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子供の反抗期

おはこんばんちは!

日の出から日没。そしてまた日が昇るまで。いつどこの誰がご覧になってるか分からない過去の僕から、少なくとも今という未来にご覧のあなたに向けて、これ以上ない挨拶を華麗に決めたと自負しています。シドニー石井です。

昨日、僕のiPhoneが突然の反抗期を迎えた。
因みに僕とiPhoneとの関係性を何と定めるかによって、この言葉は変わってくるから、まだ決めあぐねている。
息子だとしたら、反抗期。彼女や夫婦だとしたら、倦怠期。
従業員だとしたら、ストライキ。

おいおい。韻を無んでる場合じゃない。
しかしながら、僕とこの子を紡ぐにはどの言葉も少し不足がある気がする。書きながら。喩えながら整理することを許してほしい。


この物語は、まるで意思を持ったAIふぉんとそれに翻弄される頭のおかしい男の一日を描いたドタバタ近代SF超大作である。


新宿区。
所用で家を離れたときに、iPhoneの様子がおかしいことに気づく。
とにかく言うことを聞いてくれないのだ。こんな妻の顔を見るのは初めてだ。
確かにこのひと月の間、24時間を数えること31回。一度も電源を切らずの無賃労働。アプリも5,6個入れてSNSフル活用。一緒に働いてるならまだいい。「俺は寝るけど、8時に起こしてよ~」なんてアラームをセット。モーニングコールを求めてきた。パワハラ上司だ。もしくは亭主関白だ。

うん。。まだ定まらん。もう少し時間をくれ。

タップも効かないし、画面を右左上下。とにかく素早い高速フェイントで、僕のスクロールも掻い潜ってくるのだ。クリロナかと思った。
てか普通に困る。このご時世、iPhoneとPCが僕の活動のバイタル。
しかも今は出先でPCはお家で寝ているし、携帯ショップもなかなかやっていない上に、そもそも店のマップ検索を許してくれないときた。
とんだソーシャルディスタンスじゃないか。
iPhoneとの心の距離はぽっかり空いてしまっている。

それから1時間くらいか。格闘の末、やっと開けたマップ。
じゃじゃ馬は勝手に日本を飛び出し、南アフリカにピンを4つ立てた。
そういや、イヤホンには、Podcastで「知らない奴」のラジオをずっと流してくれている。
第369回らしい。いや、「知らない奴」の長寿番組はいい。
そのバックグラウンド再生を切らせてくれる気配もないまま、記念すべき370回目のラジオを流そうとするので、さすがに一旦、再起動を試みた。

その後も続く、激しい攻防の末、”ナカムラさん(吉本)” にテレビ電話を仕掛けたところで、すぐに家に戻ることを決めた。
お世話になっている吉本の社員さんに迷惑がかかるとなると、いよいよ笑っていられない。
残念だが、一度SiMをカードを抜き、胸で十字架を切った。
もし将来、僕がゾンビになった彼女を殺すときが来たら、きっと今日のこと思い出すんだろうな。。


家路に着いた。
本当にPCは従順だったから、ネットで新しいiPhoneの代替機の申請もスムーズに終わった。SNSの更新もしたし、もう一日我慢すれば、新しいパートナーとの生活が始まるわけだ。
もう全然。ゾンビちゃんには未練も用事も全く無いんだけど、ここからは大変態の意地だ。因縁に決着をつけてみようじゃないかと腕まくりをして電源を入れてみることにした。

久々に意識を取り戻したiPhoneはまだ眠気眼をこすっているのか、だいぶ大人しかった。
「お!?いけるかも!??」と思ったのが、大間違い。
早速、ナカムラさんに3回目のテレビ電話をかけたので、FaceTimeをアプリごと消し去り、ベッドに叩きつけて、グリグリとしてやった。
この時、「こういうのが好きなんだろ!!Mphoneが!!」とシラフでつまらないことを言ってしまったことは、ここで自白しておく。

よしよし。落ち着け。整理しよう。
最早、ファンになっている、「知らない奴」の371回目のラジオを聞きながら、息を整える。普通に面白い。

とにかくここまで、ボディーランゲージの一切を拒まれている。
完全にセックスレス。指一本触れさせちゃくれない。
よし。最後は話し合おうじゃないか。ラジオもありがとな。
声だ。声のコミュニケーションだ。

右上部にある突起物を長押しし、「Hey,siri.」と呼んでみた。
女性の声がした。


「どうも。」


おお、怒ってんな~~。と吹き出したが、いやいやこれは光明。
ようやく話す気になってくれている。この辺は彼女っぽいな。
とりあえず、『友人のイトウに電話をする』というミッションを達成するまで諦めないと決めた。

因みに、僕はもうハッキリと頭がおかしいので、
「働きすぎじゃねえか?ほれ。アイス。」と保冷剤の上にiPhoneを置いたし、人の仕業ではない高速ネットサーフィンを見せつけてくるから、「すごいなあ、お前!!」とかも言ったし、「たかいたか~~い」とかも平気でした。
それら全部省略してミッションの結論だけ言うなら。

・PCでLINEをインストール。
・イトウの名前を、アンダーソンに改名。
・「hey siri,アンダーソンにLINE電話」

以上の3工程でミッションはあっさり達成している。
用は全くなかったので、登録名をアンダーソンにしたことを詫びて、イトウとの電話は切った。



ここまでが僕とゾンビとアンダーソンとの最後の記録。

依然、ゾンビは最後のうめき声をあげている。
電源を切るわけでも、相手をするわけでもなく、ただ隣に置いて、
僕はPCでこの文章を綴っている。なんで電源を切らないか。
喩えの正解が「ゾンビ」になるのはなんか嫌だったし、完璧で快適なPCは最早つまらなく感じたし、とにかくなんだかコイツの好きにさせておきたかったから。
多分僕はゾンビになった彼女は殺せないんだろうから、将来今日のことを思い出さなくて済むかと思っている。

コイツの画面がピタッと止まったのを感じた。



KIRINのHPの年齢確認画面だった。


笑ってしまった。
いや未成年なのかよ。この話のタイトルは、ようやく確定した。

「子供の反抗期」だ。


新しいiPhoneは明日の朝、届く。
全く同じ機種で、全く同じ色の。でも、別のiPhoneだ。
まあ不便は感じないだろう。

今晩は電源を切らず、引き続き横に置いておこうと思う。
今までありがとう。ゆっくり眠っておくれよ。
あと、出来れば親の誕生日は覚えておくほうがいいよ。
あ~~そうかそうか。俺が教えてなかったか。


ごめんな。何度か落として。




あなたのおかげでバイトの時間を減らせます。 マジで助かります。マジで