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春色日記

ヤマシタトモコの違国日記に、「アサガオの観察日記なんか大人になってからやった方が楽しいに決まってる」というセリフがある。それを思い出して、今年は春になったらチューリップの観察日記をつけようと決めていた。先のセリフは、小説家の主人公が姪に日記をつけるよう促す意図で発せられたものだけど、今の私に自分に起こる出来事をただただ率直に記していくことは難しく、植物を見ていて思いついたことを書く方が、かえって自分の気分を理解できるのではないかと思ったのだ。チューリップは、つい先日、芽を出したばかり。

○3月11日
一日中氷点下だった日々が遠のいて、最高気温が15度を越えたころ、土から芽を出していた。

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かわいい。

○3月12日
朝起きて庭先に出しておくと、夕方には目に明らかなほどに芽が伸びている。(生きているのか)と思う。裏山を散歩したら、斜面にふきのとうが顔を出していて、なぜかうれしかった。そういう、予測できないものに安心するのはなぜだろう。

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○3月14日
すくすく育っている。

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育ちすぎなんじゃないか?と不安になる。


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夕方、山が春色だった。

○3月18日

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マトリョシカみたいになってるけど大丈夫なんだろうか。芽を出したばかりのころの写真と見比べると、あのころは可愛かったな、みたいな気持ちになる。親が私を見てふいに「赤ちゃんのころはあんなに可愛かったのにね」などと言ってくると、とりあえず傷つくが、すこし親の気持ちがわかったような気がする。

○3月21日

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雨が降っているから、如雨露に水を汲んでやらなくて済んだ。いつもこれがいい。

お風呂から出て、ドライヤーで髪をかわかすのが苦痛で仕方ないときがある。私が浴室から出た瞬間にちょうどいいそよ風が吹きぬける世界観になってほしい。というよりは、風も吹いていないのに髪をかわかす行為をすること・それが正しい生活習慣とされている現実が不自然。水やりもそう。ただ、雨じゃないときに水をあげることで枯れずに済む植物がたくさんある。

○3月22日

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この内側から突き破ってきたやつがもうメインみたいな顔をしている。りっぱになったなぁ。左下から出てるやつって、どうなるんだろう。

働いてるカレー屋のSさんが、「春に咲く黄色い花はだいたいロウバイですよ」という私が一年前についた嘘を覚えていた。店先の木にフワフワした黄色い花が咲いていた。ひとつ摘んで、2人で嗅いでみたら、いかにも花という感じの香りだけした。ロウバイではなかった。

このチューリップは黄色の花を咲かせる予定なのだけど、果たしてちゃんと黄色くなるんだろうか。まだこんなに緑なのに。

○3月24日

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先っちょがピンクに色づいていることに気づいた。本当に黄色い花になるのか不安になる。恋人に見せたら「自分がチューリップだという自我が芽生えている」と言われた。

○3月26日

横から見ても

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上から見ても

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くねくねしていらっしゃるようだ。

○3月29日

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踊ってるんか?

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庭や職場の森のあちこちに黄緑色が見つかる。こぶしの花が咲いていた。早くチューリップが咲くといい。

月に一度、ブーケが届くお花のサブスクを退会した。その勢いで、ありとあらゆるサブスクアプリをアンインストールしたら、モスバーガーで豪遊できそうな額になった。選ぶことよりも捨てることの方が不得意になってきている。

○4月1日

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雲の切れ端とチューリップの葉は、うねりかたが似ている気がする。

○4月3日

朝、母に「今日あったかいみたいだから、チューリップもう咲いちゃうんじゃない!?」と言われ、いやいや...まだ蕾もないのに咲かないでしょ、と返したらチューリップのところまで連れて行かれた。

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あった。

父に何色のチューリップが咲く予定なのかとはじめて聞かれた。

この日、予約していた本が届いた。表紙が手漉き紙という贅沢さ。何種類かある中から、書店がランダムに選んでくれるということで、楽しみにしていたら、この季節に相応しい若草色だった。

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春を感じてうれしく思ったのでここに載せておく。以前は自然を見てもなんとも思わなかったというのに、このところ山裾や野原の片隅に緑色を見つけると気持ちが浮き立つ。春が美しいのはいつぶりのことだろう。

○4月3日

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○4月9日

図書館に行った。入り口にある桜の木は誰も見ていないのに満開だった。近寄ってマスクを外したら口いっぱいに春の味がした。そういえば花って香るんだ、と思った。ところで、満開の桜を見ると桜餅が食べたくなる。

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先日、開店前に準備をしていたら、窓の向こうに黒い毛並みが見えて、思わず声が出た。熊かと思い、私の命もここまでかと思ったが、カモシカだった。Sさんはスマホで動画を撮っていた。

チューリップに関しては、もうあんまり心配なことがない。面構えからして、りっぱなチューリップになったという感じがする。強いて言えば今週末にまた最低気温が氷点下になることが気がかりだ。


○4月10日

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まだ葉っぱがついてる。

○4月11日

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葉っぱはついてるけど、このままでいくらしい。ちょっと不恰好だけど、光ってるみたいなかわいいきいろの花だ。これくらいがちょうどかわいい気がする。チューリップって開きすぎるとこわいよね。

やわらかい草の上を裸足で歩きたくなった。


○おしまい○

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