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志賀原発防災・避難計画の検証~その3 北陸電力は計画に沿った防災対応できず

 原子力防災で原発事業者が対応するべき内容については、原発ごとに防災業務計画を作成し原子力規制委員会に届けることになっている。
 最新の志賀原発防災業務計画は2023年3月15日付で届けた防災業務計画が使われている。今回能登半島地震による警戒事態発生時に、事業者の北陸電力と志賀原発の職員が防災業務計画通り動けたのか、検証する。

1. 志賀原発防災業務計画

1-1 原子力防災管理者

 計画によると、社長は発電所長を原子力防災管理者に選任する。発電所長・原子力防災管理者が警戒体制を発令した場合、直ちに発電所本部を設置し、自ら本部長として発電所本部を統括管理するとともに、社長及び原子力部長に報告する。発電所長の代行者も7名以上選任されている。
 順位は、1 所長代理、2 発電部長、3 技術部長、4 保修部長、5 その他の技術系の部長、6 安全品質保証室長、7 技術系の課長、8 総務部長とし、7名以上選任することになっている。
 今回の地震では、発電所長が何時に原発に到着したのか? その間、だれかが代行したのか? などは発表されていない。

1-2 原子力災害応急対策

 原子力災害応急対策として①情報収集事態、②警戒事態、③施設敷地緊急事態、④全面緊急事態の4つの事態に区分されている。地震に関する区分を見ると、志賀町において震度5弱又は震度5強の地震が発生したときは「情報収集事態」、志賀町において震度6弱以上の地震が発生したとき、志賀町沿岸部を含む津波予報区において大津波警報が発表されたときは「警戒事態」とされている。
 1月1日16:10の地震は、志賀町で震度7を記録し大津波警報も発令されたので、警戒事態に分類される。また、発電所長は、警戒事態に該当する事象が発生した場合は、警戒態勢を発令し通報することが決まっている。

警戒事態に該当する事象

1-3 通報の実施(様式7~9)

 原子力防災管理者は、発令した旨及び施設の状況について様式7(警戒事態該当事象発生連絡)に定める連絡様式に記入し、ファクシミリ装置を用いて直ちに原子力規制委員会及び原子力部長へ送信し、電話等にてその旨を連絡する。

様式7 警戒事態が伊藤事象発生連絡

 第1報に続いて原子力防災管理者は、別表-1に定める事象のその後の状況について定期的に情報収集し、その内容を様式8(警戒事態該当事象発生後の経過連絡)に定める連絡様式に記入し、ファクシミリ装置を用いて原子力規制委員会へ送信し、電話等にてその旨を連絡する。様式8では、「(注2)設備機器の状況、故障機器の応急復旧、拡大防止措置等の時刻、場所、内容について発時刻順に記載する。
 1月1日の地震後に、どのような内容の様式7,様式8の報告書が送信されたかは、公開されていない。変圧器の損傷、油漏れ、電源喪失、冷却ポンプの停止、津波などがどのように報告されたのか、検証が必要だ。

様式8 開会自体が伊藤事象発生後の経過連絡

1-4 10条通報

 さらに、原子力防災管理者は、「別表-2又は別表-3に定める事象のうち、発電所内に係る事象の発生について通報を受けた場合又は自ら発見した場合は、15分以内を目途として、様式9(特定事象発生通報)に定める通報様式に必要事項を記入し、内閣総理大臣、原子力規制委員会、石川県知事、志賀町長、富山県知事、関係市町の長その他別図-3に定める通報先にファクシミリ装置を用いて一斉に送信する。さらに、別図-3に定めるとおり内閣総理大臣、原子力規制委員会、石川県知事、志賀町長、富山県知事、関係市町の長等にその着信を確認する。」ことになっている。
 様式9では、原子力災害対策特別措置法第10条第1項に基づく基準として、「SE25 非常用交流高圧母線の30 分間以上喪失、SE27 直流電源の部分喪失、SE30 使用済燃料貯蔵槽の冷却機能喪失、SE53 火災・溢水による安全機能の一部喪失、SE55 防護措置の準備及び一部実施が必要な事象発生」、原子力災害対策特別措置法第15条第1項に基づく基準では、「GE25 非常用交流高圧母線の1 時間以上喪失」が挙げられている。

様式9 10条通報

2. 志賀原発でおこっていた事象

志賀原発でおこっていた事象の中で、原子力災害対策特別措置法第10条第1項に基づく基準にあてはまると思われる事象をまとめる。
 
以下は原子力規制委員会の報告を引用する。
☆1号機
17:42 1号機起動変圧器に油漏れを確認
18:49 1号機起動変圧器の油漏れのため、275kV から66kV に切替え準備中
19:13 1号機275kV から66kV に切替え完了
☆2号機
16:45 2号機主変圧器で火災発生、噴霧消火実施
16:51 2号機主変圧器の火災について、現場確認により火災と判断。公設消防へ通報済
17:18 2号機主変圧器500KV 焦げ(公設消防に連絡済)、275KV に切替え済。
17:29 2号機主変圧器の火災について、自衛消防隊と運転員により火災なしを確認。
 

2-1. 外部電源喪失 (SE 25)

 SE25 非常用交流高圧母線の30 分間以上喪失 全ての非常用交流母線からの電気の供給が停止し、かつ、その状態が30 分間以上継続した場合。解説では、「全ての非常用交流母線からの電気の供給が停止」とは、全ての非常用交流母線が外部電源及び非常用ディーゼル発電機からの受電に失敗し、かつ、常設代替交流電源設備※3から受電ができていない場合をいう。
 
