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デジタル聴診器が作る医療

 オンキヨー開発部の河村です。
 

みなさん、体調はいかがでしょうか。最近の医療機器は非常に進んでいて、病気の早期発見が相当進んでいるそうです。定期健康診断などちゃんと受診しましょう。

という前振りをしたうえで、今回も、当社の技術を生かした製品のご紹介です。今回は、開発中のデジタル聴診器(電子聴診器)を紹介いたします。

デジタル聴診器

医師や看護師の方々が使われている聴診器って、見たことがある方がほとんどでしょう。チェストピースと呼ばれる円形部を体に当てて、ゴムのチューブを通った音を耳で聞く、という聴診器です。この聴診器、その見慣れた構造になってから100年以上経過しているそうです。100年以上経過しても使い続けられている聴診器、発明した方は素晴らしいですね。
 

アナログ聴診器、100年以上、構造が変わってないのはすごい!


こちらを便宜上、アナログ聴診器と呼んでみます。

このアナログ聴診器とデジタル聴診器とは何が違うのか。それは、音がデジタルに変わっているかどうか、です。従来のアナログ聴診器は、音を拾い、音道(音の通る空洞)を通って、耳まで届ける、という仕組みです。それに対して、デジタル聴診器は、音を一度、マイクやセンサー等で取得し、取得した音を増幅した後、デジタル信号に変換して、再生する、という構造です。アナログ聴診器が音響的な構造で実現しているのに対し、電気的な構造が入っているのが違いです。
 
当社はオーディオ会社として、デジタル化された音楽を増幅し、スピーカーやイヤフォンで再生する技術を持っていました。聴診器はその逆ですが、技術は近いものがあります。アナログ聴診器は作れませんが、デジタル聴診器ならば当社の技術を使えるのでは、という発想から開発を開始しました。
 
 
使えるかどうかを確認するためにも試作機が必要なので、まずは簡単な原理試作から作り始めます。
聴診器でキーとなる開発は、音を取得する部分です。聴診音を正確に、できるだけ大きく取得しようとすると、構造、材質、など工夫が必要です。ここで役立ったのが、スピーカーの技術。スピーカーは、紙などで作るスピーカーコーンを振動させて音を出しますが、逆に振動したコーンを磁気回路やセンサーで取得すると音を取得できます。それらの知識、経験を参考に、正確にとるための構造、材質を選定します。

ちなみに、一番初めの試作は、N〇SPRESSOさんのコーヒーカプセルにセンサー素子をつけて、原理試作を作っていました。

一番初めのピースの試作。開発ってこういう手作りで地道に始めます

 
オーディオの回路技術も大活躍です。聴診器で取得される音は非常に小さい音です。これを聞こえるまで増幅するのですが、元々の音にノイズが入ってしまうと、ノイズまで増幅することになります。実は、電気回路は回路だけでなく、基板の配線パターン(基板上で信号や電源が通る線)のデザインによって、ノイズの発生の度合いが変わります。ノイズはオーディオにとって大敵ですので、長年の当社のノウハウであるノイズが発生しないようなパターン設計を活用し、回路を開発しました。


取れた波形がこんなんでした。これ、心臓の音です。心臓の音って「ドッ、キン」とよく言われますが、心臓の弁が閉じる音です。2回音が取れているのが分かります。

試作機で取得した心臓の音

 
開発した試作機は、共同研究している金沢医科大学の現役の医師である先生に聞いていただき、非常に高い評価をいただきました。
 

今は、それを発展させ、試作機がこんな感じになりました。

デジタル聴診器試作

聴診器の既成概念が変わる、未来感のある形です。もちろん、これが完成形ではありません。さらに開発を進め、技術を積み重ねています。


では、そのデジタル聴診器、はどのように役に立つのでしょうか。

アナログの聴診器は、患者と医師が同じ場所にいなければ音を確認することができません。しかし、デジタル化された聴診音は、公衆回線を使って、地域の病院に送信することが可能です。自分自身、もしくは近くの看護師さんに聴診してもらい、それを遠隔にいる病院の医師に聞いてもらうことで、病気の改善度や深刻度、などを場所が離れていても、確認することができます。つまり、「オンライン診療」です
 
もう一つのメリットは、聴診音を録音データとして残しておくことが可能になるため、その人の心音、肺音などの変化をとらえることができます。1年前の心音と今の心音を比較することで、改善しているか、もしくは悪化しているか、変化を確認することができることになります。録音されたデータを活用すれば、AIを活用して、体調の変化の兆しをとらえたり、将来的には診断まで実現が可能になる、と考えています。そのため、現在、AI開発も行っています。

 
まだまだ普及していないデジタル聴診器が今後普及していくのかどうかは未知数ですが、オンライン診療が拡大すると考えると、遠隔での聴診音、というのはデジタル聴診器が不可欠、になります。データを一度デジタル化し、その音声を5Gなどの公衆インフラを通じて送信し、遠隔の医師が聞いて判断する、という状況は容易に想像できる世界です。誰一人取り残さない、という理念であるSDGsを実現するためにも、離島など過疎化の進む遠隔地で居住する方、体が不自由な方が、同じ条件で診療が受けられる、ことは重要なことだと考えています。
 

デジタル聴診器を利用した将来のイメージ


この技術を活用し、このデジタル聴診器を一緒に製品化、サービス化を進めるパートナー企業さんを募集しています。医療機器会社、またオンライン診療に取り組んでいらっしゃる会社でご興味のある方がいらっしゃいましたら、お声がけ頂ければ幸いです。

明るい未来を創れるように技術開発を進めます。

それでは、また次回。



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