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「日本庭園」シーンをとりまく課題

庭園情報メディア「おにわさん」新オーナー募集の進捗について。

こちらの記事を書いてから約2ヶ月間。
実際に名乗りを挙げていただいた方々含め、さまざまなお問い合わせをいただきました。ありがとうございます。

まだ何か決まったわけではありませんが、「オーナー募集」という形のものは終了したいと思います。
ただし『日本庭園文化を残すためには、より多くの方に届けることがなにか支援したい』というご意向は今後もお受けしたいと考えています。
ぜひご連絡お待ちしております。

で、このエントリではこの2ヶ月間、さまざまな方とお会いする中で感じた課題感などについて記したい。
主にはTwitterでつぶやいたことのまとめなのですが、6,000文字になってしまった…。

課題①:日本庭園の裾野での後継者不足

↑こちらの記事内のグラフによると、造園工事業就業者数は2003年→2014年にかけて半減している。言うて8年前までの統計だけど、この数ヶ月でも「庭師を目指す若者がいない」というお話を色んな方からお聞きします。

もっともバブル〜高度成長期までのように「庭付き一戸建て」の時代ではないので、減少し続けるのは自然現象ではあるのだけれど。

↓一方で、広く「造園業界」で言えば、「屋上緑化・壁面緑化」などの緑化事業で伸びている現状はある。
“緑の仕事”を目指す若者がそちら側に流れていくのは致し方ないとも思う。

お手入れ等はシルバー人材センターとの価格勝負になって厳しいというお話も色々お聞きする。
だとすると結局そこよりは『現役世代しかできないこと』を今後の若手には目指してもらった方がいい(それが何かはわからないけど)。

既存の「日本庭園そのもの」を残すことと、
「庭師・造園」の仕事を残すことは微妙にイコールではなく、
将来的には(100年後とかには)(昭和年代にユンボが人の仕事を奪っていったように)枝切りAIロボットが活躍する時代が来るはず。

逆に言えば、そういうオートメーションが開発されないことには、↓のように『過疎地域に復元したけど、全く人が来ず再び荒れてゆく文化財庭園』は守れないだろうし。

課題②:「日本国内では日本庭園を作るチャンスがない」

ある地方で、和風庭園を中心に手掛けておられる植木屋さんとの会話で。

「日本庭園に関わりたくてこの世界に入ったのに、しばらくずっと街路樹の剪定しかやってない」という若手が少なくない

仮に「緑化」ではなく「日本庭園の庭師」を希望を持って目指したとしても、日本国内ではもう日本庭園を作る現場はもうそう多くない。
これは時代の流れもあるので仕方なさもある。
(もちろん京都に行けばまた違うだろうし、海外需要は伸びていくと思うので、そのチャンスを自分から掴みにいくかどうか次第)

何もせずに居れば日本庭園需要が減少していくのは仕方ない中で、
『日本庭園の魅力を伝えるという営業活動』を業界がしているか
で言うとしていない(受け身)だと思うので、やはり仕方ない。

課題③:庭師・職人だけでなく植木業界でも後継者不足

これもある方からお聞きした話。

『とある植木の産地では、よく仕立てられたマツがほぼ全部海外(アジア)へ輸出されることが決まってた』
『植木業界でも後継者不足著しく、ご当主(おじいちゃん)がもうお店を閉めたら廃業』
『このままいくと日本国内で日本庭園を作りたくても伝統的な目ぼしい植木が無くなる可能性』

等々、地方の水面下ではそういう事が起こっているんだなぁ…と。
もっとも自分はあくまで「庭園を観るだけの人間」なので植木産業の事まで手を出したいわけでもないけど
『既存の有名庭園でシンボルツリーが枯れた場合も、代替の木が見つかりづらくなる』
と言われると危機感は伝わってくる。

