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初恋のビックリマーク

初めてお付き合いした人のこと、どのくらいおぼえてる?どんな思い出として残ってる?

甘酸っぱい幸せな思い出?
それとも胸がチクッ痛むちょっと切ない思い出かな。
私は後者。

これは幼く愚かだった私と、同い年とは思えないほどの包容力を持った素敵な彼の話。

初めて彼氏ができたのは、
中学二年生の時だった。

同じクラスの青山くん。
外部のサッカークラブに所属するスポーツ万能頭脳明晰な男の子だった。

寡黙であまり女子と話をすることもなかった青山くんは、
所謂スクールカーストの上位グループに位置しながらも、どこかクールで近づきがたいオーラを放っていた。

そんな彼のイメージが崩れたのは美術の時間だった。
余った用紙の裏に夥しいほど無数のドラえもんを無心でひたらす落書きしている彼を目撃して、
私はそのギャップに心を持っていかれた。

その日から青山くんを目で追っては、
授業中に真っ白なノートにこれまた夥しいほど無数に青山くんの名前を書き殴る日々が始まった。

ノートが一冊青山くんの名前で埋まる頃、思い切って彼に告白をした。
彼は少し迷って「じゃあ、付き合おっか」と言ってくれた。
万歳、初彼氏である。

青山くんは本当に思いやりのある優しい少年だった。

ある日、青山くんが手を繋ごうとしてくれた。
でも多汗気味の私はそれを拒んだ。
「手汗がひどいから、手は繋ぎたいけど恥ずかしくて繋ぎたくない…」
すると彼は黙ってハンカチを取り出し、それを自分の掌においてこう言った。

「僕もつなぎたい。汗は気にしないけど、ティヌちゃんが気になるならハンカチを挟んでつなごう。それでもダメならまた考えよ。」

中2にしてこの包容力と問題解決へのスムーズな提案力…。

しかし私はこの尊く深い優しさを大切にすることができない愚か者だった──

当時、友達や彼氏に可愛いペンでデコったお手紙を書いて渡すことが流行っていた。

御多分に洩れず、私はデコり散らかしたハイテンションなラブレターを青山くんに渡した。

青山くんはいつもそれを読むと静かに笑って「ありがとうね。嬉しいよ」と言ってくれた。

汚い文字とセンスのない絵で飾り立てた手紙をそんな風に受け止めてくれたこと、
それだけでも感謝すべきところをわがままな私はお返事をねだった。

「青山くんからもお返事が欲しいな❤️」

青山くんは困った顔をして「ちょっと時間をちょうだい」と言った。

2日たっても青山くんから返事はなく、
待ちきれない私はまたお手紙に「お返事が欲しいな❤️」と書いて渡し青山くんを急かした。

それからさらに2日後、青山くんが教室でこっそりとハート形に折ったお手紙を渡してくれた。

てっきり不器用に4つ折りにでもしたルーズリーフのお手紙をもらえるかと思っていた私は
意外な形に折り畳まれたお手紙にびっくりしながらハートを開いた。


「ティヌえ!(にんじんびっくりマーク)
いつも応援してくれてありがとう!(にんじんびっくりマーク)
ティヌと付き合って云々カンヌン!(にんじんびっくりマーク)以下略」


正直に言おう。
引いた。引いてしまったのだ。

「あなた誰ですか?」というハイテンションぶりもさることながら、私の目を釘付けにしたのは
随所に散りばめられた
にんじんびっくりマーク。

青山くんの素敵なところはその中学2年生とは思えないその落ち着いた佇まいと、
物静かな中に時折見せる可愛い笑顔であって、
ハイテンションでコロンと可愛いにんじんびっくりマークをつかう意外性なんて当時の私は求めてなかったのだ。

私はショックを受けた。
待ち望んだお返事がまさかのにんじんびっくりマークだったなんて…。

にんじんが頭から離れなくなった私は途端に青山くんに対してよそよそしくなり、
お手紙をもらった1週間後には勘のいい青山くんから「好きじゃなくなってるよね?別れようか。」と切り出され、あっさりと黙って頷いたのである。
2ヶ月たらずの初恋だった。

なんてひどい女だろう。
青山くんは、私のハイテンションなお手紙に合わせようと無理して自分のテンションを引き上げてくれたんだろうということは明白だった。

別れた後、私は気まずさとモヨモヨした得体の知れない申し訳なさを抱えていたが
青山くんは付き合っていたなんて嘘だったみたいにただの同級生として私に接してくれた。


それから1年の時が経ち、卒業の日を迎えた。
青山くんのおかげで罪悪感なんて消え去った軽薄な私は、彼に卒業アルバムへの寄せ書きを頼んだ。
そこには
「2ヶ月間楽しかった。ありがとう。元気でね」と落ち着いた彼の言葉で綴ってあった。 

私はたくさん泣いて、泣いて泣いて
1年ぶりに彼に電話をした。
バカな別れ方をしたこと、いつもいつも私の気持ちを考えてくれていたのに、暖かい優しさをもらうばかりで何も返せなかったこと、
傷つけてしまったこと、ごめんと謝った。
彼は笑って「楽しかった思い出しかないよ。」と言ってくれた。

青山くんとの時間はもう戻らないけれど
次に誰かを好きになったら、きちんとその人と向き合おう。自分の中の理想じゃなくて、その人をちゃんと見ようと心から思った。


あれから、にんじんびっくりマークは
愚かな私にとって優しさの象徴となった。

青山くんの、優しい優しい
にんじんびっくりマーク。


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