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「おひとりさま」はもう怖くない #日記20

かつて私はひとりで牛丼屋に入ることができない人間だった。

ひとりで牛丼を食べている女を前にして、店員はどう思うだろう。他のお客たちはどう思うだろう。たまたま店の前を通り掛かった同級生たちはどう思うだろう。──こんなことばかり考えていたせいで、大学を卒業するまでひとりで外食をすることがほとんどできなかったのであった。

ところが今は、牛丼屋はもちろん、カラオケでもイタリアンでも立呑屋でもひとりで行けてしまう。おひとりさまマスターまっしぐらである。なお、この言葉に自虐の意味を嗅ぎ取ってしまう方がいるかもしれないが、まったくそのつもりはない。私はひとりで色々なところへ出かけていけることが、今とてもうれしい。おひとりさま万歳状態です。

なぜそうなれたのか考えると、やはり東京という土地の力が大きかったように思う。

大学卒業後、私は何の因果かひょっこり東京にやって来てしまい、まったく知り合いのいない街で暮らしを始めることになった。親も親戚も、私がここで何をして過ごしているか全く知らない、そうだ、誰も私のことなど見ていないのだ。そう自覚した途端、私は初めて自分のことを自由な存在だと感じることができた。何をするのにもビクビク周りの様子を伺っていたのがいかに無駄な時間だったか、しみじみわかった。(ちなみに、自分が男として生まれ育っていたらまた少し状況は違っていただろうな、とも思う。)

それからは、少しずつ自分の行動範囲を広げていった。自分の行ってみたいところ、やってみたいこと、欲しいもの、会いたい人──。周囲の大人たちにおしこめられていた自分の素の欲求に耳を傾けながら、一つずつ行動に移していった。

私は好きなことをしていい。好きなところに行っていい。自分の願いを自分でかなえてあげられるんだ。大人になってひとり東京で生きている今、自分のなかに力がみなぎっているのを感じる。私の人生、まだまだ始まったばかりだ。

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