ブレスオブファイアシリーズの考察2 ~竜と神~

 

 さて、ブレスオブファイアの世界に女神ミリアがあらわれたのはブレスオブファイア4の世界の後の可能性が高いということを前回は考えてみましたが、ここで少しブレスオブファイア4という作品についても少し詳しく見ていきたいと思います。


 ブレスオブファイア4は、一言でいってしまうと非常に「ウツ」なゲームです。
 もともとブレスオブファイアシリーズは全作品を通してテーマが重めなのですが、4はその中でもだんとつといっていいほど雰囲気が暗いといっていいでしょう。

 そのキーになっているのがユンナという科学者です。

 ユンナについてゲームを未プレイの人がすぐに思い浮かべられるイメージとして近いのは、おそらくFF6のケフカだろうと思います。

 ケフカもユンナも自分を中心に考える人間であり、その目的のためなら他人を犠牲にすることなどなんとも思わない上に、それどころか嬉々として残酷な行為をするというのはまったく共通しています。しかし、ケフカの行動が「狂気」であるのに比べれば、ユンナはその言動だけを見るとむしろ非常に冷静なのです。それでいながら自分の研究のためならどんな悪行でも淡々と行い、まったく罪の意識な持たないという点ではRPG史上でも屈指の悪役といっていいでしょう。


 ユンナのせいで不幸になるキャラは作中でも大勢いるのですが、代表はブレスオブファイア4のヒロインニーナの姉にあたるエリーナ。そして、本作品のもうひとりの主人公であるフォウルという青年を介抱した村娘の少女マミです。

 エリーナに対する行為はとくに残虐でありユンナによって肉体を改造され、上体こそ人間であるものの下半身は内臓が露出した巨大なモンスターそのものという醜悪な存在に変えられ、最後は恋人であるクレイに彼女自身の願いによって命を絶たれることになります。

 マミもまたフォウルを消滅させるために、「呪砲」という兵器を発動させる「ニエ」(いけにえ)として、ユンナにあらゆる苦痛を与えられた拷問の末に殺害されるという悲惨な最後を迎えます。

 このように邪悪の化身ともいうべきユンナですが、さらにプレイヤーにとって救いがないのは本来ならどうしても倒したいこの相手と戦う機会は最後までありません。結局、彼はこうした悪事を働きながらも、まんまと逃げおおせてしまうわけです。

 しかもラスボスとなるのはこうしたユンナをはじめとする人間たちの行動のために人類に絶望し、人類を滅ぼすべきではないかと考えるようになった作中のもう一人の主人公であるフォウル。彼を追ってきた主人公であるリュウと対峙することになり物語はラストへと向かうことになるのですが、なんとも救いがないとしかいいようがないでしょう。


 さて、このリュウとフォウルという二人。実は、本来は同じひとつの存在であり、異世界から召喚された巨大な存在である「召喚竜」だったことが作判明します。

 前回に「賢樹」の樹竜もまた召喚竜だったということは書きましたが、この召喚竜という存在は、もともと異世界の存在でした。
 それがどうしてわざわざこの世界に召喚されているのかといいますと、本来は「自然秩序を管理するため」だったというのです。

 「強大な存在を召喚して自然秩序を管理する」というとわかり難いかも知れませんが、同じくファンタジー作品ではあの「ロードス島戦記」などにも同様の物語があり、とくに『ロードス島戦記2 炎の魔神』では事件の中心的なテーマとして語られていました。
 ロードスの場合「精霊王」といわれる、火、水、風、土の上位精霊が存在しており、こうした高位の精霊たちと魔術師が契約して召喚することで、自然のエネルギーを上手く活用したり、自然界のバランスを安定して保つことができるという反面、バランスを間違えてしまうと肥沃な大地が砂漠となり簡単に一つの国が亡びることもあるという、極めてアンバランスなものでした。

 ブレスオブファイア4における召喚竜たちも同様に、いずれも強大な力を持ち、人間たち召喚されてからは世界の各地で自分の統括するエネルギーを長く管理していたようですが、やがてその巨大な力に目をつけて、戦争などに活用できないかと考える人々があらわれるようになってしまいました。

 この点では、1に登場した黒竜族がミリアを復活させようとしていたのにも似ています。皮肉にもかつては自分たちの先祖にあたる竜族を滅ぼした女神を、しかもある意味では彼らに近しい存在である彼女を今度は自分たちが世界を支配するために利用しようと考えてしまったわけです。

 さて、少しズレましたが4の世界に戻りましょう。
 このように竜の力を利用しようとする人々は出現したものの、肝心の竜を召喚する能力をもった人々の協力を得られなかったことから、彼らはやむを得ず自分たちだけで竜の召喚を行いその結果不完全な形で竜を呼び出してしまうことになりました。

