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【創作小説】しにたがりの男たち

 これはどこかの星のどこかの国の、しにたがりの四人の男たちの話である。
 世界に身を委ねることをやめたくなったその男たちは、全員で力をあわてこの世界から抜け出すことを決意し、決行の日取りや手段について話し合うことにした。
「滅多に人がこない山奥でさ、崖からオープンカーで旅立つのとかどう?」
「ジェットコースターみたいにみんなで腕を上げたりなんかして?」
「いいじゃん」
「でもまずそのオープンカーがなくね?」
「なんなら免許もないけど」
「…………それはこれからどうにかするとして」
「あ、俺最後の晩餐は世界一美味いからあげがいい!」
「いいねえ」
 話し合いのあと、全員の全財産を集めて山へ少し入った場所の崖上に建つ山小屋を買った四人は、来たるべき日に必要になるであろうものを各々分担して用意することにした。
 一人は山小屋に残ってみんなで手に入れたその場所を保守し、一人は免許取得のために合宿へ向かう。それから一人はオープンカー購入のための出稼ぎに出掛け、一人は究極のからあげをつくれるようになるための修行へと出掛けた。
 ……それから時はすぎ、決行の日が訪れる。
 まず最初に帰ってきたのは、からあげ修行に出掛けていた男だった。こだわりにこだわりぬいた食材とともに帰ってきた彼は、さっそくエプロンを身につけてキッチンへと向かう。
 そうこうしていると、一台のオープンカーが後ろにもう一台の車を引き連れてこんな山の奥までやってきた。中古車ディーラーがここまで納車にきてくれたようなのだが、オープンカー自体の代金が走行距離や経年劣化の関係でさほど高くなかったおかげで、自宅納車の追加料金を含めても比較的安く済んだらしい。
 本当にここでいいんですかと何度も確認されながら崖近くにオープンカーを停めてもらって納車を終え、業者を見送った三人の男たちは山小屋の中へと入った。
 するとつけっぱなしだったらしいテレビの画面に、ちょうどあるニュース速報が表示される。
 それは、免許合宿を終えてこちらへ帰ってくる男が乗っているはずのバスが事故にあったという内容だった。
 それを見た男たちはあおざめ、いてもたってもいられずに小屋を飛び出す。すると、少し遠くの方からこちらの方へ走ってくる人間の姿が見えた。それは紛れもなく仲間の最後の一人であり、「やべえ! しぬかと思った〜!」と叫んで手を振りながら笑顔でやってくる姿を見て気が抜けた男たちはつられて笑いながら、その男を迎え入れた。
 男の話によると、事故直後に真っ先に四人の約束のことを考え、横転したバスから抜け出して警察や救急隊をふりきりここまでやってきたらしい。見上げた男である。
 ……四人が、再び揃った。
 さきほど納車されたばかりのオープンカーに、四人全員が乗り込む。エンジンがかかり、これで自分たちの願いがかなうのだと思うと、全員が一様におだやかな表情になった。
 しかしそのとき、男のうちのひとりが「あ!」と大きな声をあげる。
「えっなに」
「からあげ! 食ってない!」
「あ!!」
 オープンカーのエンジンを止め、男たちは全員ばたばたと小屋の中へと駆け込んでいった。四人がけのダイニングテーブルの上には、さきほど揚げ終わったばかりだったからあげが鎮座している。
 ごくりと、誰かが生唾を飲み込む音が聞こえた。
 男たちはキッチンの炊飯器から炊きたての白米をよそってテーブルにつき、世界一美味いアツアツのからあげを美味い美味いと頬張って腹を満たす。
 そうしてしあわせな心地になった男たちは、寝室へと向かって仲良く眠ってその日を終わらせたのだった。

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