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ナイト・イン・ザ・ウッズで自分自身を探せ(あごぶろぐ)

常にゲームという車に乗りHIGH-WAYを突き進んでいる自分だが最近はずっと映画を見ていた。M・C・U……マーベル・シネマティック・ユニバーッス。もちろん全てはアベンジャーズのためだ。自分は映像に見入り、倒壊寸前のビルの中からソーとかキャプテンが宇宙人とかトニーの身から出た錆と殴り合うのをじっと眺めていた。時に声を上げ、頭を抱えて唸ったりもした。だが……ヒーローたちと同じように自分も疲労を隠せなくなってきた。戦いはあまりにも長すぎた。フェイズ1から大体ぜんぶ見ているので、これはすごい数の戦いの歴史を目撃してきたことになる。肩が凝ったし、チーズを食べ過ぎたし、何よりゲームから遠ざかりすぎた。そろそろ寄り道をやめ自分もそれぞれのHEROのようになすべきことを、ちゃんとやる……そのためにまずは洞穴の奥にしっかりと隠しておいた秘蔵のゲームを引っ張り出し、封を開けた。名前は「ナイト・イン・ザ・ウッズ」。今日はこれを紹介してから次の旅へ向かおうと思う。

トレイラーを見たか? 自分はだいたいゲームを紹介する記事をやっているときはトレイラーへのリンクを貼った時点で7割くらいまんぞくする。一仕事終えた面持ちになり、腰を下ろしてティンパニとかを叩き出す……それほどまでにトレイラーの紹介力は強い。例えばAPEOUTのムービーではゴリラが人間ぶちまけるゲームだとわかる。デッドセルズなら主人公が繰り返し死ぬことがわかる。トレイラーはゲーム性を見ている者の網膜にせんれつに焼き付け、やがて脳内ゲーム物質とかが超反応して買いたくなるという寸法だ。だが、このナイト・イン・ザ・ウッズの場合はトレイラーを見ているだけでは何もわからない。猫が町を走って……なに? 散発的なミニゲーム……星……あらゆるものが流れていき、やがて映像は終わる。プレイしたことがないヤツには何が何だかわからないはずだ。ここで逆に「ほうほう……これは抑圧されし暴力的衝動が猫の皮を被って……フロイトによると男根の……」とかしたり顔で分析を始めるやつがいたら自分はかなり苛立つだろう。知ったかぶらず素のままで勝負しろ、と書いた矢文を飛ばすかもしれない。

自分はついこないだこのゲームを二回クリアした。二回だ。あれほどまでに必死に追っていたアベんジャーズのこともその間は忘れていた。決して長くはない日々だったがストーリーから、キャラクターから幾つもの痛烈なメッセージを受け取った。寝床の中で色々考えて眠れなくなったり、夢に見たりもした。結論から言うと全人類にやってもらいたいゲームなのでこのNOTE大陸からボトルに紹介記事を入れて大海原に放流する気になった。だが・・・物事には常にやる理由とやらない理由が同時に存在している。「トレイラーを見ても何をするゲームなのかわからなかった」「元が海外のゲームだからローカライズがしんぱいで」「じっきょうどうががあるから」ゲームをしないという選択だけではなく、間接的にゲームを体験する方法すらこの進みすぎた現代には存在している。自分はそれを否定する気はない。だが、ナイト・イン・ザ・ウッズだけは手ずから、やれ……絶対にだ。そう言うためにここに来た。

・どんなゲームなのか・・・?

この物語のいわゆる主人公は猫のメイだ。コイツは何か事情あって大学を中退し地元であるポッサム・スプリングへと帰ってきた。衰退を止める力も残っていない小さな田舎町であるポッサムは人気が少なく、夜は薄暗い。トボトボと家路へ向かうところからメイの帰郷はスタートする。ジャンルはアドベンチャーだ。つまりプレイヤーはメイを自由に動かして、建物の上にのぼったり、通行人に話しかけたりする。町の住民にも人生があるのでメイを面白がったりあるいは迷惑がったりするだろう。窓際で本を読んでいたらベランダに知らない若いヤツが着地して大きい二つの目でこっちを見てきたらどうする? さらに話しかけてきたら? 住人の側に立って考えると恐ろしいヤツだ。そんなメイを操作しポッサム・スプリングを駆け回ることになる。

