じりじりする

でっかい浜辺で

半袖を着て海に出ようよ、むかつくから

みんな同じようなこと喋ってんな

足の裏を砂と

海水が抜けていく

こんなに美しい景色あったんだね

どこまでもつづく、チアノーゼ色した水

行きすぎる船(あれは豚箱か？)

手を振った

振り返された

「そんなことしてると汚くされるわよ」

嘔吐音で、かき消して、手を振り続けた

その手にはしっかりと束ねられた

お野菜が握られている

「握るだけでいいわけないだろ」

「食べろ」

「まずいけど」

「でも」

「健康のためには仕方ない」

私はお野菜の味を

思い浮かべて

「お酢とこしょう、めんつゆで食べるのが好き」

と言いかけてやめた

お肉が好き、お魚が好きなので

「食べなさい」

足の裏を砂と

海水が抜けて

いかない

ぎゅっと

まぶたに

押し込まれるね、この世界

(何も見たくないなら)(から)「食べろよ」

にんじんピーマン玉ねぎゴーヤ、ケールラディッシュカリフラワーにらブロッコリー、ロマネスコベビーコーン芽キャベツ、またにんじん、お野菜が、ね
(その他にもいろいろあったけど、その都度数えているひまが、私にはございませんでした)

待ってください

今、私にはそもそも胃液が

なくて、そもそも

だって、吐いちゃったから

肉も魚もケーキも、お野菜もすべて

「なんてことだ、健康になりなさい」

待ってください

私、食べたものを吐き出すの

それなりに

楽しんでいたんですけど

そうでしょ

「違う」

知らなかったの

「ち」

「が」

「う」

「うう」

浜辺は広すぎて

私も仔細に全てを知らなかったから

お互い様だけど

お前は、さ、

あ、待ってください

ほら見て、沖で誰かが

たっくさん

やばいくらい溺れてますよ

口の中にお野菜があふれて

喋れない、私の

足の裏を

すり潰された吐瀉物と

臓器のかけらが

抜けていく

みんな同じようなこと喋ってんな