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仮面ライダークウガ考 【3】グロンギとは?

 ここでは、敵であるグロンギについて考えてみようと思う。
 そもそも、彼らの目的は何なのか。そして、彼らは本当は何者なのか。
 番組中では、結局その謎は明かされないままだったが、ここでは、番組内での彼らの行動や、起こした事件、 そして仲間内でのやりとりなどを参考にして、その二つの点について、考察して行きたいと思う。
 まず、最初の一点は、彼らの目的である。
 それが、今までのライダーの敵のように、世界征服などではない事はたしかだ。
 彼らは、どこかの建物を占拠したり、あるいは要人を人質に取ってどうこう、などと言うような事は一切しなかった。
 彼らが実行したのは、殺戮である。それも、ひどくゲーム的な。
 彼らは、自ら立候補するか、<バラのタトゥーの女>に指名されるかして、そのゲームを行う事を宣言する。 ゲームの、いわばプレーヤーとなったグロンギ怪人は、何日間で何人を殺す、とまず目標を仲間たちに示し、そして自らの 決めたやり方――たとえば、乗り物の色だとか、楽譜の音階だとかに従って、ゲームを進めて行く。
 番組中では、このゲームを完全にやり遂げる事のできた怪人はいなかった。
 途中で、たいていは五代が変身したクウガに倒されてしまったためだ。
 だが、もしもクウガが存在しなかったとしたら、どうだったのだろうか。
 おそらく、ゲームをやり遂げた者は、今より上の階級へと進むことができたはずだ。
 彼らの行っている殺戮ゲームは、いわば昇級試験のようなものだったのだろうから。
 彼らは、「ゴ」だの「ズ」だのと言った幾つかの集団に分かれている。一見すれば、それは部族名にも聞こえるが、 そうではなく、それは階級名であろう。
 このあたりは、放送終了後に発売されたムック本などでも、そのような見解が示され、ほとんどそれが常識のように書かれている。
 だがでは、そうやって殺戮を繰り返す事によって、上の階級へと進んで行く事だけが、彼らの目的なのだろうか。
 それはしかし、なんだか違うような気がする。
 なぜなら、彼らの上には明確なトップたる存在がいないからだ。
 たとえば、私たち人間が、社会での出世を夢見る場合、具体的なトップが存在する。たとえば、一つの会社の社長と言う立場が そうだ。あるいは、一国の首相と言う立場もそうだろう。
 それは、今までのライダーにおける悪の組織にしても同様で、彼らにはトップたる首領が存在した。むろん、ライダーにおける 悪の組織の首領は、絶対君主であって、それを引きずり降ろして、自らがトップになる事を夢見る怪人などと言うものは登場 しなかったにせよ、である。
 だが、グロンギには首領たる人物が存在しない。
 たしかに、ダグバは最初に超古代の戦士の封印を解き、仲間たちを目覚めさせた存在ではある。物語の最後近くに登場し、 圧倒的な強さも見せた。
 だが、首領――統率者ではない。
 最初からそうだが、グロンギの怪人たちに常に命令を下していたのは、<バラのタトゥーの女>である。
 だが、人類の開発した、神経断裂弾で驚くほどあっさりと倒されてしまった彼女を、首領と言うには、いささか違和感がある。
 むろん、この二人の他に、首領とみなしていい怪人も存在しない。
 つまり、グロンギには統率者たる首領が存在しないと言うことだ。
 統率者が存在しないにも関わらず、彼らは自分たちだけのルールに従って行動している。これは、どう言うことだろうか。
 彼らには、姿なき統率者、とでも言っていい存在がいるのではないだろうか。
 それがつまり、『究極の闇をもたらすもの』と呼ばれている存在なのではないか。私は、そう思う。
 言ってみれば、彼らにとって『究極の闇をもたらすもの』とは、一種の神のような存在であり、その神を呼び降ろすために、 殺戮を繰り返しているのではないか、と言う気がするのである。
 ただ、目的は同じであるものの、他の怪人たちとダグバ、そして、<バラのタトゥーの女>とは、かなり立場が違うと 言わなければならないだろう。
 殊に、<バラのタトゥーの女>は、グロンギの中ではいささか異質である。
 まず、怪人たちに対して、命令する立場にあると言うこと。ダグバに対してさえも、「おまえ」と呼びかけているところを 見れば、対等ではなく、彼女の方が上位に位置していると思われるのだ。
 だが、だからと言って、彼女がグロンギの中で、最も強いわけではないのは、先にも述べた通りである。
 また、他のグロンギの怪人たちが(ダグバでさえも)人間を、ただの殺戮されるために存在する動物のようにしか考えて いないのに対し、彼女は「別の種族の人間」と言う認識を持っているようでもある。
 その事は、一条と対峙した際に、彼女が漏らした幾つかの言葉で知れる。
 彼女は、時には警告とさえ取れるような言葉を、一条に対して告げているが、中でも印象深いのは、 「今のリントは我らと同じだ」 と言う言葉だろう。
 この言葉から、彼女は自分たちのしている事が非道な行いであること、そして、かつてのリント(人間)にとってそれは 最も忌むべき行いだったと言うことを、ちゃんと認識している事が知れるのではないか。
 これは推論だが、彼女はグロンギの巫女のような存在だったのではないかと私は思うのだ。
 もしも、彼らのあの殺戮が、『究極の闇をもたらすもの』と言う、彼らの神を降臨させるための<儀式>だとしたら、 彼女は、その式次第の全てを取り仕切る巫女だったのではないだろうかと。
 だからこそ、戦闘能力でははるかに勝る同族に対してでも、彼女は上位者であり得たのではないだろうか。
 また、彼女は、殺戮に向かう怪人たちの腹のベルトに、力を注ぐ役割をも持っていた。 クリスタルの牙のようにも見えるそれは、おそらくは、怪人たちの本来の能力を引き出すための鍵のようなものではないかと 思われるが、それを扱う事ができるのは、彼女だけのようである。
 その事からも、彼女こそがこのゲームを取り仕切る巫女的存在だったことが伺える。

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