メイには高校やそれ以前からの付き合いがあり、ポッサムに留まっている彼らとの交友は物語の大いなる鍵だ。友人たちは理由も聞かずに帰ってきたメイを歓迎し、マズいピザを振る舞い、共に楽器を演奏したりする。温かみ……居心地の良い世界だ。だが居心地が良いということは誰かが努力してその空間を維持しているということに他ならない。モラトリアムの中で停滞しているメイとは違い、地元に残った友人たちは成長を続けている。良くも悪くも。その一方でメイは夕方に目を覚まし、町へ散策を出かけ、仕事中の友人たちと過ごし、帰宅して眠る。基本的にはこのサイクルの繰り返しだ。起きて、遊んで、眠る。変化する町の中でメイの生活だけは変わらず、そこにどことない居心地の悪さを感じる仕組みになっている。プレイヤーはメイととめどない焦燥感を共有することになる。そして……あるとき、町に異変が起きる。

全四章の物語は進むごとに先に暗雲が立ち込めてきて、やがて見る者は震えて動けなくなり、飲み物を取り落とすだろう。少なくとも自分はそうだった。いいか? プレイヤーはあほのボタン押し係になって話を流し見するのではなく、寂れた田舎町であるポッサム・スプリングで起こる不気味な失踪事件を鷹の目で睨んでいなければならない。なぜならメイは否が応でもその事件に巻き込まれていくからだ。ハッキリ言っておくがメイは冷静ではいられない。事件に関して深く考え込めるのはプレイヤーだけだ。酒を飲んで酩酊状態だったり、眠すぎてわけがわからない状態だとプレイヤーは役に立たない。ちゃんと健康管理をした上でナイト・イン・ザ・ウッズを買い、ポッサムの町に降り立て。メイのような極限状態で臨む必要はない。

・色んなやつがいる

ナイト・イン・ザ・ウッズの一番の魅力はキャラクターだ。キャラクターが生きていてこそ物語は色づく。そしてここが最も重要な点だが日本語はばっちりローカライズされている。全て、200%の精度でだ。つまりキャラクター同士の親しい掛け合いから生々しい罵り合いまでアルティメット・ローカライズでこちらに伝わる。細々としたむつかしいニュアンスとかまで全部だ。自分が特に気に入っているのは登場人物が相手とのコミュニケーションに失敗したときの「がああああ!」、そしてどうしようもない現実に打ちのめされたときの「チクショー」の一言だ。もうわかってきているかもしれないが、このゲームは明るい話ばかりではない。人と人が傷つけあい、思いやりが逆にはたらく場面だってある。だが、誰もが懸命に生きていることがプレイすれば絶対にわかる。そういうリアルを描いている作品だ。

メイ:物語の主人公である大学中退した猫だ。好物はタコライス。コイツは昔から変わり者でこそあったが優しさと知性も兼ね備えていた。しかし何らかの事件があったり、大学を中退して戻ってきたりなどで心に傷を負ってしまった。いまは満身創痍の状態にある。手負いの獣とくゆうのやけくそオーラをまとい、電線の上をジャンプしたり軽犯罪に手を染めたりしている始末だ。モラトリアム真っ最中のコイツにどんな印象を抱くのか、それはプレイヤー次第だ。自分の過去や境遇を重ねて切なくなるヤツもいれば、勝手なさまに呆れ果てるヤツもいるだろう。メイは誘われるようにポッサムの裏で起こる怪事件へと首を突っ込んでいく。懐中電灯を手にし、自分もその後を追って深い森に踏み込んでいった……。

メイはたまに大きな姿見に自分の姿を映して自問自答する。その様子はこのナイト・イン・ザ・ウッズと我々プレイヤーの関係にも似ている。メイや周りの人々のどんな境遇に、どんな言葉に共感するか? あるいは嫌悪を抱くか? それはプレイヤーが送ってきた人生によって大きく異なるだろうからだ。このゲームはプレイヤーを映し込む鏡でもある。

