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NHKと民放連、二人の会長が握手する日

進んでいるのかわからない総務省有識者会議

12月5日、突如NHKの次期会長が発表された。6日発表と聞いていたので不思議だった。さらにそのほんの数日前に東洋経済が「次期会長は元丸紅社長・朝田氏」とすっぱ抜いていたのに、正式発表されたのは元日銀の稲葉延雄氏だった。その裏を情報収集して回ったが、複数説が飛び交い真相を見極められていない。
それはともかく、NHKの新会長は稲葉氏と決まった。来年1月に就任することになる。
NHKについては総務省の有識者会議「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」の分科会「公共放送WG」で議論されている。ここ数回、運悪く別件と重なり傍聴できてないのだが、配布資料を見ると相変わらずだなあと感じた。
「公共放送WG」直近の11月24日の回では民放連と新聞協会がプレゼンしていた。こってり書き込まれた長文の文書を読むと、つまりは「民業圧迫するな」という内容だ。いつまでこれを言うのだろう、と思う。どの領域でどう民業を圧迫しているのか、いつもさっぱりわからない。新聞のネットでの有料会員が伸びないのは、NHKの同時配信とほとんど関係ないと思うのだが。
親会の方は今年前半は大胆な制度改革案を認めるなど珍しく”進んだ”感があったが、夏以降は確認作業に終始している。
親会も分科会も、やることが見えなくなっているように感じる。有識者の皆さんも「飽きている」との噂も聞いた。結局は2010年代後半の「諸課題検討会」のように、進んでいるか進んでいないかさえわからなくなってしまいそうだ。
ただ、今の状況は2010年代と同じように進まない会議をやっている場合ではない。今年、視聴率はどんどん下がり、コロナ前の水準をさらに下回った。この傾向は来年以降も続きそうだ。「テレビ番組をリアルタイムで見る」文化はもはや失われつつあるのだ。ゴールデンタイムがちっともゴールデンではなくなりつつある。そんな風に、お尻に火がつくどころか火傷を負いそうな事態なのに、テレビの未来を議論する会議は進まないし、相変わらず「民業圧迫」と言ってるだけだ。

テレビを見ない大学生が10年後社会の中心になる

先日、ある大学で単発講師を頼まれたので、学生たちにアンケートしてみた。関東にあるごく普通のメディア関係の学部の1〜2年生だ。いろんなことを聞いたのだが、一つ見てほしいのが、「テレビ受像機で何を見るか」についてだ。

答えは40%が「民放のテレビ放送(リアルタイム)」と一番多かったが、「YouTube」が24%、「Netflix,hulu,U-NEXTなど有料動画」が21%だった。意外に有料も見ていることに驚いたが、年齢を考えると料金は親が払っているのかもしれない。
とにかく、20歳前後の大学生がテレビで見るのは「放送」が40%、「通信」が45%だった。
放送が4割あるのを喜ぶべきかは何とも言えないが、彼らがこのままのメディア生活で10年後に30歳前後になっていたとしたら。放送業界にとっては大変なことになる。
つまり、視聴率の水準はさらに下がり、そのまま乱暴に考えるとテレビ広告費は半分になっている、ということかもしれない。半分は大袈裟だが、2021年のテレビ広告費(地上波のみ)が1兆7184億円だったのが今年は800億円程度減りそうで(上期のキー局合計が222億円下がっているので年間だと倍、全国だとさらに倍で800億円程度と概算)もし毎年同じ額だけ下がると2030年には1兆円近くにまで減ってしまう。
放送の時間が減り、有料無料の配信に時間を費やすようになっている。だからこそテレビはネットに「拡張」すべきだったのだが、すっかり出遅れた。アメリカのテレビ局の広告収入は伸びている。まさに配信での広告収入が伸びているからだ。ようやく力を入れ始めたTVerだが、この遅れをカバーするのは相当大変だろう。そしてローカル局にはTVerに当たるものがない。夏の間遊んで暮らしたキリギリスのように、冬に入ったら死が待つだけだ。
(6年前に書いた「拡張するテレビ」は今こそ読むべき本かもしれない、とさりげなく宣伝)

「放送通信の融合」から「放送も通信もない」へ

BBCのティム・デイビー会長があるイベントで「BBCでは今後10年でオンライン・オンリーのサービスとなるので、従来のテレビ・ラジオ放送を終了する準備を進めている」と発言したらしい。私もシェアしたが、Facebookでは次々にお友達の皆さんがシェアし、ティムの顔でタイムラインが埋め尽くされた。

↑この見出しの通り「爆弾発言」だが、今年イギリス政府が公共放送の抜本的見直しを宣言していた流れに沿った発言だろう。それに元々BBCは2034年に電波を止めると言われていた。その通りになるだけだ。
ようやく地上波テレビ局が同時配信を始めたばかりの日本からすると隔世の感がある。何しろ日本ではこの手の議論はいまだに「放送と通信の融合」と括られる。イギリスに限らず欧米ではすでに「放送も通信もない」つまり法的には「同じもの」という扱いだ。ややこしい「著作権処理」なんか必要ない。
2015年に総務省有識者会議「放送を巡る諸課題に関する検討会」は事実上、NHKの同時配信を議論する場だったが、いつまで経っても議論が進まなかった。「放送も通信もない」には至らず同時配信のためには著作権処理が必要で、やっと「処理が少しだけ楽になった」だけだ。相変わらず「放送と通信は別だがどう融合させよう」から一歩も出てない。
BBCがぐいぐい進むのは、欧米が2000年代にすでに「放送も通信もない」をベースにした産業の再構築を始めていたから。すべてはそこから始めないといけないのに、日本はそこで立ち止まっていた。そういう提言もあったのだが、必死で食い止めムキになって反論した。
実はそこに新たな成長の種があり、今アメリカのテレビ局はオンラインの種を発芽させ再成長しているし、ティム・デイビーも胸を張って「最先端の公共メディア」として振る舞っている。
それなのに日本は今、10年後に崩壊がはっきり見えてきているのに「民業圧迫」と罵り合っているのだ。

メディアは力を合わせないと社会から見離される

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