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のののーと10

「わぁ雪だ。こんな季節に雪なんて」

私がベランダから下に向かって発泡スチロールを削っているだけでこいつは雪だとはしゃぐ。物凄い行列に並ばせてこれは儀式だというと「そんな神聖なのあるんだ」と喜んで2〜3時間平気で並ぶ。そんなやつだ。そんなやつだこいつは。
「今日どこ行く?」とそんなやつが聞いてきた。
「棒を倒して倒れたほうに行こう」と適当なことをいうと目を丸くして「そんな、方法が!?」と驚く。この世界の人間ではないのだろうか。異世界人か?と驚くほどたまに常識の外にいる。“青信号”を本当に探したくらいだ。ずっと“緑しかない”と言っていた。
棒を高く投げて倒れた方に歩いた。当てもなく。まぁ特にゴールは決めていない。ずーっとずーっと歩いた。当てもなく。

「これ、ゴールあったらどうする?」と私が聞くと
「あるならあるで面白いね!わくわくするね!」と答えた。

どこまで歩いてもゴールもなけりゃ壁もない。どうしたものか。行き止まりにでもなって早く終わらせたかったからこれを始めたのに終わる気配がない。

「ずーっと何もなかったらどうしようね」と聞かれた。
「それは困るなぁ」
「なんで?」
「おれ、忙しいからさ」
「どう忙しいの?」
「どうって、忙しいから忙しいんだよ」
「そうなんだ」

“忙しい”という言葉に形容するものがあるのだろうか。“どう”とはどういうことだろうか。しこりが残る。

「忙しいってどういうことだと思う?」と尋ねてみた。
「時間がないということ?」
「そうだろうね」
「でも、時間がないことはないよね。時間は平等だと言われているんだから。忙しいを認めるということは時間というものは物質として存在していることになるよ。忙しい人はその時間という物質が他の人より少ないということになるよ。本当にそうかな?」

思ったより難しい答えが返ってきた。何も返せずにいた。

「お前、ほんとは賢いのか?」とふと聞いてしまった。

「賢くはないけど知識はあるよ。人よりはね。でもその経験や知識をひけらかすのはダメだと学んだ。バカでいいんだ。それが一番賢い選択。だから僕は今のままの僕でいいんだ。だから君も今のままの接し方で頼むね」
「お、おう」

こういう側面を見ると真正面がどんなだがわからなくなる。私はなった。この会話のあとから彼のあいつの真正面がわからなくなった。

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