いちごつみ60(金山仁美・橋爪志保)

いちごつみ 橋爪金山_page-0001

いちごつみ 橋爪金山_page-0002

ちょうど一年ほど前に京大短歌の金山仁美さんと作ったネットプリント「いちごつみ60」を公開します。「いちごつみ」とは、ひとつ前の歌から「一語」を拾ってきて次の歌につなげていく歌作りの方法だそう。

新型コロナウイルスの影響でさまざまな自粛がなされるなか、すこしでも短歌の力でこころやすらげるよう、祈りをこめて。


以下、テキストです。

いちごつみ60 金山仁美・橋爪志保

最後から五番目とかのまま今も脚本通りに泣こうとしている              
書き込んでページを折って銀色の脚本をこの世になじませる
教科書にこぼした涙をなじませるクララがやっと立ち上がった夜
薬局でくすり待ちつつ飲んでいるアクアクララは涙の擬音
存在論の話をするときふりまわす擬音まじりの君のジェスチャー
ランドセルふりまわす男の子たち暗がりを知らずに生きてなよ
ランドセルの似合いそうな女の子は友達に似た隕石を見る
隕石は木箱におさめられていて臍の緒みたくふるえやまない
アヴェ・マリアの合唱響く聖堂のふるえ洗濯物を揺らしてる
お祭りのあとの溢れたごみばこが聖堂なの、ときみは耳打つ
燃やすごみばこって誰が燃やすんだろうねって言いながら投げ入れるたけのこの里
泣く前に楽器も日記も燃やすからそのとききっとたずねてほしい
もうなにも叶えたいことなんてない いつも悲しいアイヌの楽器
葉桜の下の小さなアトリエにいつも変わらずある桜の絵
奪われない方のダイヤも絵の中で輝く ルパン、私はここよ
血を流しながら輝く生き方をぼくに教えてくれてありがとう
僕にだけ与えられていない図書室の「生き方」の棚を想像してみる
治ったら順に旅立つ 図書室がシェルターだったことも忘れて
シェルターに咲いた花々順番におはようを言う、これも純愛
純愛というよりそれは信仰で犬の瞳にわたしがうつる
聞こえないと思っていたけどあの月はあなたの月だという信仰をする
窓の色している月をながめてる 夜明けの病棟は凪いでいる
もういっそ嫌ってほしい病棟のにおいが授業参観みたい
二階席 金の折り紙 エレクトーン そのにおいをたしかにおぼえてる
どこに行っても折り紙の星流れててもうこの国は勝つこともない
幸福な国で幸福なのはだれ 付箋のように空剥がれそう
大事なものばかりなくなっていくって話してる新入生の付箋
ほんとうのなくなってしまう瞬間にあなたが痛くありませんよう
死にたがりのぶつけた小指痛くって代わりの誰かを用意している
もういない猫の食事を用意することもその死に向き合う過程
「クソジジイ」と「クソ」が口癖の人が猫にやさしい京都の町並み
思い立てばいつでも出られる檻だった京都盆地は でも出なかった
檻みたいなベランダ喫煙所としてよし生ぬるい風があれば+10点
生ぬるい夢をおなかに抱いたままふかふか暮らす 行けるとこまで
羽毛布団のふかふかを抱く 許すから今日のことを話してほしい
許すより塗りつぶすほうが楽だからそちらを選んでしまうお別れ
お別れの儀式で食べるパラックパニールあなたがかわりに水を注ぐ
はつなつのこどものように水笛のなかでは水がまたたき叫ぶ
機関銃は憂鬱はつなつを抱いてやめたい泣きたい家に帰りたい
新年の季語だといいな機関銃 雪の野原できみと撃ちあう
新年の夜に届いた鏡餅がカビて朽ちるまでを見守る
生きている間に僕を閉じ込めていつかは朽ちる身体がこわい
全部上手くいくなんてことなくて、こわいと言っていたのはそこのリラックマ
生きるのが上手くなりたい 新品のノートやぶけて日記をやめる
有限のイトーヨーカドー泣いてわたしがわたしをやめる日の町
そのひとを好きだった頃よく聴いていた音楽が落ちている町
好きな花はレンゲ揺れている風景を忘れないよ、先生またね
風景が写真にうつるつめたさでひとはたやすく壊す/壊れる
ここにいるわけにはいかないのでつめたさをまつようにふるゆきのつめたさ
ここへ来て一緒に濡れてほしいのにあなたは傘をたくさんくれる
濡れてもいいものとして買うスニーカーが私の悲しいによく似合う
平成が(遺影にかかっている黒いリボンが似合うように)ほほえむ
遺言としてtwitterにのこす「みんなありがとう」平成の隅で
鉄琴が弾むみたいにくだらない言葉を愛しているtwitter
心臓も弾む今回の世界線はあなたがひとつの命で嬉しい
ぼくたちは自分の心臓を見たことないものどうし仲良くやろう
自分を慰めるのが上手くなって例えば千年前の鳥を想像する
つらいのは怒りが風化することと言ってふたりで見た鳥の影
風化した古い約束もきれい枯らした声もとてもきれい
道端で何気なくした約束が最後になった 春のまんなかで

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?