だけどその状況が広くは伝わっていないのが課題。

課題④:現在の「日本庭園シーン」はバラバラ

一言で「日本庭園」と言っても、関わっている方の立場はさまざま。

研究者/設計者/庭師(造園/外構)/植木/木材(竹も含む)/石材/施設運営者/メーカー…など。産業は多岐に渡る。
残念ながらその方々は一枚岩というには程遠い状況にある。

庭園・庭に関連しそうな団体をざっと挙げてみる。

日本造園学会
日本庭園協会
日本庭園学会
日本造園建設業協会
日本造園組合連合会
日本エクステリア学会
日本庭園芸術協会
日本園芸協会
日本エクステリア建設業協会
ジャパンガーデンデザイナーズ協会
日本ガーデンデザイナー協会
ガーデンビジネス協会
ランドスケープアーキテクト連盟
ランドスケープコンサルタンツ協会
などなど、まだまだある

労働者・実務者を守るための協会・組合は“良い環境”を競い合うために複数あるといいと思っているんだけど、
『普及/啓発/振興/広報』の面においては、もう少し一箇所にまとまることは難しいのだろうか…?と思ったりする。(難しいからこうなんだろうけど…)

また「一般の人から見たら同じ庭の業界なのに、対立している」ということもままある印象を受ける。
「現場の人は」
「研究の人は」
「設計の人は」
「造園の人は」
「外構の人は」
「建築の人は」

好き嫌いは仕方ないのだけれど、
『建築を盛り上げていくために』各社が一体となっている⇩「生きた建築ミュージアム」(イケフェス)の様なことを建築業界の各社は協力・協賛しあっている。
庭園もいつかそういう風なまとまり方はしてほしい。

色々な立場の意見はあれど、「このままだと日本庭園文化が残せない」という危機感や想いは同じで…
自分(中の人)はチームビルディング無理な人だけど、それが出来そうな方を業界内外からの登場を願いながら。

建築と比べて、「庭園」を取り巻く組織は中小が多く、
個々でやることには限界があるからこそ、本当は
『組織・団体』がまとまって包括的に『日本庭園の魅力を伝えていく』ということをやっていかなければいけないはず。バラバラにやってもやはりそれはジリ貧。

課題⑤:京都・東京・その他地方での格差

歴史的寺院の多い京都は安泰として、東京も前述の緑化工事の増加でおそらく景気は良く、施設来場者も(定年した方々の増加によって)増加傾向にある。

一方で2022年も地方の日本庭園は自然災害に見舞われたり、解体されたり。

課題⑥:「日本庭園」の「敷居が高い」というパブリックイメージ

『マニアがジャンルを潰す』

これは最近いくつかのカルチャーでネガティブな言葉としてよく使われている言葉だけど、日本庭園もまさにそうで「日本庭園業界はマニアさ・先鋭化を競っている」感じがしていた。
研究者や専門家同士が深堀りから先鋭化していくのは仕方ないのだけれど、『年間数百万〜数千万人を迎え入れる日本庭園』目線で言えば、あまり先鋭さを競ってハードルを上げても意味がない。

(造園系ではない)一般の学生さんとお話しした時に、
『日本庭園を敷居が高く感じるか』って話にみんな(20人程)が頷かれたりしたので、
『日本庭園は敷居が高くて難しくて取っ付きにくい』
というのは確実にあると思っていて。

↑2021年に完成したこちらの庭園。
施設には全く資料がなくて残念…とお知らせしていましたが、実際作庭された方からメッセージをいただきました!

で、作庭者の想いを拝読し、受け止めつつも、課題だと感じるのはその解説からにじみ出る『庭園ってなんか難しい、と感じてしまうなにか』

・作者としては、多少なりとも施設側に『庭園に秘められたデザイン意図を伝えて欲しいと思っている』。これは庭園好きの自分も知りたい。

・一方で、歴史施設の担当者の方が必ずしも庭園に興味があるわけではない。でもそれもわかる。

興味がない人に「蓬莱様式」「三尊石」とか言っても通じないのも分かる。なんかよく分からない言葉と知識でマウント取ってこられてる感というか…。

だからその間の翻訳というか 『担当者がや施設来場者が興味を持つのってどこだろう』って事をやる人材が必要&足りてないのが課題だと思ってて…

難しいんだけど、
・結局地道に「日本庭園ファン」を作って、
・「理解してもらえない!」ではなく少しずつときほぐして、
溝を少しずつ埋めるしかない…けど、業界としてはそこに着手できていない。(やり切れていない以前に、やっていない)

