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『僕は出ていく』

僕は出ていく。退屈な世界から。

新しい世界が不安だから、意識を眠らせて、僕は外の世界を見なかった事にしてきた。

実は僕は駆け出して行きたかった。
有りもしないトンネルの出口へ向けて。

RPGの主人公のように、意識下で僕は何度も冒険をしたのだけど。

それは現実じゃないと、誰もがバカにした。
それは本物の勇気じゃないと大人たちは言った。

それは、無観客で行われるオリンピックゲームと何一つ変わらなかった。

耳を塞いで目を閉じた。
怖くてしゃがみこんだ。

何をしても炎上するから。

そんな事を僕は数限りなく繰り返し、荒野を一人で歩き続けても、僕だけが知る一億光年分の価値のある宝を僕は今だに見つけられないのだけれど。

この世に生を受けて、もう半世紀近くになるのだけど。

やがて歳を取った僕の乱視は酷くなり。
五秒前の考え事が解らなくなり。
恐怖のリミッターが振りきれた時。
100メートル走の号砲が突然鳴るのだ。
眠りかけ、ほとんど諦めかけた意識下で。

依頼を受けた探偵のような動きで、バネ仕掛けのオモチャのように僕は跳ね起きた。

見えない炎で焼かれる世界が嘘だと見破り。

僕は出ていく。
偽りの世界から。

level 0になるころに僕は気付くかも。

何をしようが変わらない。
何もせずとも、世界は変わる。

写真 小幡マキ 文 大崎航

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