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1冊目。Rooftoppers、勝手に邦題「屋根の上のソフィー」

原題:Rooftoppers
原作者:Katherine Rundell
勝手に邦題:屋根の上のソフィー

概略と感想

冒頭は大型客船沈没の場面。チェロのケースに乗ってイギリス海峡を漂っていた赤ん坊は、同じ船の乗客で学者のチャールズに救われ、ソフィーと名づけられてロンドンで成長します。シェイクスピアとクラシック音楽をこよなく愛するチャールズとの暮らしはちょっと風変わりで、児童保護協会のお目付け役ミス・エリオットの評価はすこぶる低いですが、家が片づいていなくたって幸せに暮らせるのです。たったひとつ、二人の意見があわないことをのぞけば。

ソフィーの記憶の中のお母さんは、黒いズボンをはき、船のバンドでチェロを弾いています。ミス・エリオットは言わずもがな、優しいチャールズでさえ、生きている可能性はほとんどないと言いますが、でもそれは、わずかでも望みがあるということ。いつかきっとお母さんに会える、ソフィーはそう信じていました。
 
しかし、ソフィーの12歳の誕生日を前に、二人のもとに児童養護施設への入所通知が届きます。悲しみと怒りにまかせてチェロのケースを壊すソフィー。すると、ベーズ(内張りの生地)の下から製造元を示すプレートが現れ、パリの住所が刻まれているではありませんか。そこに母の手がかりがあるかもしれないと考えた二人は、パリへ出奔します。
 
探しあてた弦楽器店でチェロを買った人の名前がわかり、さっそく沈没した客船に乗っていなかったか調べはじめるも、パリ警察が二人を妨害し、自国へもどれと脅します。チャールズは、ソフィーの身を案じてホテルから出ないように諭すのですが、だまって部屋で待っているなんて、できっこありません。そんなソフィーに力を貸すのは、屋根の上で暮らす子どもたち。警察に見つかる前にお母さんを捜しだせるのか? 美しいパリの夜をかけ抜ける、子どもたちの冒険が始まります。ランデルさんらしい、子どものパワーあふれる物語。
 
舞台は19世紀末のロンドンとパリ。イギリスはヴィクトリア朝の後期、パリはベル・エポックと呼ばれる時代で、馬車に混じって自動車が走りだしたころのようです。
 
おとぎ話のような楽しさと不思議なリアリティーが絶妙にとけあう作品で、愛と勇気と音楽がぎっしり詰まっています。ファベルジェの卵のようなパリの夜景が目に浮かぶ綱渡りシーンも大好きだし、屋根の上の食事の場面にくると、どうしてもボリューム満点のサンドイッチが食べたくなって台所にたってしまいます。あんまり好きすぎて、ランデルさんが物語の着想を得たという、オックスフォードのオール・ソウルズ・カレッジを訪ねちゃいました。
 
複数の出版社が出していて、テリー・ファンが装画と挿し絵を手がけたサイモン&シュスター版も、ランデルさんの巻頭の言葉が加わったブルームズベリ版もキュートです。

受賞歴:ウォータストーンズ児童文学賞、ブルーピーターブック賞


大学の構内は、観光客に開放されている場所も多いのです。
ちょうどお花の季節。手入れの行き届いた花壇がありました。
こちらは、ラドクリフ・カメラ。図書館の閲覧室になっているとのこと。

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