で、これは先にも書いたように『少人数・個人での努力には限界があるので、組織全体で本来はやっていくべきこと』だと思っている。

課題⑦:「日本庭園」の施設のGoogle口コミの評価、低くなりがち

残っていく飲食店はだいたいGoogleの点数★4.0前後が求められる中で、
先鋭化したマニアの厳しい評価に晒される庭園施設は★2.8みたいな点数だったりする。
そんな文化財庭園・日本庭園は後世に残したいとは誰も思わないよね…

「庭園批評家」じゃなくて「庭園を応援するファン」を増やすべきだと思って…。みんな★4か★5だけ付けて欲しい。(本音)

課題⑧:庭園の来場者、増えているようで「無料来場者が有料来場者を上回っている」問題

東京の施設は地方と比べて来場者が増えているのだけど、細かく見ると実は年配の「無料入場者」が増えているだけかも…?

若い無料入場者ならば未来に繋がるけれど。
もし年配の無料来場者が厳しい点数をつけていたら…?

日本庭園が「安く、知識でマウントを取れる場」になってしまうのは、文化にとっては良くない。
日本庭園の魅力を伝えずにどんどん価値を低下させるだけ。

課題⑨:デザイン的な評価がされたり、されなかったり

とある庭師さんがブログに綴っていた言葉

《庭園業界には、若手の登竜門となるような大々的な評価を得るための場がありません。
そして、社会的な権威がある評価体系もありません。頼れる場所は、グッドデザイン賞ぐらいしかないんです。》


「これを口にすると負け惜しみっぽく聴こえてしまうから言いたくない」事って誰しもきっと沢山ある。
…「でもやっぱ客観的に言って環境にも問題あるよね?」って事もきっと沢山ある。

そこを個人の発信努力で埋めてる方も居るけど、発信してるつもりだけど届き切ってない人も勿論いらっしゃって…

でもまあ、賞を取ったかどうかよりも結局「見た目が良いかどうか」みたいな所もあると思うし
年会費を取ってる庭の組織がせっかくあるのなら、そこが包括的に作品を紹介できるプラットフォームを作っていった方が良い
(それは庭作りをしたいクライアントのためにもなる)

んじゃないか、と思ってりする。
(軽く提案してみたら「上が興味持ったら」という感じで取り合ってもらえなかったけど…)

『せっかく出てる冊子や本に気軽にみんなアクセスできるように』という、オープンアクセスな環境が「日本庭園」に足りてないことだとずっと思い続けている。
だから「おにわさん」はオープンアクセスできるものを目指しているし、今は自分の目の届く範囲だけど、

石材の作者、植物の生産者、それらを扱う庭師、そして施主、公開庭園ならそこに関わる方々…と様々な人とその想いがあるので。
そうした方の存在や思いが届くものであってほしい。(だから庭園の良し悪しを語るレビューサイトではないのです)

課題の話はここまで!


希望①:グリーンの業界は伸びている

「日本庭園」を取り巻く環境は厳しいながら、課題①で書いたような「緑化の好調」によって東証スタンダードに上場する造園会社さんも現れている。

こういう『庭』的なビジネスで成功してる組織体が、
歴史的な庭園を維持する仕組みを作るor
そこに対してインキュベーションする

その方々同士が「庭園ファン」を増やすために協力、ノウハウ共有しあう
みたいになると理想なんですけどね〜。

そしてそういう会社が、日本庭園に関する会社をM&Aする…みたいなことが面白いな、と思ったりする。
庭師さんって『独立して自分のお店構える・屋号持つ』のが当たり前ではあるけど、職人さんの
「机に向かってお金の計算したくない」
という話を聞く回数が増えるほど
「経営は経営に任せる」庭の会社がもっと増えていいのではと。

