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【相互探求の文化づくり】ワークショップレポート#1 | 聴覚障害者×聴者 in 筑波技術大学&デジタルハリウッド大学大学院 後編

ONTELOPE(オンテロープ)は「音が目でわかるプロダクト」の開発を機に、筑波技術大学の学生さんと2023年6月17日、2023年11月4日にワークショップを行いました。
 
後編では、筑波技術大学の学生さんと教員 渡辺知恵美(わたなべ ちえみ)さんにインタビューした内容をお届けします。ワークショップを開催することになった経緯や相互探求の文化づくりに期待することなどを伺いました。
 
【前編はこちら


筑波技術大学とは?]
日本で最初に設立された、視覚障害者と聴覚障害者のための国立大学。茨城県つくば市にあり、情報システム・先端機械工学・建築・デザイン・保健福祉などを得意とする学生が多数在籍しています。


[学生インタビュー]アウトプットすることで得る気づき

ワークショップを終えて、参加した学生の皆さんにインタビューを行いました。協力してくださったのはhayatoさん、こーたんさん、くるみさん、H.Hさん、Naoyaさんです。
 
——今回、参加しようと思った理由を教えてください。
 
くるみさん:ゼミの人に誘われました。卒業研究内容を発表することで、何かフィードバックをしてもらえるかもしれないって言われたので来ました。

H.H さん:1回目に参加して、また参加したいなと思っていたときに今回の話があり参加しました。

hayatoさん:1回目に参加した際、音が目でわかるプロダクトが自分の研究分野と似ている部分があり、意見交換しながらお互いにつくり上げていくことができればなと思ったのが理由の1つです。あとは、音関係のプロダクトだと相談できる相手が少ないというのもあって、いい機会だと思ったからです。

こーたんさん:1.楽しそうだから 2.前回参加して、チームで何かやるという楽しさを知れた 3.楽しそうだから 4.音が目でわかるプロダクトにとても興味あった 5.楽しそうだから。

Naoyaさん:自分の卒業研究を外部の方に提示する機会がないので、フィードバックがもらえるかなと思いました。

——こーたんさんは「楽しそう」があふれていますね(笑)。こーたんさんにとっての楽しさとは?
 
こーたんさん:「楽しそう」というのは、自分にとって刺激があったり勉強になったりするものを指していて、今回は音が目でわかるプロダクトと他の人の発表が「楽しそう」だったからです。
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——皆さんワークショップにいろいろな期待があったようですが、参加者からのフィードバックは今後の研究に活用できそうですか?
 
Naoyaさん:はい、今後の研究に活かせると考えています。僕が発表した非常時アナウンスの情報保障については、当初聴覚障害者に対してだと考えていたのですが、聴者も含めての研究になりかけている点について気づけました。
 
こーたんさん:僕も活かせると思いました。自分では見えなかった課題意識や方法などがフィードバックに反映されていたので、時間があれば参考にしたいです。ただ、その「時間があれば」が難しいんですが……。
 
hayatoさん:僕は、ボーカルの発声タイミングの振動化というテーマで研究をしているのですが、自分が想定していた部分もそうでない部分もあり、非常に参考になりました。
 
特にわかって良かったのが、200msくらい振動生成タイミングが遅れているということです。自分だと全くわからないので。それを解決しようとすると、処理時間の問題でさらに全体にズレが生じそうなので、それをどうしようかな……と悩んでます。
 
くるみさん:私は、聴覚障害者が一般校でスポーツをする際の情報保障とシステムとして、プロトタイプを皆さんにお見せしたのですが、いろんな視点から意見をいただけたり、欲しいと言ってくださったりして、「これは意味がある」って思えました。自分には無い考え方や別の使い方など知ることができたので、上手く研究に落とし込みたいと思ってます。
 
H.Hさん:事前準備せずに発表してしまったので、プロダクトを知ってもらえたのかは心配ですが、ニーズを汲み取ることができた点ではやって良かったと思います。
 
——今回は発表がメインだったので、みんなでワイワイコミュニケーションをするような形式ではなかったのですが、感想や今後こうすると良いかもと思うことがあれば教えてください。
 
hayatoさん:プロダクトに関するディスカッションタイムがあれば良いなと思いました。それと、お互いが思っている聴者像とろう者・難聴者像に違いがあるような気もしました。
 
こーたんさん:もうちょっとチームでの活動が欲しかったかも、と思いました。あと、聴者側にもさまざまな見え方があるので、その話をもっと聞きたかったですね。
 
H.Hさん:数少ない機会ですので、もう少し交流が欲しかった部分はあります。
 
くるみさん:フィードバックをもらうだけでなく、もう少しキャッチボール的なやり取りが出来ていたらもっと色々できたのかな、と思いました。

[教員インタビュー]障害の有無も、理系も文系も関係ない! ワークショップに期待することとは?

