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内田裕也三部作

こっち側

子供の頃はおじさんがくれた映画館の招待券でよく映画を観に行くことが出来た。東急系列の映画館だったから新宿ミラノ座や渋谷東急、時には二子玉川東急とかに行った。
東映マンガ祭にはじまってアニメから、当時のハリウッド作品まで色々観に行った。
それまでは普通に映画は楽しいなぁという場所にいたはずだ。

僕が製作側を意識したのはどう考えても高校時代のはずだ。
はずだと書いているのは記憶が曖昧になっているから。
でも確かに中学まではそんなことは考えたこともなかったし、高校を卒業したらすぐに演劇の道に進んでいた。
だから高校生の僕に何かがあったとしか思えない。

映画好きのモリヤス

モリヤスは映画が好きだった。
僕の知らない映画をたくさん知っていたし、好きな俳優も僕の知らない名前だったし、色々な試写会に応募していたりした。
どういうわけかモリヤスは試写会に当たると僕を誘った。
仲の良い一人だったけど、なんで僕だったのかはよくわからないままだ。
とにかくモリヤスと映画を観に行って深夜の公園で映画の話なんかをした。
モリヤスは家の悩みとかその公園で二人きりで僕にした。
今、思えば映画に誘うよりも公園で二人で話したかっただけかもしれない。
夜遅くに新宿の住友ビルのエレベーターで展望台に行って。
夜景を二人で観ながら話したのを覚えている。

高校生なんてスポーツとか恋愛とか部活でも良いけれど。
なんというか青春的なことがたくさん待っていると思っていたけれど。
わりかし僕たちはただ時間を持て余していただけな気がする。
駅までバスで10分の学校だったのに僕たちはいつも駅まで歩いた。
最初は3人だったのが最後にはなんだか大人数になってた。
ただ話しながら歩いて途中のお肉屋さんでコロッケを買って、駄菓子屋さんでうまい棒を買って、公園のベンチで暗くなるまで話してから駅に行く。
将来に不安だらけで、やりたいことも見つかってなかったはずだ。

夏休みの深夜劇場

夏休みは昼夜逆転。自分の部屋で深夜テレビを流して、漫画やら本やら好きなようにしていた。
それが何年生の夏休みだったのかも覚えていないけれど。
ある日、今まで見たこともない映画が流れ出した。
「水のないプール」
内田裕也が水のないプールに寝そべっているおかしな映画。
なんだこれは。僕の知っている映画とは違うぞ?
僕はいつの間にか魅入られていた。

モリヤスに教えてあげようとか思って見続けたのだろうか?
あの頃、モリヤスはまだ学校を辞めてなかったかな?
その辺の記憶も曖昧なままだよ。

そのままその深夜劇場は三夜連続で映画を上映した。
「十階のモスキート」
「コミック雑誌なんかいらない」
訳が分からないまま僕は毎日見続けた。
CMも入らないで一挙放送してくれていたと思う。
3作品とも主演は内田裕也で、実際にあった事件をモチーフにしていた。

何かを撃ち込まれた

あの頃、深夜に何かを僕は撃ち込まれた。
その三夜連続はやけに覚えているのだから間違いない。
全身が痺れるような感覚になった。
他にも深夜テレビからはたくさんの影響を受けている。
「台風クラブ」なんかも深夜テレビでやったはずだ。

もちろん映画以外からも。
竹中直人さんの「オレンジ・ページ」とかさ。
当時の朝まで生テレビなんかで赤尾敏が出ちゃったりさ。
極めつけは湾岸戦争のあの生中継だったしさ。
とにかく僕は明るくて楽しい場所から急に、広くて深い世界を意識するようになったのだと思う。
衝撃というものを何度も小さな箱から受けた。
聴く音楽もがらりと変わっていった。

衝撃の記憶

記憶に残っている映画はたくさんある。
一連のスピルバーグ作品とか楽しかったしさ。
ドラえもんで泣いたり、おじゃマンガ山田君とかじゃりン子チエとか、なんじゃこりゃ?ってなったりさ。
ヤマトはいつまで経っても終わらないし、千年女王たちの船は今でも忘れられないし、カンフー映画だってなんだって記憶にこびりついている。

ただ衝撃を受けた記憶というのはなんだか別な気がする。
この3作品の前の衝撃の記憶って何だろう?
エレファントマンがただただ怖かったとか、インディージョーンズの猿の頭を割るシーンとか、そういう衝撃は残っているけれど。
でもやっぱりなんか質の違う衝撃を僕は受けた。

それはなんというか。いてもたってもいられないというか。
ちょっと時間を持て余している自分の予測できる未来が変わった瞬間だったのだろうと思う。
僕は平凡なガキの一人だったと思うし、衝撃なんて受けないままの未来もあったのかもしれない。まぁ、考えれば考えるほどその可能性は低いけれど。

みたこともない映画

多分、それからずっと僕は観たこともない映画を探していた。
ずっとずっと。
バイトは年末ぐらいしかしない高校生だったからまだ映画館にはそんなに行けなかった。
それでも何かにつけて探していたんだと思う。

どうもその辺が僕のスタート地点なのだろう。
従兄弟が映画監督を目指していて8mmなんかが近くにあったけれど。
いくら思い出してもそんなに興味があったわけじゃなかった。

あの3作品に出会った衝撃の余韻が今なのかもしれない。
その先に僕の映画があるとしか思えない。

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