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ドットコム起業物語~蹉跌と回生のリアルストーリー

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90年代終わり。いまや伝説となったビットバレーに飛び込み起業した20代の青年がバブルの波に翻弄されながらも楽天へと企業売却するまでの、蹉跌と回生のリアルストーリー。 起業におい… もっと読む
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#人生を変えた出会い

第9話 ビンテージデニムの男

← 第8話 当時の、日本のベンチャーキャピタル(VC)業界は、昨今の姿に比べれば、少し滑稽な状況だったのかもしれません。 普通に考えれば、VCも金融サービスなので、行動原理はおおかた同じ。であるはずなのですが、まだ業界が勃興期で経験不足だったということもあったのでしょう、誰もかれもが外資ファンドのように手仕舞い。または、賢く引き締めをした訳ではありませんでした。 実際には、投資といいつつ、融資のような感覚(と、手法)で業務にあたられていた、オールドスクール派のVCも多か

第13話 君は狂人になれるのか

← 第12話 日本最大のB2Bサイトを目指して出航した矢先に、大海原で羅針盤が故障してしまったProTrade号。景気の「なめらかな下り坂」のもと、奮闘は続いていきます。 足もとの、新規登録はぼちぼち、取引成約もぼちぼち。なんというか、ブレークしない売れない漫画家状態でした。毎日のように「いきなりバズって大化けしますように」と祈っていたと思います。 さて、8月末。いよいよガソリン(運転資金)が足りなくなってきました。 当時の僕のメモには、メンバーとの個別ミーティングの

第14話 沖からのうねり

← 第13話 2000年9月初旬の、とある日、新宿パークタワーの高層階。巨大な会議室の、やたらと対面との距離が遠い、幅広の長テーブルの真ん中で、僕はある男と向き合っていました。 彼の背後、一面のガラスには、広大な関東平野と、くっきりと縁が浮かぶ富士山。なんとも雄大な景色が広がっていました。 その男は、その景色を、まるで我が物のように支配しているかのようにも見えるし、でもなぜか、支配されているようにも見えるのでした。 それは、山脈の陰に落ちてゆく夕陽が綺麗な、夏の終わり

第15話 ハンターモード

← 第14話 クレイフィッシュはプロトレード よりも3年早い、97年創業の会社。中小企業向けに、メールサーバー購入不要でメールを利用できるサービス、Hit Mailを開発。営業を光通信に全面委託して、急成長していました。 2000年3月、バブル崩壊の2ヶ月前に、滑り込みで上場。しかも、東証マザーズと米ナスダックの同時上場という離れ業をかまし、市場から246億円を調達していました。 対面に座るのは、それを成し遂げた男、松島さん。まさに時代の寵児でした。当時の会員数は70万

第16話 こだわりと、愛と

← 第15話 思いきって、企業売却に舵を切り、秘密裏に行動を開始した僕ですが、その決断については決して揺るぎない信念を持っていたわけではなく、毎日のようにブレていたと思います。 まだやれるんじゃないか。 俺は逃げているだけじゃないか。 何だかんだ、綺麗にまとめようとしていないか。 頭の中では、 「これは合理的な選択である。」 「迷っている時間はない。断固と進めるんだ。」 というロジカルな指令が、飛んできます。 しかし、心の中では、会社を売る。という行為への罪悪感と、自

第17話 銭形吠える

← 第16話 少しバイアスがあるかもしれませんが、ベンチャー企業と、関わりを持とうと接近してくださる方々の中で、保険業関係の方々は、目の前の損得を一旦置いて、まずはギブをしようとしてくれる方々が多かったように思います。 「社長の下の名前と、私の名前とは、同じ漢字が使われているのを発見し、大変感動しました。ぜひ一度ご挨拶させていただきたい。」 と、訳のわからないコンタクト理由が盛り込まれている、手書きの手紙を送ってくれた、熱血生命保険営業マン、陣野さん(現アクサ生命保険エ

第18話 連続下降

← 第17話 話を元に戻しましょう。9月にクレイフィッシュの松島社長とお会いし、その場で、「一緒にやりませんか」という話となりました(第14話)。 そこからボールを受け取って、具体的なスキームに落とし込み、実務を進めていただく役を担われたのは、取締役最高執行責任者、荒巻さんでした。 はじめて荒巻さんとお会いした第一印象は、ずいぶんと男前で、鼻が鷲のように高い、颯爽とした人が出てきたな。と思ったことと、画数の多い漢字が10個も並ぶタイトルを持たれて、書類記入が大変だろうな

第35話 押し切る力

← 第34話 ちょっと、失礼。 楽天の中目黒オフィス、5Fの大ミーティングルームの、華奢な男性。山田常務が立ち上がって退出していきました。 残された澁谷さんと僕の間では、会話がしばし続いていましたが、僕は次の展開を想像し、うわの空だったように思います。 次こそ、ラスボス登場に違いない。 落ち着け、俺。 けれども、意思に反して、自分の心拍数が上がってゆくのが分かります。どこか冷めた目で、「俺って小物だなぁ」と、外から見つめている自分がいました。 ここで、澁谷さんが

第37話 本当のプロダクト

← 第36話 プロトレード 社にとっての、2000年10月は、奇妙な時間の流れのもと、ゆったりと進んで行きました。 楽天への合流に向け、お客様へのアナウンスの準備、システムの移管、会計、法務的な処理などなど。新規の開発や広告営業はストップ。 オフィスの退去も、もともとNetAgeがまとめて借りてくれていたフロアの、又貸しだったので、スムースでした。確か家具などの備品は、お隣のファインワインさんにお譲りしたと思います。 メンバーは、役員と社員だけでなく、アルバイトだった