渡辺先生は、データ分析などデータベースを専門に教鞭をとられていますが、現在は教育の一環としてチームで開発するアジャイル開発にも取り組んでいます。参加したすべての学生さんが渡辺先生の教え子ではないのですが、とても近しい関係で接している姿が印象的でした。

——まずは、ワークショップを開催することになった経緯を教えてください。
 
渡辺先生:初めに声をかけてきてくださったのは株式会社オンテロープ(以下、ONTELOPE)代表の澤田さんで、ご自身の研究内容を聞いてほしい、というものでした。研究内容を伺い、おもしろそうですねとなり、一度ミーティングの機会を設けました。それが2023年3月頃です。
 
詳しくお話を聞いてみると、研究の対象が聴覚障害者に向けたプロダクト開発でしたので、たぶん聴者である私よりも直接学生と交流したほうが良いだろうと思い、何度か学生を交えて意見交換会のようなことをしていました。
 
——それが、人数を増やしたワークショップという形に変わっていったということですね。
 
渡辺先生:そうですね。当校には「聴覚(視覚)障害者向けプロダクトをつくったので、見たり体験したりしてフィードバックをください」という依頼をよくいただくのですが、それらはほぼ完成されていて、最後の意見がほしいということが多いです。その場合あくまでも聴覚(視覚)障害者はユーザー側で開発者側ではないんですね。
 
ただ私は以前より、ものづくりには初期段階から当事者が参加し、課題を一緒に考えるコミュニケーションの場が必要だと常々思っていました。
 
そんなこともあって、澤田さんとのワークショップは良い機会になるかもしれないと思い、やってみましょうという流れになりました。
 
——このワークショップは、渡辺先生が取り組まれているアジャイル開発とも通ずるものがありそうな気がしました。
 
渡辺先生:近年、インクルーシブやユニバーサルデザイン、アクセシビリティなどという言葉を使ってものづくりがされているようですが、聴者が「こうだろう」「これでいいだろう」とユーザー=聴覚障害者から離れた場でつくり上げてしまう場合もあるのが実状です。
 
一方で、学生側も問題意識をすごくもっているので、アプリを自分でつくったり、卒業研究とかでいろいろな実証実験なども行ったりしていますが、結論が出てもそれを外に広めることができない。
 
分断された世界の中で、お互いがお互いにつくっているだけで、なかなか交わっていかないんですよ。
 
——コネクションがうまく確立されていないということですね。
 
渡辺先生:そうなんです。うまくコネクションづくりしていきたいなと思っていて、このワークショップもそうですが、いろいろと試しているところです。
 
やはり、つくる人、使う人が一緒に考えたり作業したりすることでお互いを知れる。これってすごく大事なことだと思っています。
 
——ところで、ワークショップには必ずしもいわゆる開発畑の人だけではなく、「アルゴリズムって?」の人も参加していますが、例えば、研究発表に知識階層の違う人がフィードバックすることのメリットを教えてください。
 
渡辺先生:メリットはいろいろ方向にあって、そもそも「聴覚障害者だけの世界」もしくは「聴者だけの世界」になることはあり得ないので、もし何かをつくるのであれば、一緒に使うにはどうすれば良いか、互いの立場として「こういう風に活かせる」などのコミュニケーションが必要です。
 
聴者は聞こえない・聞こえにくいがどんな感じなのかわからないのと同様に、聴覚障害者も、聴者がどんな感じでどんな風に聞こえているのかわからないのです。
 
例えば、私が以前、他の人と集中して話をしていると声をかけられたことに気づかないことがある、ということを学生に話したときに「そんなことあるんですか!」と言われ、 聴者は全ての音が聞こえるものだと思っていたことがわかりました。
 
こういう感じで、お互いの感覚を共有することには意味があるし、相互理解には理系も文系も関係ないですよね。
 
——確かにおっしゃる通りですね。貴重なお話しをありがとうございました。では最後に、今後、このワークショップに期待することをお聞かせください。
 
渡辺先生:ろう学校出身の学生が多いので、普段からろう難聴者の学生同士でコミュニケーションを取ることが多いのですが、聴者と一緒にいるときは複数人で交わされる会話に入っていくことが難しく、積極的に話をするというよりも受け身になることが多くなってしまいます。すごく良い考えや良い意見をもっているのに、本当にもったいないと思っています。それに実際話してみると、饒舌でよく喋る(笑)。
 
だからこのワークショップでは、できる限りたくさんコミュニケーションを図り、「面白い!」「あ、そうなんだ。そう考えているんだ」と互いを新発見してほしいですね。そういう場から新たに生まれてくるものは、かなりあるのではないかなと思っています。
 
それと学生には、社会に出る前に多くの聴者と交流し、自分のプレゼンスを高めておくと社会に出てからも違うのではないかなと感じています。
 
今後も聴覚障害者、聴者、関係なく一緒にものづくりができるような活動を続けていきたいです。


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