30分で組み立てるインタビューライティング〜はじめに〜

「テレビがつまらなくなった」と言われて久しいです。
よく語られる要因として、様々な自主規制による現場の萎縮であったり景気低迷による予算の減少が挙げられます。
それは私も実感しているところで、そしてそのような状況の中で思い切った制作ができなくなったことによる経験値の蓄積の鈍化が進み、テレビ制作の現場は、まさに負のスパイラルに陥っている状況です。
しかし、すべての映像制作のクオリティが下がり続けているとは思いません。様々なジャンルの番組がある中でそれぞれのトップに君臨する番組は敬服する程に考え抜かれた企画であり、一流の技術が投入されていると感じます。

そのような今、テレビ制作の現場に立つものとして肌で感じているのは、『番組の格差』です。
同じ50分の番組でも看板番組と低予算番組では予算が100倍違うことなどは昔から変わりませんが、問題は総量です。
1億円の予算が5千万円になってできなくなることと、1千万円が500万円に削られてできなくなることは根本的に違います。
そもそも映像制作はお金と時間がかかるもので、出演者や撮影機材、舞台セットなどの物質的なことに加え、取材の深さや撮影、編集のセンスなど感性の部分の能力も結集して作り上げられるものです。
そのような総合的な力を結集してできる映像作品がテレビ番組です。

では、底予算がさらに削減されたとき何が無くなっていくのか?
それは『時間とスタッフ』です。
番組の規模や見栄えを下げることなく予算を削るにはスタッフの数を減らし、取材、撮影、編集の時間を効率的に圧縮することが求められます。
2本撮りだったのが3本、5本撮りになり、技術スタッフで言えば撮影・録音・照明の三業務が分担していたのが、今はカメラにワイヤレスマイクを直接飛ばし、ライトもカメラの上に載せ、カメラマン一人で三業務をこなすのは当たり前になりつつあります。また、2カメ3カメのロケの際はADがカメラを持ち、ディレクターがカメラを持ち、これ以上ない最小人数でロケを敢行することも珍しくありません。
このような状況の中で、「もっとこうすれば良い内容になる、良い映像になる」と思ったところでできることは制限されています。
ですが、視聴者にとって作り手側の事情など全く一切これっぽっちも関係ありません。求められるのは『面白いか、面白くないか』のみです。

危惧するのは現場の地盤沈下です。
少数の看板番組のみが賞賛され予算が注ぎ込まれ、その狭い杯の中だけで盛り上がり、そこに参加できる人脈のない若者は低予算の中で日々目の前の作業を機械的にこなすのみとなり経験が積まれずその差が固定されてしまいます。
潤沢に資金があった時代に経験を積んだベテランばかりに仕事が集中し、若者がゼロからスタートしたものの経験が積める現場に立てず、その差が固定されたままでは次の世代が育ちません。
今、日本の様々な産業で起こっている世代交代できず高齢化し廃業していく現象はテレビの現場にも当てはまります。
そしてそうなってしまったとき、本当にテレビの終焉がやってきます。
しかし、テレビは沈んでも『映像』そのものの仕事は無くなることはありませんし、むしろ映像産業は拡大していると感じます。
そうであるならば尚更のこと末端の人間こそがしっかりとした技術を持って業務に臨むことができれば、また新しい境地が拓けてくるのではないでしょうか。

テレビは映像表現です。
そして放送は基本的には一過性のメディアであり、もともと興味のある人が好んで視聴しに来るようなことを期待するのではなく、たまたまチャンネルを合わせただけの人をも惹きつけなければならない魅力を備えることが求められます。
だからこそ、せめても見えている画面は魅力的であるべきではないかと強く思います。
誰でもカメラを手に取り赤い印の付いたボタンを押せばとりあえずなんでも映ります。それでいいのでしょうか?
有名人の面白い話が映っていれば映像の質などはどうでも良いのでしょうか?
映像表現の一端を任されている者として、たとえ余裕のない業務であっても、伝えることを的確に表現できる技術があれば限られた時間の中で一閃の輝きを映像に込めることができます。

恥ずかしながら私がこのnoteにこの様なことを書き記そうと思ったのは、少人数小規模ロケで業務する私の様な末端の人間こそが最低限でもプロと呼ばれる程度の技術や知識を身につけて、底辺からしっかりとした技術で映像制作を支えることがこれからの制作現場に必要なのではないかと感じたからでした。
映画やドラマなどの大規模な撮影も、少人数で構築するドキュメンタリーの撮影も、光のバランスを整えレンズを通して記録する作業としては基本は通底しています。
時間や機材が制限された中でいかに最大の効果を引き出すのか、その実際をお伝えしていきます。
現場の限られた時間の中で「映像が好きだ」という想いをひたすらに込め続けることが最終的に映像の質を押し上げ、観る人の心へ届きます。

これから15回にわたりインタビューライティングの実際をお伝えしていきます。
拙い解説書とは思いますが、今後の映像の世界への一助になれば幸いです。




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