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子どもはどのようにことばを習得していくのか?

R5年度 感覚統合学会 
特別企画Ⅰ 今福理博先生(武蔵野大学教育学部)
著書:赤ちゃんの心はどのように育つのか

内容
①乳幼児の言語発達
②乳幼児の社会性発達
③自閉スペクトラム症児への支援

①乳幼児期の言語発達
ポイント
・乳幼児期の言語獲得は個人差が大きい。


・語彙の発達スピードは変動的である。(ある時期に突然獲得される時期もある)※マッカーサーの乳幼児言語発達質問紙

〇言語獲得に関わる学習(発達心理学的側面)
・感覚学習
・感覚運動学習
・社会的学習

<感覚学習>
 声(聴覚)+顔の情報(視覚)が入力される経験
<感覚運動学習>
 自分の発声が自分の耳から入ってくる。発声時の口の運動と聴覚のFBによる学習
<社会的学習>
他者から学習する重要性。英語圏の赤ちゃんに中国語を学ばせる実験
⇒対面では学べるが、モニターからの映像のでは学べない
他者からの学習について
・ナチュラルペタゴジー理論
コミュニケーションから学習
Osutensive cue(学習の手がかり)
 アイコンタクト、対乳幼児発話(抑揚が大きい、ゆっくり丁寧な声掛け)、対乳幼児動作(大げさな身振り手振り)、随伴的な反応(赤ちゃんの発信にすぐに応答する)、名前を呼びかける
→手がかりがあると、保護者や大人に注意を向けやすい
 学習が促進されやすい
アイコンタクトをした人としていない人がいた場合、した人からより学習しようとする
⇒情報が投げかけられるんじゃないかという手がかり
・ソーシャルゲーティング仮説
 人は社会的相互作用の中で言語を学習する(ナチュラルペタゴジー理論と重なる部分もある)
→対人対面での相互作用により注意が増加、受け取れる情報量も多い
 やりとりが起こることで感覚運動をつかさどる脳機能の促進(赤ちゃんの音声模倣も生まれやすい)
 社会性をきっかけに学習が起こる(モニター上では一方的に流すだけでは起こりにくい)
人間は社会脳を持っている
顔を近づける、目線を追う、人の声を知覚、音声を模倣する→これらの機能がもともと脳に備わっている
やりとりの中で相手の表情、アイコンタクト、発話を処理する脳機能があるためことばを獲得していく

発話の感覚統合の発達過程
発話:顔と音声の視聴覚情報
最初はばらばらに知覚される→2~5ヵ月で顔と音声が統合されてくる
冗長性仮説:音声だけよりも、顔と音声など多感覚になると音声聴取の正確性が向上
顔の情報があることで聴覚の図地弁別のしやすくなる?
→乳児の言語獲得も促進されやすい
 乳児の口への注意が音声理解を促す
4カ月~12ヵ月+大人での研究
離している人のどこを見ているか
4カ月:目を見る
6ヵ月:目と口半々
8カ月~12ヵ月:口をたくさん見る
成人:目を見る
※目をたくさんみるのは相手の感情を伺うため
 6ヵ月~10ヵ月は喃語~初語を話す時期に対応
 相手の発声、口の動きに興味?
生後6ヵ月の時に話者の口を長く注視した乳児ほど、生後12か月の時に言語理解のスコアが高いというデータがある。

発話誇張と乳児の口への注意
発話誇張:発話をダイナミックに、乳児に話しかけるように、歌いかけるように
対乳児発話や歌いかけの方が口の運動量が大きい
歌いかけ(ゆっくりで周波数も高い、ポジティブ感情)条件で口への注意割合が高くなる。
→発話誇張で口への注意を促進する
ASD児の研究(音声と口の動きの視聴覚統合が難しいと報告されている)
目をぼかして顔を提示、口を強調した映像
口元に注意を高めることで視聴覚統合が高まった

音声模倣における発話知覚と産出の関連
3~5ヵ月で母音音声を模倣できる
話者の口に注目するほど音声模倣ができる※口の注視時間と音声模倣に正の相関がある
音声模倣におけるアイコンタクト効果
逸視条件(そっぽを向く)と直視条件(正面を向く)を比べると直視条件でより音声模倣がみられた。
アイコンタクトは他者の意図を判断する手がかり、乳児の音声模倣を誘発するシグナルとして機能する。

早産児(在胎週数37週未満)
発達にリスクを抱える可能性
脳が急激に成熟する感受性期に胎外で過ごす
ストレス要因(過度な光や音刺激、養育者との分離、医療処置)
神経発達症が2~3倍と言われている
早産児の言語発達
3~12歳にかけて文章理解等の複雑な言語能力が、満期産に比べて低下する。(メタアナリシス研究)
乳児期後半~児童期の語彙獲得が遅れる。(在胎週数が短い児ほど顕著)
早産児の視聴覚統合
6.12.18ヵ月(早産は修正齢)
・満期産児:音声と口の動きが一致した映像を長く注視した
・早産児:どの月齢でも有意ではなかった
早産・満期産とも6ヵ月時点での視聴覚統合能力が12・18ヵ月時点の理解語彙を予測した。
※早産児は満期産児に比べ人を見る時間が短く、人の視線を追う頻度も低い。(人と幾何学図形)
 18ヵ月で人を見る時間が少ないほど社会性リスクが出てくる(M-CATの得点が高い)

