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〈ゲーム感想〉【Return of the Obra Dinn】独特の世界を紐解くミステリー

悲劇の幕が下りた後に

一際ユニークな一面モノトーンのビジュアルが目を引く名作推理アドベンチャー。プレイヤーの目的はら詳しい説明も手がかりもないまま無人の商船へと向かい、消えた60人の船員の行方を調査することです。ミステリーが絡むため、この記事ではネタバレ無しです。

思わずキャラ語りに入る後半はこちら:


世界観

19世紀初頭、イングランドの港に突如として古びた帆船が現れます。その船は数年前に東方へ向けてロンドンを出港し、そのまま消息を絶った『オブラ・ディン号』でした。主人公は、この船に乗っていたはずの人々の行方を調査する保険調査官。依頼主から届けられた怪しげな懐中時計『メメント・モーテム』を手に、「何かがあった」船へと乗り込みます。

失踪した乗員乗客は60名。船内は物が散乱し、白骨化した遺体や血痕が残っており、船全体がまるで幽霊船のように所々が壊れています。見事にホラーチックな雰囲気ですが、何者かが驚かせてきたり主人公が襲われたりはしないので安心してください。

そこは、すべてが終わった後の船なのです。

白と黒だけで作りこまれた、誰もいない船。

この唯一無二と言っていい舞台設定と、白と黒のストリングスで描写された船内がこの作品の不気味で不思議な世界をしっかり支えてくれています。

調査のため主人公が船に乗り込んだはいいものの、手元には資料がほとんどなく、遺体の身元を特定しようにも、骨ばかりで誰が誰だかわかりません。これを解決するのが、この作品のキーアイテム『メメント・モーテム』です。

この船に乗っていた人々の残留思念を感知し、その場であった過去の出来事をフラッシュバックさせ主人公に追体験させる不思議な時計です。

死を忘るるなかれ。

主人公は船に残る残留思念を一つ一つ探し出し、『オブラ・ディン号』で起こった惨劇を暴いていきます。


ゲーム性

プレイヤーは眼前で繰り広げられるミステリーアドベンチャーを楽しみながら、背景も国籍も多種多様な船員60名それぞれの末路を推理していきます。過去の映像を一つ見ただけでは、その人物が誰で、誰に、何をされたのかがわかりません。物語を追いながら数少ない手がかりを一つずつ拾い集める必要があります。

見つけた亡骸は手記に記される。

途方もない推理パズルですが、それを楽しくしてくれる親切なシステムはあります。三人分の推理がシステム上正解になっていると、突然暗転して自分で埋めた三名の情報が確定ていく演出が発生します。

この演出のお陰で、当てずっぽうの推理が本当に当たっていたことがわかることはもちろん、自信満々に間違えている場所があることに気づけます。人数や組み合わせは一見膨大ですが、失敗を何度も繰り返せる、トライ&エラーができることは非常に良い点です。


BGM

一人称視点で誰もいない船内を探索している時は、波の音や船の軋む音しか聞こえてきません。それが過去の記憶を呼び起こした途端、かつての人々の肉声が流れ、オーケストラ風の楽曲がドラマチックに鳴り始めます。

銃声から始まるクライマックス。

サウンドによる演出が非常に心地よい作品です。ミステリー・サスペンスを存分に感じさせる静と動の切り替わりと、大げさなほどのSEが、物語の節目節目を強く印象付けてくれます。舞台上で演者に混ざりながら『オブラ・ディン号』の悲劇を目の当たりにしているという感覚すら覚えるかもしれません。それぐらい没入感のある盛り上がり方をみせます。

一度見た過去のシーンは後から何度でも見られるので、気に入ったBGMを聞くためだけに何度も訪れる楽しみ方もあります。(それだけではなく、サントラが出ているのも嬉しい要素。)


UI/UX

マウス・キーボードで操作することを想定されていますが、操作感についてはあまり良くはないと感じます。とはいえ基本は移動とワンボタンだけであり、ゲームコントローラーでもその点は同じなので、どのプラットフォームで遊ぼうとも没入感を損ねるほどではありません。

ちょっと動かしづらいドアノブに手をかけるモーション。

むしろ一人称視点のため、3D酔いをしてしまいそうであれば、画面中央にマーカーとなるシールを貼り付けるなど酔い対策をしておいたほうが良いかも。

調査状況が記される手帳は使い勝手が悪く、慣れない内は、どこに何があるか散らばって見えてしまい情報を探し出すのも一苦労します。

3ページに渡るありとあらゆる死因から正解を探す。

ただしこれはおそらく意図的にわかりにくくしていると考えています。同じ制作者さんのヒット作『Papers, Please』も遊んだ方はわかるかと思いますが、どんどんゲームが進むにつれて大事な情報にアクセスしにくくなっていました。それと同じとも言えるかもしれませんね。「わかりにくい」と「動かしにくい」は別の問題だとも思いますが。


ヒットゲームはは必ずと言っていいほどフォロワー作品が登場しますが、この作品ばかりは真似できないでしょう。ファン心理で贔屓目に見すぎているかもしれませんが、この場ではそう言い切ります。

実は本当はもう少しだけ語りたいことがあるので、「ネタバレ有」編を別の機会に書こうと思います。

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