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家での映画時間を一時停止して

観なきゃ観なきゃと観てない名作が山ほどある。「観なきゃ」というのも変な話。別に誰かに強制されているわけでもない。でもどうせなら生きてるうちに観ておきたいなって気持ちが強くある。それは「名作と言われてるから」って理由が9割くらいあるかもしれない。自分で好きな映画を発掘するのも好きだけど、何十年も観続けられてる作品に触れるのもやっぱり好き。

一度、観ておきたい名作を一覧にしたことがある。引くほどあった。なるべく映画館に行きたいため、新作ばかり追っかけて「名作」は完全に追いついていない。それほど毎年映画が公開されてるってことでもある。
3年前から家にいる時間が自然と増えたおかげで、配信も追加され、いつでも映画を観られる環境は整っている。

映画を観始めるパターンはいくつかあるのだけど、その一つに、ご飯を食べ始める時というパターンがある。そんな時は自然とグロテスクなものやシリアスなものは避ける。なんとなく美味しく食べたいから。
ある日、「なんかなかったかなー」と思い出しているとふとスプーンを持ったポスターを思い出した。あれならご飯にも合うかもしれない。

遂にこの時が来た。ずっと観ていなかった『アメリ』を観る時が来た。あらすじはなんにも知らない。でもスプーンとオドレイ・トトゥということだけはわかっている。私はスプーンでカレーを頬張りながら観始めた。

ご飯を食べ始める時に観ると言っても、それはキッカケでしかなくて、最初の15分以内には大体食べ終わる。映画館で始まる前にホットドッグ食べ終わったり、ポップコーン半分くらい食べてるのと同じ感じ。お腹が空いてるから食べてるわけで結局早い段階で食べて満足するパターン。
そこからは口寂しさは残りつつも、映画と向き合う時間になる。

淡々としたナレーションの軽快さとは裏腹になかなか過酷な主人公の生い立ちが流れる。ふむふむこういう人の話なのね。大人になっても大変そうな感じ。と理解し始めてたら、いきなり現実に、いや、過去に一気に引き戻された。

主人公がテレビを観て悲嘆に暮れるシーンで、あまりにも聞き慣れすぎている音楽が流れ始めた。空耳だと思ってより凝視したけど、聞き間違いではなかった。
蜷川幸雄演出舞台『NINAGAWA・マクベス』で使われた音楽だった。蜷川さんが亡くなる1年前のこの作品に私は出演していた。
鼻に酸素吸入器をつけた蜷川さんから千本ノックを受けた忘れられないあの夏。その音楽を忘れられるわけがない。

映画の中に平然と入ってくるけど、私の中で蜷川演劇の音楽はさらりと受け止められないため、その瞬間いつも映画から過去に追いやられてしまう。(当時の本番中の写真を今回のトップ写真にしてしまうほど)

なぜ、今、割とルンルンで観始めた映画の中に出てくるんだ。完全に集中できなくなり、停止ボタンを押し「蜷川幸雄 アメリ」で検索した。
何も出てこなかった。ここまで来ると、あの時は知りたいと思う余裕がなかったこの音楽の名前が気になってしまった。

すると「アメリのテレビのシーンのバックで流れてた曲を知ってる人はいませんか?」と知恵袋にあった。やっぱり同じことを思う人はいるんだな。私は別の理由だけど。でもその人のおかげで初めてタイトルを知れた。

音楽アプリに入れて聴いてみる。「あーこれだ。懐かしい」あの稽古と本番の日々の走馬灯がよぎる前に一時停止。危ない。映画と関係なく涙が出るとこだった。
こうなったら蜷川さんの演出作品で使っていた曲をプレイリストにしようと思えてきた。なんだかんだ稽古中と本番で聞き慣れすぎて、タイトルを知ろうともしてなかった気がする。
というのはかっこつけで、芝居に必死でそんな余裕もなかったのが9割か。

検索してはアプリに入れてを繰り返すこと2時間。本来ならもう映画は観終わっているはずの時間が経ち、18曲のプレイリストができた。私はこれを一体いつ聴くのだろうか。たぶん聴かないと思う。聴くことのないプレイリストを初めて作った。これ以上の自己満足はないくらいのまさに自己陶酔な時間だけが進み、映画は途中で止まったままだった。

映画を再開しようとリモコンを手にしたら、部屋に飾ってある映画のDVDが目に入った。『About time』。「ちょっと待て、これにも使われてたやん蜷川さんが使ってた音楽!」そこからまたその曲のタイトル探しが始まった。

しっかりプレイリストに追加して、さぁこれで映画を再開できるぞ。と思った矢先にピンポーン。「え?あ、注文してたものが届いたのか」また一時停止して、受け取る。

さて、強力突っ張り棒を取り付けるか。一人だとなかなか難しい長めの突っ張り棒と格闘した。

「観なきゃ」と思う名作はいつまで経っても観れない。

でもきっと『アメリ』を思い出すたび、この一連のことも思い出すのかもしれない。そんな映画体験があってもいいと思いたい。
集中して観るのも好きだけど、映画を観ている時の関係ない出来事も好きだったりする。人と観ていたらそこにまた違うストーリーが生まれるし。

映画はそうやって生活にも思い出にも奥行きを届けてくれるからたまらなく好きだ。
これから名作が映画館で公開される時は、なるべく映画館に行こうという教訓にもなった。

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