単純に優秀な職人が営業で困るのはもったい無いし、その組織の中に色んな屋号…各クリエイター…A-netの中にツモリチサトやネネットやスナオクワハラという各デザイナーによるブランドがあるみたいな。
そういう「庭」の会社がもっと増えたらいいのになとも思う。

希望②:日本庭園の観光資源としての価値は認識されつつある

↑こういう、地域の学生さんが日本庭園をテーマにした企画・提案をするという授業が起こり始めているのはとても良いことだなあと。

希望③?:日本庭園と関係性が深い「寺院」が、新しい時代に向けて変化をしつつある

お寺さんが『社会の中での寺院の役割・生き残り方』を模索しはじめていて、「普段お寺に居るわけではない人、新たなカルチャー、(比較的)若い層」を受け入れるイベントが増えてきている。

庭園とも関係性が深い寺院という場が社会の中での役割・在り方を模索する今だからこそ、庭園の在り方も変化していくような気がする。

個人的に思うこと①:日本庭園は「日本が世界に提示できる最高のアート&空間」だと思う

日本庭園って 『日本が世界に提示できる最高のアート&空間』(の一つ) だと思う。
そこへの異論は少ないと思う(?)けど、ここまで書いたように
「その割に日本人自身の評価は低いし、
国内の日本庭園そのものや来場者は減少傾向だし、
担う人材も減ってるし、
発信も出来てない」
とにかく勿体無い状況。

だからせめて 『どこにどんな日本庭園があるか』 を知るためのツールが必要だよねって感じで #おにわさん を作ってるだけで、
『私こそ日本庭園の愛に溢れてる』なんて気持ちは全くない!そこはたぶん外に見えてるよりは冷めてると思う……
いや、ほんと『こんなに勿体無いコンテンツは無い』と思う。

だから
本当に日本庭園=人生な人や、庭愛に溢れた人、そういう人の為にもっとプラスになるものにしていきたいのよね。

そしてもっと先を言うと、20年30年先には『日本庭園を司ってるメディア、組織』は日本人が率いてるでもなく、日本にあるでもなく、海外にあるかもなぁなんて思ってる。

個人的に思うこと②:現場の方がより伝える側に

庭園に足を運んでもらいたいと思って毎日文章を書いているけれど、
自分みたいな片手間の鑑賞者よりも『人生かけて庭に携わってる人はゴマンと居る』。

「伝える」という点においては自分みたいな片手間な人間より、現場の方が伝えることも担っていった方が絶対面白いし伝わっていくと思うんですよね…。

『おにわさん』が上から目線にならないのは、鑑賞者が作者よりえらくてすごいということはないと思っているから。

日本庭園にとってのこれまでの50年とこれからの50年って、明確に違う。
自治体が公共事業でバンバン日本庭園作った時代はもう戻ることはないし、支えるのは海外からの旅行者⇨施主にすでにシフトしている。

新たな時代にシフトする時だからこそ強い発信媒体が絶対に必要だと思っているので、そこに共感してくださる方とともに「発信媒体」の形を今後も模索していきたい。

個人的に思うこと③:日本庭園文化を50年・100年と紡ぐためには、10代/20代/30代が主役のシーンになっていかなければいけない

最後に、一番言いたいのがこれ。
これまでの日本庭園のパブリックイメージ=
大人の男性が「上から難しい言葉を言ってくる感じ」は、残念ながらもう時代に望まれていない。(自分も中年男性だけれど…)
そして、次世代に残していくのは、今の10〜20代だ。

彼らが主役になれる・希望が持てる
「日本庭園シーン」
を作っていってほしい。

最後に、「日本庭園シーンの課題」とも通ずる、
『茶道人口の減少について』
という興味深いエントリへのリンクを貼って終わりにします!
長文を最後までお読みいただいた方、お疲れ様でした。


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