 そうして呼び出された竜は二体います。

 ひとつはリュウとファウルという存在に分かれてしまった、すべての召喚竜の中でもとくに強大な力を持った竜で、その本来の姿は作中では「アンフィニ」と表記されています。

 もう一体の竜ですが、こちらはここまでのブレオブファイアシリーズにも皆勤賞で出演していたディースという人物です(別人ともいわれていますが、ここでは同一人物として扱います)。なお、彼女の召喚も不完全であったため人間や竜として顕現することはできず、普段は「マスター」という鎧の中で眠っていて、そこからは主人公たちを見守っています。

 重要となるのはやはり二つに分かれた究極の竜であるアンフィニですが、まず片割れであるフォウルは召喚術が行われたのとほぼ同時に出現し「神」ともいうべき召喚竜の力を使い、わずか一代で巨大な帝国を作り上げました。
 ですが彼はその後まだ目覚めていない自分の半身(リュウ)の目覚めるのを待つために帝国の統治を人間に預け、深い眠りにつきます。

 ところが、そうして帝国の管理を任されていた人間たちは時代が過ぎるに連れてフォウルという存在を次第に疎ましく思いはじめるようになっていきました。
 とくにフォウルから帝国を任された皇帝の子孫はかつて交わされた約束の通りに「フォウルが目覚めれば自分の地位が奪われる」と考え、その復活と同時に彼を殺そうと動きはじめます。

 こうした人間の身勝手さに絶望したフォウルは怒り、ついには帝国を滅ぼし、人類そのものも抹殺すべきであるという意思を持つまでになります。
 そして最終決戦の地にあらわれたもう一人の自分である、主人公リュウに向かって「お前が見てきた人間は残酷ではなかったか?」と問いかけをはじめ、彼と一体化することで本来の自分であるアンフィニの姿を取り戻し人類を滅ぼそうとするのですが、作中の「グッドエンド」では、リュウの「それでも人類は滅びるべきではない」という意志が勝つことで、竜同士の激しい死闘の末にこれを打ち破り、敗れたフォウルと一体化した上ですべての「神」の力を世界から消滅させ、自身も人間として生きていくことを選んで結末を迎えます。

 ですが物語はここでは終わりません。

 なぜかエンディングの後にユンナがあらわれ、これですべての神の力が消えてしまったという報告を受けながら「神なんてこれからいくらでも私が作ってあげますよ」とつぶやくのです。

 プレイヤーには結局そのユンナの言葉の意味はわからないまま4の物語はここで終わってしまうのですが、ここまでの流れの中に後に世界の管理者となって出現するミリアの名前はなぜかまったく出てきません。

 しかし、一方で興味深いのは1から3にも登場していたディースが、ここではじめて「竜」だったと明言されたことにあるでしょう。彼女は本来リュウ(4の)と非常に近い存在であり、その名前と能力の一部を受け継いでいる主人公たちに力を貸してきたのも、すべては彼らの行く末を見守るためだったわけです。

 すると、さらにこれと関連していると考えられるのが3のエンディングにある会話です。
 3のラストで「自分たちは女神の庇護を捨てて歩んでいく」といったリュウたちとの最後の戦いに敗れたミリアは、これまでの自分の行いが無意味だったのかと嘆きます。

 すると彼女の前にひとりの人物があらわれました。ディースです。
 その姿を見たミリアはこういいました。

 「ねえさん・・・?」と。

 ディースはブレスオブファイア1、そして2では仲間になりながらも、その種族などは謎に包まれていました。

 下半身は蛇、上半身は美しい人間の女性というその姿から、他にはいない特殊な種族だろうと考えられていたのですが、ここではじめて女神ミリアとも近い存在だったことがわかるわけです。

 ディースはミリアにこれまでの彼女の行動がけして無駄ではなかったこと。そして、今や生命が自分たちで歩き出そうとしている段階にまで来たのは、むしろ喜ばしいことだと説きます。

 この彼女の言葉に納得したミリアは自ら長い眠りにつくことを選びました。

 ここでディースとミリアの二人がともに竜(神)であったとした場合、二人が「姉妹」であったということもうなづけるわけです。


 ブレスオブファイア4のラストでは、まだミリアはあらわれていません。

 そして、ディースもまた不完全な召喚の影響で具現化するための身体をもたず、無機物の鎧の中でかろうじて存在しているだけです。つまり4の物語の後で、おそらくは何かしらの理由によって再び竜が召喚されなくてはならないという事態が起きたことが考えられます。

 召喚竜がそもそも何らかの自然界の統括者としての神の力を持っているのなら、ミリアもまた神であったために世界のバランスを管理する存在となったことは十分あり得る話でした。そして、もとは同じ召喚竜であった賢樹との間に面識があった理由もこれでわかります。

 このミリアも関与し、再びリュウが神としての力の一部を取り戻すことになったのであろう「世界の荒廃した争い」がどのようなものであったかは作中で語られていませんが、もしもユンナがそこに絡んでいるのだとすれば彼と彼の協力者が人造的に作り出した神と、自然の管理者として召喚された竜たちもその争いに何らかの形で巻き込まれた可能性が高いでしょう。