②乳幼児の社会性発達
3つの代表的な感覚システム
1.外受容感覚:身体外部の感覚、視・聴・触・味・嗅
2.固有受容覚/自己受容感覚:固有受容器により提供、身体の位置や運動についての感覚
3.内受容感覚:身体内部の感覚、体内で起きていることの感覚(空腹、トイレ、疲労、情動)
内受容感覚が良好な人⇒感情認識や感情制御能力、ストレス抵抗力(レジリエンス)が高い、特性不安が低い
※身体の感覚に対して過剰に感じすぎてしまうと「体調悪いんじゃないか?」と不安になる
内受容感覚の入力→島皮質:身体からの情報を意識化する働き

内受容感覚と感情認識
定型とASD(成人)
内受容感覚の正確性に郡間差はなし
しかし、正確性が低いほどアレキシサイミア傾向が強い

内受容感覚と社会的認知
高い人ー他者の表情の変化に対する感度が高い、手の自動模倣が起こりやすい(動きがつられやすい)
内受容感覚の敏感さは他者の感情への敏感さや、自他の境界の重ね合わせに関連する

内受容感覚の個人差と表情模倣
相手が笑うと本人に笑う気がなくても口がぴくっと動く
内受容感覚の正確性ー心拍カウント課題
表情模倣のしやすさ:他者の笑顔観察時の表情模倣が起こった回数
内受容感覚(心拍知覚)が正確な人ほど表情模倣が起こりやすい
アイコンタクトによって表情模倣が促進される程度が内受容感覚の個人差と関連した
その関連はOsutensive cue(オステンシブキュー)による影響によって説明できる

内受容感覚と社会的認知の発達に関する仮説
なぜ乳児は母の顔や社会的刺激を選好する?
ー外受容感覚は内受容感覚と関連付けて学習される
内受容感覚と外受容感覚の統合が社会的認知発達の基盤
泣いている時、不快な状況ー内受容感覚(自律神経、ホルモン、快/不快)
     ⇩
     ⇩母の抱っこ(外受容感覚:顔、タッチ、声など)視覚聴覚触覚
     ⇩
内受容感覚の変化不快な状況からの解放
この経験を積み重ねることで社会的行動(アイコンタクト、笑顔、発声、接触)などを求めるようになる

赤ちゃんの内受容感覚の測定
オムツの不快、空腹などで泣く→内受容感覚は感じ取れている
どう測定するか?
心拍に合わせて動く図形、ズレて動く図形どちらをより好んでみるか
結果:5ヵ月の赤ちゃんはズレて動く図形を選考する

母の内受容感覚と児童の社会情動的スキル
母が自分の内受容感覚の知識を理解しているほど8歳児の社会情動的スキル(感情調節、自己抑制、他者との協力)が高い
→身体感覚に過敏な母親は子どもの感情にも応答的であることが考えられる。

乳児の内受容感覚とアイコンタクト行動の関連
6ヵ月児とその母親の内受容感覚の個人差が自由に遊ぶ場面で社会的行動(アイコンタクト、笑顔、発声など)と関連するか
乳児:心拍に非同期の図形を選好
母:心拍に同期した図形を選好
非同期図形の選好が強い(内受容感覚が敏感)乳児ほど、母親の目を見る頻度が多く、アイコンタクトが多くなる
母親とアイコンタクトを多くする乳児ほど、母親の笑顔が多い。

③ASD児への支援
・1対1の自由遊び場面で社会的随伴性を利用した支援
ナチュラルペタゴジー理論、Osutensive cue(オステンシブキュー)
子どもの行動に大人がが応答する社会的随伴性は身体と感覚統合の経験につながる
・保護者のmind-mindednessを促す支援
支援者が解釈した子どもの行動の内的状態(背景)について言及し、保護者の理解を促す

社会的随伴性を利用した支援例

結果
子どもの評価尺度
・新版K式 DQ67 言語社会62 →DQ70 言語社会70
・PARS-TR 19点 →15.5点
・日本版マッカーサー乳幼児言語発達質問紙 274語 →語彙数、助詞・助動詞が向上
・共同注意課題 8.3→9.9
・共有確認 2.2→3.2
・アイコンタクトの回数 10.3→19.4

考察
社会的随伴性を利用した支援により、アイコンタクト増加や共同注視などの社会的行動が増え、表出語彙が獲得された。

まとめ
・乳児期では発話に含まれる顔と声の視聴覚統合能力が言語獲得の個人差と関連する。
・乳児の社会性に関わる行動(アイコンタクトなど)の背景に内受容感覚が関与している。
・ASD児への社会的随伴性が言語・社会性スキルを促進する。
マインドフルネスによる内受容感覚への気づき
意識的に注意を向けることで自己理解につながる⇒他者理解につながる⇒社会性の再学習に効果はあると考えている。
島皮質の容積が増えるといった報告もある。

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