15句連作「退魔」(全国俳誌協会第4回新人賞落選作)

退魔
         大橋弘典
 
地下鉄の網の底より夏に入る
九輪草ふいに喋つてあとは黙
軽業師しか棲めない国のあぢさゐ咲く
団長の影踏んでゐる水馬
空梅雨の笙あをあをと吹きわたる
蟻に眼や離島はつちのやはらかさ
火のやうに落つる汗なり祖霊殿
短夜やグリコのをとこ身を攀ぢる
アイスクリーム上階に焼肉屋
蚊をとるや兄に懇意の占ひ師
アベリアや爬虫類館くたびれて
小学生の砂絵に章魚の生きうつし
白馬から夕立を見通してゐる
七月や檻のあちらの麻酔針
中背に羽の拗れて晩夏の木

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