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責任を抱く

ケーキを受け取りに行った。

二週間ほど前に
ホールでケーキを注文して
今日がその受取日だった。

注文の時には
大きさに迷い、
喜ぶ姿を思い浮かべて
ほんの楽しいひと時だった。

しかしケーキ屋さんという
夢のような空間にも
時世はきっちりと迫っていて
注文の最後には
ビニル袋が必要かを確認された。
驚きつつも
時代の流れは仕方がない。

ビニル袋がなかったとしても
ケーキの箱には取っ手がついているため
持ち運びは可能だと説明を受けた。
近所のケーキ屋さんだったこともあって
私は安心してビニル袋なしを選択した。

(事前に会計を済ませたため
 有料のビニル袋が入り用の場合にも
 事前に注文する必要があった)

そして今日、
いざ持ち帰る際に
私は目を疑った。
ケーキが収められた箱には
素敵なリボンがかけられていたのだ。

確かに先日伺った通り
箱は取っ手の機能を
持ち合わせていたようだった。
しかし取っ手部分は
箱と一体となっていて、
そこだけを上に折り曲げて
取っ手を作り出す必要があった。

その取っ手工作部分に
リボンは無情にもかけられていて、
またリボンと箱との隙間には
丁寧に包まれた
紙ナプキンと蝋燭が挟まれていた。

私は箱の底を両手で持ち受け取るが
その際担当の店員さんに
——お気をつけてお持ち帰りくださいませ
と言われて引っかかるものを感じた。
彼女はなにも悪くはない。
客に対する決まり文句だ。
しかしなんだこのもやもやは。

ここでやっぱりビニル袋くださいと言えばよかったのか。
だがケーキを入れるビニル袋は
形が特殊でゴミ袋として使うことも難しい。
また既に両手が塞がっていた私は
ビニル袋へ箱を収めたり
ビニル袋の料金を払ったりすることが億劫だった。

そこでそのまま店を後にし、
まるで小さい子のおつかいのように
両手で大事に持って帰ってきた。

一歩足を踏み外してもいけないし、
斜めにすることも危険。
道中だれかと肩がぶつかりでもしたら
ケーキは箱の中で残念なことになっていただろう。
普段はなんてことのない動作ひとつひとつが
こういう時ばかりは気になってしまい
神経を尖らせて足を進めた。

無事自宅まで運んで事なきを得たが
自分の姿を思い浮かべると
笑いがこみ上げてくる。
いい大人が何をしているんだか。

ケーキは箱の中で綺麗な状態を保ち、
美味しく楽しく頂くことができた。
あまりの責任重大さに
強いプレッシャーを感じたけど
ショートケーキは美味しかったし
よかったよかった。

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