シャンパングラスで日本酒を④

現代を生きるこんな女がいる。フィクションかノンフィクションかは秘密。

他人の為に生きる毎日なんてつまらない、つまらないと思われそうな人生なんて歩みたくない。私は私の思うまま、誰にもとらわれずに理想を貫いて人生を全うしたい。例えるならば、私はシャンパングラスで日本酒を飲みたいのだ。きっとこれは、普通の人生が幸せだと思っているあなたには、到底理解できない例えかもしれないけれど。

既婚男と別れた後、私はもう一人既婚男と付き合っていた。大学時代の二つ上の先輩で、彼は自分が結婚をしていることを最初に告げてくれた。結婚をしているが離婚調停中で奥さんとは一緒に住んでいない。もうすぐ別れるから付き合って欲しいと言われていて、正直悪い気はしなかった。大学時代には目立つ先輩で人気のある人であったし、前の男のように結婚をしていると嘘をつかなかった。子供がいないなら離婚も大した問題ではない。私は先輩と時々飲みに行き、そのあと私の家に泊りに来るという事を何度か繰り返していたが、数か月が過ぎた頃に、なんだかつまらなくなってしまった。
「そんなにすぐ次の男見つかるけど、好きなの?」と友人に言われて、ふと我に返った。よくある恋愛指南書で「好きとは何か」のような問いを見かけるが、くだらない事だと思っていた。考える必要がない事だと思っていたし考えて答えが出ることでもないからだ。でも、いざ問われると、先輩のことが好きなのかはよく分からないし、離婚調停というものが一体どんな流れでいつ終わるのかもよく分からない。もしかして、私が先輩と会っていることが知られたら、不倫で慰謝料なんてことになる可能性もあるのかもしれない。
 普通に結婚していない男と恋愛しよう。車を持っていて都心から離れた場所に住んでいる男は既婚率が高いから気をつけよう。彼ら二人から学んだことを生かして、次の男を探そうと思い、自然とこの男とは会わなくなった。

 さて、何故私が三十五歳を目前にして過去の恋愛話など語っているかと思われるかもしれないが、理由は簡単で「いつだって恋愛話は盛り上がるし、思い出して楽しいから」だ。こんな男が居て最高だった、あの男は最低だった、誰が誰とどうした、そんな話をしている時は、仕事のストレスも将来の不安も忘れて、ただただ愉快だ。
 勿論、いつまでもそんな話題ばかりしている事が正しいとも思っていない。ここ数年で友人達が本命の恋人を持ち始め、同棲や結婚を始めていて、年齢的に私もそろそろと思っていた。
なので突然ではあるけれど、私は結婚をすることにした。正式に言えば一昨日入籍をしたのだ。ここまで三人の男との恋愛について話をしてきたが、最後は私の夫について話をしようと思う。
 彼との出会いは二年前、三十二歳の誕生日後くらいだった。友人の幼馴染である彼と合コンで出会い、付き合って欲しいと告白をされたので付き合ってみることにした。私の理想とする男とはかけ離れているような男だが、私も三十二歳になったし、友人の幼馴染なら悪いようにはしないだろう、それに何より、付き合って欲しいと言ったからには大切にしてくれるだろうと思った。
 付き合いを始めた当初、私は彼に対して愛情はなかったと思う。大雑把で楽観的な私に対して彼は几帳面で真面目な性格で、待ち合わせに五分遅れるだけでも、ネチネチいうような男。理想ではない上にこんな細かい男と付き合っていけるかと何度も思ったが、もうこの先に新しい恋愛をする事も面倒だし、新たに出会えるかも不安だし、クリスマスには数万円するアクセサリーをくれたので、まぁなんというか、それでチャラに出来るくらいの心の余裕はあった。
 彼との付き合いが一年を迎えようとする頃に、彼の誕生日が近付いてきた。そろそろ付き合って一年になる。来月の私の誕生日にはプロポーズをされるかもしれないし、ここは思い切って奮発をしようと私は考えた。丸の内のオフィス街高層階にあるバルでディナーをして、有名ブランドの財布をプレゼントしたところでタクシーに乗り込み舞浜にあるリゾートホテルに宿泊をして翌日はディズニーシ―で一日遊ぶ。金額的に十万円程かかってしまったが、来月の私の誕生日やこれからを考えたら、先行投資だと思えばいい。
 それなのに、この男は「随分とお金使ったね。」と少し小馬鹿にしたような台詞を吐いたのだ。ここまでしてあげたのに、まさかそんな言葉を言われるとは思わなかったが、結果的に相当額の誕生日プレゼントを買ってもらえる事になったので、自分で資金を追加して高級ブランドのダウンコートを買うことにした。普段の我慢と与えてあげている行為からしたら当然だと思うし、このダウンコートのおかげで、彼が私に言った酷い言葉もどうでもよく思えた。

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