「NHKはどうあるべきか」シンポ 講演から〜すべてがNになる〜

2023年5月4日【テレビ・ラジオ】

 安倍政権以降、権力とNHKの関係はどうなっているのか―。4月30日に東京・武蔵大学で開かれたシンポジウム「公共放送NHKはどうあるべきか」(主催・市民とともに歩み自立したNHK会長を求める会)から、元文部科学事務次官の前川喜平氏とジャーナリストの森功氏の講演(要旨)を紹介します。

前川喜平氏 人事通じて独立性奪う

 安倍政権以来、政治と官僚との関係は相当にゆがんだものになってきています。本来、官僚は専門的な知識を持っています。その自立性がどんどん破壊されています。官邸のいいなりになる官僚だけが生き残れる。ちょっとでも異論をさしはさんだ者は飛ばされる。こういう人事がまかり通っています。

 菅政権、岸田政権でも、自分たちの都合のいいように権力を乱用している、その中でも人事権の乱用が激しく行われている。これはNHKに限らず、特にひどかったのは内閣法制局の長官人事です。従来の法制局では、憲法9条の下で集団的自衛権の行使を認めるという解釈は出てこなかったわけです。その独立性を安倍さんは奪った。その結果として、集団的自衛権を認めるという法解釈が認められ、立法化されてしまった。

 人事を通じて、本来独立性がなければならない機関を、官邸の言いなりになる組織につくりかえてしまった。

 総務省文書(別項)の問題とは何か。明らかに政治が放送の自由に介入しようとしたことです。礒崎陽輔首相補佐官が、官邸の権力をかさに着て、放送法の解釈変更を迫った。「政治的公平」について、本来は放送事業者全体の番組を見て判断するものを、一つの番組で判断できるように解釈を変えろと。「この番組は偏っている」と言えばそれだけで法に反すると。

 放送法とは何のための法律か。放送の自由を守るためなんです。政府側は放送を取り締まるための法律だと考えている。政治的公平とは放送事業者が自律的に守るものでなければならない。礒崎氏は放送法を取り締まるための法律に変えてしまおうとしたんです。

 法律の“解釈変更”というのは安倍政権以来、常とう手段です。“解釈変更”という形をとった違法行為がまかり通ってしまっている。権力者が自分の子分をそれぞれの機関に任命して、親分子分の間で政治を行える、こういう日本になってしまった。その一環として、NHKの会長人事の問題もあります。

森功氏 放送支配へ右派の野望

 『国商―最後のフィクサー葛西敬之』という本を書きました。葛西敬之さんという、国鉄の分割民営化をやってその後30年間JR東海に君臨し続けた人です。知る人ぞ知る、安倍・菅政権から今の岸田政権に至るまで、絶大なる影響力を与えてきた、または政権の後ろで政治を操ってきたと言っても過言ではない。

 葛西さんの執念は、マスコミコントロールにあるんです。マスコミをうまく使って、国鉄改革の主眼は国労の解体ですから、なんとか国労を悪者にして、分割民営化すれば“改革”できると、葛西さんら当時の国鉄3人組が考えた。

 そこから政治に介入していく。つまり国鉄“改革”という国策で政治に翻弄(ほんろう)されたり労働組合に翻弄されたりというじくじたる思いから、今度は逆に自分たちが政治に介入して操っていこうと考えた。その結果、最終的には安倍政権のマスコミ支配につながります。

 介入し始めたのは2000年代の初め。「四季の会」というグループを作った。安倍晋三の財界応援団とみられていますけれど、結成当時は与謝野馨さんを総理にしようとしていた。ただ与謝野さんが自分でなく、と連れてきたのが安倍晋三。いわゆる葛西さんの保守・右翼思想に安倍さんが共鳴して、安倍さんが葛西さんを師事するようになったと考えていい。

 第2次安倍政権で実現したのがNHKへの介入です。NHK経営委員会を牛耳れば、NHKを操れるという発想に至った。これに四季の会の主要メンバーが賛同した。

 そして彼らの主眼である受信料値下げや強制徴収は、いわゆる国営放送に変えるべきだということです。政権の思い通りになる放送局にしたいと。それが葛西さんの野望です。

 人事を操って権力を握る。これは葛西さん自身が実感してきたことであり、それを伝授して実践してきたのが安倍・菅政権ではないか。官邸官僚をよく見ていると、みな葛西さんのブレーンなんです。若い頃に目を付けて、自分の保守思想に共感できる人たちを中心に首相秘書官にすえる。

 その中で葛西さんが最も腐心してきたのがマスコミ操作・介入です。マスコミ介入の中でも一番はNHKでした。

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