Tくんの職業を知る

好きだった人Tくんについては、「プロローグ」を先にお読み下さい。

たまにTくんが夢に出てくる。
昔から、年に数回。

現実では、あまり話をした事はないが、夢の中では、照れながらも積極的に会話をしている。自分でもTくんのことが好きって自覚するくらい、ぽかぽかした気持ちで目が覚める。

あぁ〜Tくんと話せたぁ!という幸福感に満ち溢れた後、現実はもうTくんと会うことも、二人きりで話すことも無いんだと気付く。

連絡先さえ知らない私は、Tくんの名前をネットで検索したことがある。

そうすると、大好きだったTくんの顔写真が出てきた。スーツを着て、澄ました顔でこっちを見ている。

久しぶりに見た‥!懐かしい顔…!!!
胸が躍る。好きだった人だ。
会いたくて会いたくて星を見て泣いた人。
再会したくらい嬉しい‥。
画像の貼付先を開いてみると、某大手の不動産会社のホームページだった。

不動産??

宅建!??


高校三年生の時、同じクラスの男子がTくんの進路先の話をしていて、たまたま耳に入った覚えがある。確か、高卒で就職して大阪に行くと言っていたっけ。

Tくんの通っていた高校は工業科や機械科があるので、工場で働くのかなと勝手に想像していた。

不動産会社のホームページに営業マンとして立派に載っているTくんを見て、私は何だか負けたような気持ちになった。

昔、建物に興味があった私は、建物関連の大学に進学し、建物関連の会社に就職した。小学六年生の卒業スピーチで、その夢を初めて公言し、そこからブレずに14年間、夢を追ってきた。

でも、26歳の時にその夢を諦めた。
専門分野に卓越したプロになりたかった私は、何者にもなれなかったのに。
高校を出てすぐ就職したTくんのほうが資格を取って、専門分野で活躍していることを知り、落ち込んだ。

この負けたような感情って、何なんだろう。
大好きだったTくんが手に職を付けて成功しているのに、負の感情を抱くなんて。

小学六年生の時にスピーチした私の夢を覚えてくれていたのだろうか。なぜTくんは不動産会社に入ったのだろう。

建物を扱う私に近づくため?

設計と販売で形は違うけれども、「建物」を扱う職業同士だったことを知り、Tくんの真っ直ぐな想いを感じた。

勘違いかもしれない。たまたまかもしれない。
でも、Tくんが「建物」の仕事を選んだ時、あなたの心の中に私が居たような気がして。

それなのに私は、一回目の結婚と同時に退職し、「建物」のプロになることを諦めてしまった。

それは同時に14年間大事にしてきた夢も、Tくんの想いも切り捨てた結果になっていたんだと知り、ごめんなさいと思いました。

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