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多分レディーファースト

本日の非常に動揺した出来事。
わたくし、バスにて優先席を譲られてしまった…。

目的のバスは始発の停留所で
今正に発車しようとしているところだった。
座って行きたい人たちは
次のバスを待つためにすでに並んでいて、
私はその人たちを抜いてバスに飛び乗った形になった。

滑り込んだバス車内はなかなかの混雑ぶりで、
全ての席は埋まり、ぎゅうぎゅうではないが
立っている人もそれなりの数だった。

空いた空間は優先席エリアしかなく、
私はそこへ進んでいった。

優先席は縦並びに3席ある。
前から外国人男性、外国人女性、
日本人女性が既に座っていた。
他意はなくとも、優先席の側へ立つのは
少し気が引けるのだが、
空いていたから座ったと思われる
恐らく夫婦であろう外国人のふたりを見て、
日本人とは違う感覚であることが、
いい意味で驚きだった。

優先席前のつり革につかまった時だった。
さっと外国人男性が立ち上がり、
「どうぞ」と私に言うではないか。
――え?なんで?
私はパニックだ。
中年ではなく老人に見えたのだろうか。
マスクしてるけど、そんな高齢には見えないはず。
走ってバスに飛び乗ったくらいだし怪我もしていない。
腹は多少出ているが、妊婦さんに見間違えられるほどではない。
なんで?どうして?

咄嗟に「いえ、大丈夫です」と男性に向かって手を横に振り、
No Thank Youの意思表示をしたのだけど、
男性はそのまま座ることはなかった。

優先席が空いたが、私の後から乗ってきた日本人男性は
外国人男性の後ろから今のやりとりを
ちらりと見ただけで座ろうとはしなかった。

ぐるぐると頭の中で考えて、
動揺ときっと親切を
無下にできない焦りとで悩んでしまう。
その時思い浮かんだのは、子どもが赤ちゃんだったとき、
「席を譲られたら断らないで
ありがとうと言って、ちゃんと座るのよ」
そう私を叱責してくれた人生の先輩女性の言葉だった。

きっと今も同じ状況なんだ。
レディーファーストなんだと受け取ることにして、
「Thank You」と言って座ることにした。
しかしどうも居心地が悪く、
背筋は伸びたままになってしまったけど。

バスは発車し、ぐるりと旋回してから一般道へと出て行く。
実は私は次の停留所でバスを降りる。
距離があるからこの路線を同じように使う人はとても多い。
たったひとつの区間しか乗らない事実に気が付いて、
更に居心地は悪くなった。

バスが走っている間、
「Thank You Very Much」の方が
よかったんじゃないかと悩んでいた。
ちょっとフランク過ぎたかもしれない。

それからなんで英語で言ったんだろう。
「ありがとう」はわかるだろうし、ここ日本だし、
日本語の方がよかったんじゃないかと思い始めていた。

私に悩む時間が多くは与えられず、
すぐに降りるバス停に着いてしまった。
降りる際、外国人男性に
「ありがとうございました」と言って横を通った。
軽く会釈をされた用にも思うし、無反応だったかもしれない。
「ございました」をつけたのは、
さっきの「Very Much」の後悔を打ち消すためだ。

降りた後は外があまりに明るくて、
外からは暗く見えるバス車内は見えなかった。
だから譲ってくれた男性が
改めてあの席に座ったかどうかはわからない。

バスに乗り、降りるまでは
ほんの10分程度の時間だったはずだが、
この疲労感は一体何だろう。
席など譲られ慣れていない私には、
悩みに悩んだ長旅だった。

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