は何とも微笑ましい。しかも、昔の子供と同様に最初のうちはうまく飛ばすことができない。両手で一生懸命クルクルしてパッと放す。竹とんぼは飛ぶ勢いを得られずしょんぼりと手から地面に落下する。

 子供達はだんだん飛ばせないことに苛立ちを覚え、飛ばせる子供たちを羨ましがる。見かねておじいちゃん達は手を差し伸べる。孫たちの後ろに周り、孫の手を取って小さい手のひらの左手首寄りと右手の指先で支えている竹とんぼを確認すると孫の手の甲に自分の手のひらを重ね、孫の右手をシュッと勢いよく前方上に押し出す。

 ふわっと宙に浮いた竹とんぼは、勢いよく回る力をもらった羽がプロペラとなってクルクル回転し、青い空に向かって飛び立っていく。飛んでいく竹とんぼを眩しそうに見る孫よりもおじいちゃんの目の方が輝いていた。やがて力尽きて地面に落ちる竹とんぼを、駆け足で取りにいく孫、その光景を見守る満足そうなおじいちゃん。小春日和で晴れ渡った暖かい日に、昭和へ回帰したほんの短い時間の光景だった。


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