グレッグ:町外れのスナック・ファルコンでバイトをしているメイの親友だ。メイが帰ってきたことを友人の中では一番に喜んでいる気の良い男で、メイと不安を共有するプレイヤーはこいつの存在に幾度となく救われることになるだろう。かつてのメイの印象では数年前まで町のゴロツキめいていたグレッグも今は真っ当に仕事をやり、真っ当に生きている。メイとは違う時間を過ごしてきたわけだ。しかしその一方ではグレッグは仕事を退屈だと言い放ち、メイをバンド練習や蛍光灯破壊ゲームに誘う。メイの体験する一部の遊びはそのままミニゲームとしてプレイすることができる。蛍光灯破壊ゲームはグレッグのバイト先の備品である蛍光灯を割り続ける遊びだ。メイが順調にやっているとグレッグは瓶を投げて妨害してくる。こいつの狙いはなんだ? なぜ蛍光灯を割る? もちろん答えは用意されている。確かめてみろ。

ビー:こいつはかなり苦労している。朝から晩まで仕事をして疲れ切っているからだ。息抜きもしたいがポッサム・スプリングは終わりすぎている。ピザ屋も潰れる始末だ。一番近いショッピングモールはほとんどシャッターで閉じられ、かつての思い出も虚しい。そんな環境の中で必死に戦っているビーなので当然、モラトリアムを得たメイに対しての当たりは強くなる。ビーとメイの関係を一言で言い表すのは難しい。自分はビーの境遇を尻、グラスを置いてちょっと俯いて考え込んだ。どう言葉を掛けてやればいい? どうすればビーは救われる? だが主人公はプレイヤーではなくメイで、メイの言葉しかビーに届ける術はない。救いあれ……自分はそう祈り、男気わさビーフの袋を開けた。ツンとしたワサビの薫りが辺りを漂う。

アンガス:右上の大柄なクマだ。グレッグの恋人であり、二人暮らしをしている。グレッグによるともっともHOTなポイントは尻。アンガスは頭がよく常識的で、およそ悪いところが見当たらないできたヤツだ。メイのパソコンがエロサイトの見過ぎでしっちゃかめっちゃかになったときもアンガスは何も言わず直してくれた。大したやつだ。

この他にもポッサムには色々な住民がいる。掴みどころのない友人ジャーム、メイを殺人鬼と呼び気晴らしに誘うローリーM、精神の安定のために詩をやっているセルマーズ、放浪ホームレスのブルース、いつも喧嘩ばかりしているあほの地元役員四人組などだ。こいつらとメイとの関係性はそれぞれ大きく違うが誰もが人間らしいリアルな悩みを抱えながらポッサムで暮らしている。毎日同じことしか言わないキャラクターではなく、喜怒哀楽がありメイの言葉で一喜一憂する。ハッキリと言っておくが路上で会う彼ら、彼女らとの交流がゲームの結末に影響を与えることはない。世界がいっきに良くなったり、温暖化が解決することもない。だが……彼らは確かにそこに息づいている。話しかけずにはいられなくなるはずだ。

・二周はしろ

ネタバレのなんかにならないように配慮しながらも言っておくべきことがある。二周は絶対にしろ。ナイト・イン・ザ・ウッズは一周ではすべてのイベントが見れないようになっており、プレイヤーが逆立ちしても世界チャンピオンのベルトを締めていてもそれを覆すことはできない。なぜか? チャプターが進んでいくとメイは共に過ごす相手を選べるようになり、その選択によってちょっとした変化がもたらされる仕組みになっているからだ。これは自分の経験に基づくれっきしたTIPSだから信じろ。自分は物語に隠されているだいたいの秘密に関しても一周した時点ではさっぱり何も掴めなかったが二周するとようやく得心がいった。絶対に二周しろ。チャプターが飛ばせないからめんどうだとかそういった泣き言は受け付けない。買った以上はメイの物語の一部を見届ける必要がある。我々はそういうウォッチャー……立場にある。責任を果たせ。

