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Morat ”Date la vuelta”〜背中を押す破裂音〜

Hola, chicos!
今回はMoratの最新アルバム”¿A dónde vamos?”の中から、私が一番好きな一曲をご紹介します。

秋の夜長に染みる”Date la vuelta”です。

曲の概要

ベースを担当しているSimon Vargasさんのソロ曲。MVでは本人がコーラス2人とギターの三役を演じています。

歌詞は、DV男と付き合っている友人に、その男から逃げて欲しいと願うものです。NY times紙では、“A heartfelt letter to a friend in a toxic relationship”と称されています。

アルペジオの一音一音が夜空の星のように優しく光り、独り言のような歌声には暖かさと寂しさが同居しています。

静かな曲調なのに、なぜか聴き終わった時には背中を押されたような気分になっているのです。

そのエネルギーはどこから来るのでしょうか?

少し考えた結果、「破裂音」なのではないかと気がつきました。


破裂音とは

破裂音とは、閉鎖音とも呼ばれ、呼気を止めてから一気に放出することで出される音です。急に空気を放出するので、力強い音になります。発音記号で言えば、[p],[t],[k],[b],[d],[g]などがそれにあたります。

これを念頭に、サビの歌詞を見てみましょう。

Date la vuelta
Ya déjalo y busca un amor que si te quiera bien
回れ右
去って、彼の元を。探して、君をちゃんと愛してくれる人を。

命令形を3つ使っていますが、そのどれもが破裂音で始まっています。
この一つ一つの破裂音で、ポンっと背中を押されているような感じがしませんか?

優しい歌声と曲調に心を許していたら、知らないうちに音にポンっと背中を押されて一歩踏み出しちゃう、そんな素敵な曲なのです。

意図的なのか

Simon Vargasさんは作家でもあるとはいえ、音声学まで駆使して意識的にやっているのだろうか、もしかしたら私の考えすぎか?と一瞬不安になりましたが、なんとどうやら意図的なのです。

と言うのも、本曲と同じアルバムに収録されている、”Enamórate de Alguien Más”と比較するとわかります。

どちらも恋愛の曲で、タイトルもサビも命令形であると言う点で共通していますが、この曲の命令形は破裂音ではありません。逆に、サビの命令形4つのうち3つが母音というパンチの弱い音になっています。↓

Así que enamórate de alguien más, reemplázame
Que no soy capaz de olvidarte, de olvidarte
Por favor, ayúdame con el dolor e ignórame
Que estaré mejor sin hablarte, sin hablarte

なぜなら、こちらの命令形は実際に相手に行動を起こして欲しいのではなく、孤独な嘆きに過ぎないからです。「君のこと忘れたいから誰かとくっついちゃってよ(ぴえん」と言う弱音です。本当にそうなったらさらに泣いちゃうんじゃないかと思うくらいナヨナヨした曲です。

なので頭の音を破裂音ではなく母音にすることで、弱々しい嘆きのように聞こえるように工夫しているのです。たぶん。

嘆きの命令形と背中を押す命令形。
母音と破裂音。

この2曲がアルバムで連続して配置してあるのも、「比較して聞いてね」と言う彼らからのメッセージのような気がしてなりません。


恐るべし、morat。


その他のお気に入りパート

・Perdón por lo indiscreto で始まる謙虚さ

・A un amor donde tú no vas primero の vas の少し怒ったような歌い方

・Tu corazón tal vez se equivocó 「きっと心が間違えちゃったんだよ」っていう相手を責めない言い回し

・Y andas pеrdida entre tu sufrimiento の sufrimiento の本当にちょっと苦しそうな歌い方

・Puede sanar, solo falta un intento の puede,solo,un とか入れてそれくらいなら頑張れそうと思わせてくれる励まし上手なところ

・Porque a veces dejar de querer es quererse también これ届けたいわ〜っていう相手がたくさんいる名言。けど日本語で言ったら胡散臭いんだろうな、スペイン語はかっこいいな。

・Simonさんのアンニュイな表情と八の字の眉。





ではまた。


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