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【企業分析】リクルートの営業は何故強いのか?創業者の江副さんのキャラクターは実は暗かった?

本日からお送りします、企業分析シリーズ「営業版」。
第一弾はリクルートです。
「リクルートは営業が強い」とよく言われます。
本記事では、リクルートの営業の強さの秘訣を解き明かします。

なお、私が会社の強みを探るときは、最も影響力の高い人の考えを探ります。創業者や経営者の考えることが、企業文化に強く反映されるからです。ですから今回は、リクルートはwill can mustのような手法論よりも、江副さん自体の背景や性格、考え方や仕事術に焦点を当てて調べてみました。

参考にしたのは下記2冊と、江副さんに会ったことがある人のブログ記事やメルマガ内容です。

分析すると、リクルートの営業の強さがしっくりきた、リクルートの秘密がわかりました。正直、リクルートってなんか色々仕組みがありながら、根源的なところがフワッとしてるな…という印象があったのですが、裏のロジックがはっきりわかりました。これを解き明かします。

リクルートの創業者、実は暗い人だった

リクルートで最も意外だと言われるのは、創業者の江副さんの性格です。リクルートといえば、体育会系でアグレッシブな印象が強いでしょう。
しかし、書籍の内容や江副さんに会ったことがある人の話を知る限り、「思っていたより内向的な人だった、人見知りする人だ、陰気だ、影が薄い」といったコメントが目立ちます。
どうやら、江副さん本人も、自分にカリスマ性がないと自覚していたようです。シャイな性格で、人前で話すのが苦手。社員の前で話す時は前日に話す内容を準備しないと話せないタイプでした。

リクルートの創業者は、暗い人だった

そして、ここにこそリクルートの強みのヒントがあります。「だからこそ、自分にない能力を求めて優秀な人材を採用し、コミュニケーションのやり方は社員のモチベーションを高めることに力を注いでいた」のです。代表自らリードするスタイルではなく、優秀な人のやる気を喚起する方向に全振りしているのがリクルートの企業気質なのです。

「君はどうしたい?」は自信があるからではなく、自信がないからこそ発する問いだった

有名な「君はどうしたい?」「お前はどうしたい?」というセリフは、爽やかで自信ありげな上司が、先輩風を吹かして言うものではありませんでした。
書籍には、江副さんが上記の質問を投げかけた後に、このようなコメントをしていた描写があります。
「先生! おっしゃるとおり。さすが経営者ですねえ!」
「じゃあそれ、やってみてよ!」


江副さんは、自分が陽気に扇動してあれこれ言い切ることが出来なかった。だからこそ相手をやる気にさせることに力を注ぎ、社員に独立意欲を持たせることに取り組んだのです。
リクルートで有名な、独立採算性、社員皆経営者主義、30歳までの独立文化+退職金1000万円などは、すべて優秀な社員を採用し、やる気にさせる手段だったと思われます。

優秀な人材の採用をし、モチベートしているから営業力が高い

またリクルートの江副さんは、狂うほど採用を重視したと言われています。
新卒採用一人につき600万円のコストをかけていた、理系の優秀な学生を集めるため、70億円のスーパーコンピューターを採用経費でおとした、などの逸話があります。
自分の足りない能力を補う優秀な社員の採用に励んだのです。リクルートの強さの源泉は、経営者の陰気さからそれを補うための採用とモチベートなのです。
営業が強いのは、シンプルに営業力が高い人を採用して、その人をモチベートすることを全力でやるから。それでいてハングリー気質な人が集まってるからだとわかります。

底に秘めたハングリー精神

江副さんは性格こそ陰気でしたが、底に秘めたハングリー精神は強かったと言われています。
例えば、江副さんは競合他社とは「戦争だ」と表現して、徹底的にナンバー1にこだわりました。第二次世界大戦後に小学生時代を過ごし、その時の飢餓と貧しさが、ハングリーな人間にしたとおっしゃっていました。
ですから、表面の性格には表れなくても、そこはかとなく内にハングリー精神を込めている、という江副さんのキャラクターが、リクルートの企業文化を作りました。どこか漂っている気合いや根性がリクルートマン全員にあるように思えます。