今の自分は歯がゆさを感じ、ギリギリと歯を鳴らしながら刃を研いでいる。内容につよく踏み込まないままだと言えることが限りなく少ないからだ。いずれ自分が思ったことをネタバレに配慮せずに書きまくる……そういう記事を書くことになるだろう。遠からず、やる。そのために今は紹介だけしてTEXT筋肉を育てることにだけ専念しているというわけだ。

このゲームはPC、PS4、Switchなどだいたいどこでも売っているが自分と同じようにSwitchで買った/買うやつがいればニュースチャンネルのほうをチェキするといい。ソフトを購入すれば自動的にチャンネルも見られるようになっているはずだ。ここには幾つかのイベントを起こすためのヒントが紹介されており非常にタメになる。この手の要素は結局のところマメにやったヤツだけが最大限楽しめる。適当に駆け足でクリアしたヤツが「よくわからなかった!」と酒場に飛び込んで感想を言っても四方八方から銃を突きつけられ、なさけなく死ぬ。そうなりたくなければ気になる住民に毎日話しかけろ。あらゆる建物へジャンプを繰り返せ。助走をつけてから跳べ。1,2,3のジャンプ……三度目のジャンプの時のメイの声はまったくかわいくない。そこに好感が持てる。メイのジャンプボイスに比べればマリオのヤツは客に媚びすぎているくらいだ。

先ほど書いたがこのナイト・イン・ザ・ウッズは鏡のようなものだ。それは等身大のキャラクターの人生に触れながら先へと進んでいくからに他ならない。プレイする人間の年齢や経験によってキャラクターに共感できたり、共感できなかったりは様々だ。そこに正解はない。だが一つ言っておきたいのは自らの目で見て欲しいということだ。世の中には実況のやつとかVチューバーのとかが溢れかえっており、それ自体はべつに良い。

コンテンツとして時代に即しているので特に言うことはないが、ナイト・イン・ザ・ウッズに関しては自分は首を横に振るだろう。「なぜ? ゲームを見るという点では変わらないのでは?」そうした意見もあると思うが自分の意見は違う。実況してるやつの送ってきた人生は見ているやつの人生とは違う。あほでもわかる当然のことだ。違う人間だからだ。そして違う人間である以上、それぞれのフィルターが掛かる。実況のやつが見たときのフィルターを通して、メイの体験を見る……それは一人でゲームをしているのとはワケが違う。だから自分自身の目で、ちゃんと物語と向き合ってほしい。どうしても実況が見たければ自分でクリアしてから、見ろ……そもそも金を惜しんでいるから買わないやつとかに関しては知らん。そういうやつはどのみちポッサムに行っても何も得られないからだ。

ここまで読んでいればだいたいわかるはずだがこのゲームに操作などで得られる爽快感はあまり多くはない。アドベンチャー……物語を読み解いていく仕組みが骨子そのものだからだ。だが人の心持つ者であれば必ず心ゆさぶられる素晴らしい仕上がりになっている。自分は太鼓判を何度でも押すだろう。プレイヤーは秋から冬へと移り変わるポッサム・スプリングに自分の心を探す。そしてメイが繰り返す日常の中に何らかの答えを見つけることができればポッサムへの小旅行は確実に報われるはずだ。また、物語を読み解くためのHINTOは何気ない会話に隠されていたりするので物語を考察するのが好きな者ならより一層楽しめるだろう。このゲームのつくり手はポッサムにいくつもの宝箱を隠した。その中身が黄金か土塊かはプレイヤーによって異なるだろう。戦士なら……黄金を掴め。

いま、この記事はポッサムから出発する鈍行列車の中で書いている。いずれこの記事ともうひとつ書くなんでもありネタバレ記事のほうを書き終えし時が訪れれば次の列車に跳び乗り出発することになるだろう。今度こそアベンジャーズの旅だ。きっと長旅になる。その前に自分自身について見つめ直せたことは何よりの幸いだった。車窓から次第に景色の中で小さくなっていくポッサムの町を見ながら、自分はメイとその友人たちへ心の中でエールを送った。「GANBANNASAIYO...」と。

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ドーモ! ドネートは常時受け付けています。 ドネートはときにおやつやお茶代に使われます。