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なんとなく

夜、神保町の劇場出番からの帰り道。
なんとなく、とぼとぼと、皇居外苑を歩いていた。
行きも帰りも僕はここを通る。

昼の丸の内。
数千本のクロマツ林と内堀通り、そこから重厚なオフィスビル街を挟み、迎えてくれる東京駅は創建当初のレトロな外観を残している。

レトロとモダン。自然美と人工美。

いろんな時代や人が混ざり合う空間は多様性を認めているようで、小銭を惜しみ電車に乗らなかった僕をも受け入れてくれているようで、何とも居心地がいい。僕が一番好きな景色だ。

夜の丸の内。
それは、顔色を大きく変える。
憩いの松林は所々の街灯だけを頼りに数mの先もまともに見せてやくれない。
対照的にライトアップをされた丸の内のビル群は、財布の中身をあざ笑うかの如く存在感を増す。
9月の湿気を含んだ生ぬるい空気が相まって、不安感をさらに煽られる。
そんな帰り道だった。

ビル群の眩しさと財布の現状から目を背けるように、僕は下を向く。
自然と足取りは重い。
ご時世も相まって、まばらになった皇居ランナー達の足音が辛うじて活気を灯してくれている足元には舗装されたアスファルト。
左右に広がる砂利。砂利道。

なにがあるわけでもない。
家路を急ぐのも、歩みを止めてしまうのも、顔をあげてしまうことも怖い。

よし。なんとなく砂利道に外れて、そこに勢いよく足を突き刺してみよう。
無数の小石たちが一秒間に何度も何度も鼓膜を叩いて、音を出す。
「ザァ〜〜」とか「ザーッ」「ダァ〜。」かも「ジャア!」かな。

まだダメだ。

英語圏のやつにはなんて聞こえるんだろうな?「ワンワン」が「bowwow」だもんな。よし、じゃあ、one more time。山崎まさよし。

まだ顔はあげれない。

ん~~。犬はいつからワンワンなのかな?【犬 鳴き声 江戸時代】で検索。
室町時代は「びよびよ」平安時代は「ひよ」そんなわけあるか~~。

まだダメだ。


暗闇にも下を向くことにも慣れてきたからか。アスファルトと砂利道の境目がはっきり見える。
目を凝らせば凝らすほど、限りなく曖昧なライン。
規律と不自由さのアスファルト。
粗暴さと自由を兼ね備えた砂利道。

受験、就職、オーディション。
合否の名を隔てるその境界線は、幸せのボーダーラインなのだろうか。

顔をあげる。長らく下を向いていた。首がきしむのを感じる。
皇居の松は自然美なんかじゃない。間隔を徹底的に管理された人工美だ。
赤レンガの駅舎は数年前に復原されたレトロモダンの賜物だ。

分かってる。全部分かってたよ。

「なんとなく」に差し出した10分間は僕の靴先に砂ぼこりと、じっとりとした汗を贈ってくれた。

下は向かない。上も下も合否も。自分で決めれる。
再確認できた。


僕はやっぱりこの景色が好きだ。

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