妙なタイトルだな、と思った。
「むなしさ」は味わうものなのか
その問いは、この本を予約し、手元に届くまでの4,5日間、
私の胸から離れなかった。
タイトルに引っ張られて本を買ったわけではない。
きたやまおさむさんはかつて「帰ってきたヨッパライ」という、なんとも変てこりんな曲で一世を風靡した「フォーク・クルセダーズ」のメンバーであり、作詞家だ。
私は、彼が作る曲の、特にその歌詞に強く惹かれていたのだ。
だから、新聞の読書欄でこの本が紹介されているのを目にし、
すぐに買って読もうと思った。
北山さんは作詞家であると同時に精神分析学を専門とする精神科医でもある。
本の内容は深層心理学あり、神話学あり、「心の装置図」あり、と多彩で多岐にわたり、その中に作詞家として、また精神科医としての体験が語られたりする。
「むなしさ」を味わいながら観察していく……
「味わう」と「むなしさ」との間には、あまりにも深い河がある。と、思うのだけれどー
読みすすめていくと、
「悲しくてやりきれない」という曲が登場する。
フォーク・クルセダーズとして2番目にリリースされた曲だ。
うーん。
読めば読むほど、もやもやとした思いが募る。
救いようのない「むなしさ」を、どうやって味わおうというのか。
最終章
自死した「盟友」とのことが語られる。
最後まで読み、何か所かは繰り返し読んだ。
しかし、読めば読むほどもやもやした思いが胸を覆い、
息苦しくなってくる。
こんな読書は初めてのことだ。
モヤモヤするうちにイライラが募り、そんな自分に戸惑いを覚える。
このもやもやはいったい何なのか、
考え、また読み返し考え、答えが出ない中で
ふと思った。
モヤモヤはどこまで行ってもモヤモヤなのであり、むなしさとはなんだ、とモヤモヤ考えることこそが「味わう」ことなのか、と。
そう考えると、心の中が少し軽くなる。
そして、改めて思い至る。
著者が精神分析の専門医であることを。
なるほど、「むなしさ」は味わうこともあるものらしい。