 そうするとミリアの存在もまた本来は召喚竜と同様に世界を維持するためのものであり、けして邪悪なものではなかったというのがはっきりしてくるわけです。

 では、なぜ3では「すべての生命を愛している」といっていた彼女が、1の時代には邪悪な女神にまで変質してしまったのか。

 ここにもフォウルと同じようなことがあったのではないか、と想像できる余地があります。

 ブレスオブファイア1の時代、黒竜族の帝国が世界を支配しようと領土を拡大していましたが、こうした動きは何も彼らだけにあったものではなく、ニーナ姫(ブレスオブファイア1のヒロイン)がいるウィンディアという比較的に平和な王国ですらもかなりの軍事力を持っていることから、おそらくこれまでにも長期的な戦いが大陸のあちこちで繰り返されていたことが見て取れます。

 3のミリアの性格から見て、こうした繁栄した竜族を含んだ人類がいつまでも終わらない戦争を繰り広げている姿は彼女に怒りと絶望を植えつけたに違いないでしょう。
 このために彼女は姉であるディースとも決定的に袂を分かつことになりました。
 しかし、ディースの方はおそらく彼女の性格からしても妹のミリアと積極的に争おうとは考えなかったでしょう。

 そのためか3でも彼女は終始自分とミリアとの関係をリュウたちに明かそうとはしませんでした。

 こうした彼女の姿勢は、普段の言動からして単純にめんどうくさいから、あるいは妹であるミリアをまだどこかで大切に思っているからといったものではなく、4の最後に見せたリュウの決断。地上のことは神の力ではなくそこに生きる生きものたちで切り開かれるべきだという彼の姿勢に共感し、そその意思を受け継ぐ者たちの行く末を見守りたいという意思が背景にあるからかもしれません。

 さて、このように考察してみたわけですが、もちろんここにはかなりの「こじつけ」も入っています。

 また、ゲームの製作の順番からいっても、こうした全体のストーリーが最初から用意されていたわけではないでしょう。
 ですが神であった竜族がいずれ人間と共存する種族になり、それと争いを続けている神もまた、同じく竜であったという展開は、ストーリーとしてもなかなか面白いものになるのではないかと思います。

 そしてまたその竜を変容させてしまったもの。

 フォウルやミリアを邪悪たらしめたのは、結局人間の存在だったのではないかとすると、これらは単純な邪悪な神と人の戦いではなく、邪悪を生み出すのは人間自身であるということになるのかもしれません。

 余談になりますが、こうした「悪」とは何か、というテーマは当時のRPGがおおよそ問題にしていた部分でした。

 ブレスオブファイア1~2の時代はまさにRPG、そしてファンタジー作品の全盛時代であり、主人公が悪の魔王と戦うヒロイックファンタジーの名作がたくさん発売されました。

 代表的なものはやはり先ほども紹介したロードス島戦記や、ゲームではドラゴンクエスト。ファイナルファンタジー。またドラゴンが人間になり、竜の力を使って戦う、というストーリーはファンタジーノベルの名作エメラレルドドラゴンなどにも見られるものです。

 こうした作品と比べてもブレスオブファイアシリーズは確かに名作といっていいものですが、1のストーリーからいえばけして斬新だったとはいえません。発想でいえば、それはほぼ今書いたような作品にも見られる要素をRPGとしてまとめたものでした。

 また、シリーズでも評価の高い2にしても、主人公の母親の境遇や彼らの敵がラスボスを神とする「宗教組織」であることなど、本作の二年前に発売された名作RPGドラゴンクエスト5からかなりの影響を受けていることがうかがえます。

 作品テーマとしても、例えば4に見られるような「もとがけして邪悪なものでなかった存在が、人の邪悪さを見たことで人類を滅ぼそうとするにいたる」というのはドラゴンクエスト4で魔王であるデスピサロがロザリーを人間に殺されたことから、人類を滅ぼすためにより強大な力をもとめるようになり、ついには禁忌の力にも手を出していくという流れと大よそ一致しています。
 この意味では4のフォウルはピサロの視点で描かれた物語がだったとさえいえるかも知れません(ケフカとユンナの類似なども含め)。

 ただしこれは単純に他の作品のオマージュであるというよりは、時代によって「ラスボス」というものの扱いが大きく変わってきたということを反映しているとためであるとも思います。

 最初は純粋な世界を滅ぼす悪との戦いだったものが、やがて争う相手が秩序の管理者としての神となり、最後には人類の被害者としての悪となる。ブレスオブファイアシリーズはそうしたRPGゲームの時代性の変化をよくとらえていたからこそ、一部に多くのファンを獲得できた。そういう作品だったのではないでしょうか。(了)

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