フィードバック文化が改善の推進力に

もう一つリクルートの強みの源泉だと考えられるのは、フィードバック文化です。リクルートの江副さんは、本を読んで「フィードバック回路」の話を知りました。
人間が優れているのは身体の中にフィードバック回路が組み込まれているから…という書籍から、江副さんは組織全体にフィードバック回路を作ろうと決めます。
これは、仕事において顧客や社内のフィードバックをより多く得られるようにする、ということです。
具体的に営業シーンで表れているのは、「ヨミ表の社内フィードバック」です。ヨミの報告に対して、マネージャーや他メンバーがフィードバックする機会を作る。これにより業務を改善する。
このフィードバックによる改善力がリクルートの営業活動の強みになっています。

私が経験したリクルート文化(モチベートとフィードバック)

本ブログ筆者の私自身は、ビズリーチの在籍時に、このリクルート文化を体験しました。
私が在籍していた頃のビズリーチの事業責任者は酒井 哲也さんでした。(現在は代表取締役社長を努められているようです。)酒井さんは前職ではリクルートでの営業部長を務めていて、私が在籍時に転職でいらっしゃった方です。

私の酒井さんに対する正直な印象は、「この人、なんか言ってることがフワフワしてるな」でした。

『お客様に向き合って頑張りましょう』
『誇りをもって仕事に取り組みましょう』
『サッカーで言うJ1を目指しましょう』

と、社員に向けた発言がどこか抽象的なのです。
今インタビューを読み直しても、話の抽象度合いが高い印象です。
これは考えてみれば、戦略や営業tipsよりも、自社のメンバーは優秀であるという前提で、やる気を奮い立たせることに着目した発言なのかなと思います。

不思議だったのは、酒井さんの営業メンバー達に向けた発言は非常に抽象度が高いことに対して、営業企画の取り組みは強化し、細かくKPIをモニタリングを行い、週次や月次で報告することを厳格化していたこと。そしてその会議での酒井さんの発言は非常に鋭く具体的だったことです。
これは、リクルートの「フィードバック文化」の実践だと今になりわかります。

営業において「やる気」は重要

私自身は、エンジニアがバックグラウンドにあるので、人より論理的に考えるほうだとは思っているのですが、論理的な帰結としても、営業における「やる気」は非常に重要だと思いました。

なぜなら、営業がやる気にならないと顧客はやる気にならないからです。
というのも、顧客は「やるべきと思ってない」から今は買ってないわけで、これを「今やるべきという気にさせる」には気持ちの伝染が必要です。
顧客だけで完結するなら営業はいらないので、顧客は現在は必要ないと思っている、ないしはそもそも必要不必要とも考えたこともなかった。という状態からスタートして、相手の考え方を変えて、購買に転換する必要があります。

人の考え方、気持ちを変えるというのは、もちろんTipsやノウハウはあるのかもしれませんが、「相手を変えたい」という気持ちが重要なこともあります。リクルートの営業が強いのは、優秀な人材のモチベート、やる気を出させるコミュニケーションや組織作りに力を注ぎ、営業全体が「やる気」になっているからと分析しています。

リクルートの営業の強さ:まとめ

リクルートの営業の強さを分析

・創業者が内向的だったからこそ、「陽気で優秀な人材の採用」に力を注いだ。「採用へのコスト」は惜しまなかった。
・「君はどうしたい?」はやる気を奮い立たせる言葉。独立制度など、社員をモチベートするコミュニケーションや仕掛けを作った
・創業者がハングリーだったからこそ、「ハングリー精神」を内に秘めた人たちが営業組織に集まった
・「フィードバック文化」を形成し、積極的に顧客や社内のフィードバックを受け取る習慣を作った。ヨミ表もフィードバックをもらうことが目的
・「やる気」こそが人を動かす源泉。営業がやる気になるから、顧客もやる気にさせられる