『心理臨床と政治』(信田さよ子・東畑開人編 日本評論社)を読んで

 『心理臨床と政治』(信田さよ子・東畑開人編 日本評論社)を読了しました。あまりにも魅力的で興味深い著書なので、もう1回読むことにしました。しかし、今回は一通り読んだ上での私なりの感想や考え方などを綴っていくつもりです。
 『パーソナル・イズ・ポリティカル』(個人的なことは社会的/政治的なこと)ーこれは1960年代末から欧米で広がった第2波フェミニズムの標語です。この著書はまさにこの標語のとおり、《臨床現場で見聞きする小文字の政治と、国家という大文字の政治が、今回の特集(『心理臨床と政治』のこと:著者注)で「一望のもとに見渡せる」》(同著P185~P186)という点が、何より優れています。ということは、何気ない日常生活にも政治は存在するということになります。そんなことを思いながら、私は現在勤務している事業所のことを振り返りました。
 私は就労継続支援A型(飲食業)の利用者として勤務しています。要するに、福祉事業所で働いているということです。こう書くと一見何の変哲もないように見えますが、そうではないと最近気づきました。
 そもそも、この就労継続支援A型というのは、この国の社会福祉の制度の1つです。こういう制度を設計し通達したりするのはトップである厚生労働省です。そこから厚生労働省通知等が都道府県に伝達され、それから市町村に通知されて就労継続支援A型やB型、就労移行支援等の福祉事業所が生まれてくると考えるのが順当でしょう。このように考えていくと、私が所属しているA型というのは「ポリティカル」と言えます。そこにある利用者や職員(支援員)の関係も「ポリティカル」です。因みに、私は調理師免許を持っていますが、これも厚生労働省管轄です。そこには食品衛生法等の法律や営業のための保健所による許可が必要になります。なので、飲食業というのもこれまた「ポリティカル」です。そして利用者の方はこのA型での賃金のほかに障害者年金(厚生労働省管轄)も受給されているので、これも「ポリティカル」と言えるでしょう。
 まさに『パーソナル・イズ・ポリティカル』(個人的なことは社会的/政治的なこと)です。これだけ政治と密接に関係しているとはと、自分で書いて非常に驚いています。ということは、誰1人として「ポリティカル」でない人はいないということになります。
 では、私が所属するA型での「政治」とは何なのでしょうか。それは「臨床現場で見聞きする小文字の政治」(同)であると私は考えています。これはこの著書で信田さよ子氏が語る「日常の本当に細かな臨床、そして家族の営みこそが政治である(略)それを誠実にやるということが、すでに政治的な営み」(同P200~P201)に通じています。さらに、同著で信田氏は「いわゆる大文字の政治や社会運動だけが政治ではない。もっといえば、大文字の政治にかかわらなくても、個人的なことを丁寧にやっていけば、大文字の政治の根幹に触れる」(同P201)とも語っています。これらの言葉から、私がA型にいるのは政治的に深い意味と意義があるということになります。
 私は調理師資格のほかに、保育士資格も持っています。保育とは「臨床現場で見聞きする小文字の政治」(同)に相当するでしょう。私が今後、保育士資格を使う機会が出てくれば、上述した信田氏の言葉を前提に仕事をしていきたいと考えています。
 ここまで読んでいただいた方に感謝申し上げます。
 
 参考文献:『心理臨床と政治』(信田さよ子・東畑開人編 日本
       評論社)
 
 
 

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