 1号機の電源については最初の報告が発災から1時間30分以上たってからの17:42から報告が始まる。2号機の火災対応が一段落してから報告されていることから、現場職員の数が足りずに1号機の点検が後回しになった可能性がある。
 1号機の外部電源は、原子力規制委員会の報告では電源が切り替わったのが19:13と報告され、16:10~19:13までの3時間3分、外部電源が喪失していたと推測される。
 これだけ見ると「10条通報」に該当すると思われるが、報告されたという記載も、「10条通報に該当しない」という記載も見当たらない。
 一方、北陸電力資料(1月4日)では、「起動変圧器からの油漏れ及び放圧板の動作、噴霧消火設備の起動、当該変圧器からの油漏れがあることを確認したことから、1月1日19時
23分に代替の予備電源変圧器への切り替え操作を実施した。」となっていて、規制委員会の発表とは10分間のずれがある。その後、訂正の報告はされていないので、どちらかの報告が間違っているが、訂正はない。外部電源喪失時間が3時間13分だった可能性もある。
 2号機は、火災等により電源喪失したが、自動で別の回線に切り替わり、外部電源の喪失はなかったようだ。

2-2. 火災 (SE 53)

 SE53 火災・溢水による安全機能の一部喪失:火災又は溢水が発生し、命令第2条第2項第8号に規定する安全上重要な構築物、系統又は機器(以下「安全機器等」という。)の機能の一部が喪失した場合。解説では「火災」とは、発電所敷地内に施設される設備や仮置きされた可燃性物質(難燃性を含む)が発火することをいう。
 
北陸電力の発表
16:45 2号機主変圧器で火災発生、噴霧消火設備の起動あり
16:51 2号機主変圧器の火災について、現場確認により火災と判断。公設消防へ通報済
17:00 官房長官記者会見では、「火災」と発表された。
17:18 500KV 焦げ(公設消防に連絡済)、275KV に切替え済。
17:29 2号機主変圧器の火災について、自衛消防隊と運転員により火災なしを確認。
 
 1号機については、地震発生時に1号機起動変圧器の放圧板の動作及び噴霧消火設備を手動起動したことを確認した。
 2号機については、16:45 2号機主変圧器で火災発生、噴霧消火設備の起動があり噴霧消火実施となっている。
 また、1月4日の北陸電力の規制庁への報告を見ると、「当該変圧器の放圧板の動作及び噴霧消火設備の起動を確認した。またこれにより、自動的に予備電源変圧器へ切り替わった。噴霧消火設備の起動及び放圧板が動作した原因等は調査中であるが、油中ガス分析の結果アセチレンが検出されており、内部短絡が起きた可能性がある。
 なお、「火災の発生は確認されていない。」となっている。「火災は発生していないので10条通報には該当しない」と主張したいのだろう。火災か火災でないかは公設消防が判断するらしいが、公設消防がいつ到着し「火災の発生が確認できない」という判断が、何時何分に行われたかは記録されていない。

2-3. 溢水 (SE53)

 解説では、「溢水」とは、発電所内に施設される機器の破損による漏水又は消火栓等の系統の作動による放水が原因で、系統外に放出された流体をいう(滞留水、流水、蒸気を含む)。
 
 北陸電力の記者会見第1報(1月1日20:00)では、
「地震に伴い、(1号機)原子炉建屋4階において、使用済燃料貯蔵プール水の床面への飛散が発生した。それに伴い、一時的に燃料プール冷却浄化系ポンプが停止した。」「18:20 1号機原子炉建屋4階において、燃料プールのスロッシングについて、現在は水位が維持されており、冷却に異常なし。」と報告された。
☆1号機
 1月4日の北陸電力報告(北陸電力第2報:1月2日 11:00)によると、「使用済燃料貯蔵プール水の床面への飛散が発生した。それに伴い、一時的に燃料プール冷却浄化系ポンプが停止したが、1月1日16時49分に再起動した。なお、飛散したプール水のふき取りは完了している。・飛散した量:約95 リットル、・放射能量 :約17,100 Bq、・放射能量が3.7×106 Bq 未満のため実用炉則第134 条第10 号に非該当」と記載した。
 1月9日の報告では、「・使用済燃料貯蔵プールの波打ち現象(スロッシング)を確認。・飛散した量は約95 リットル(プール水位低下量は0.8mm 相当)、放射能量は約17,100Bq、外部への放射能の影響はなし⇒プール水位はほとんど変化しておらず、使用済燃料の冷却等の原子力安全の確保に影響はない。」と記載した。
☆2号機
 1月4日の北陸電力報告によると、「使用済燃料貯蔵プール水の飛散・飛散した量:約326 リットル、・放射能量 :約4,600 Bq、・放射能量が3.7×106 Bq 未満のため実用炉則第134 条第10 号に非該当」と記載した。

2-4. 冷却機能喪失 (SE 53)

 「SE53 火災又は溢水が発生し、命令第2条第2項第8号に規定する安全上重要な構築物、系統又は機器(以下「安全機器等」という。)の機能の一部が喪失した場合」、解説では、「機能の一部が喪失」とは、火災又は溢水による安全機器等の故障により、要求される機能を発揮するために必要となる安全機器等が使用不能となった場合をいう。
 
 原子力規制庁の1回目の記者ブリーフィング(17:30現在)では、「使用済燃料貯蔵プール水の床面への飛散が発生した。それに伴い、一時的に燃料プール冷却浄化系ポンプが停止したが、1月1日16時49分に再起動した。」と報告された。つまり「39分間ポンプが停止し冷却が止まった」が、これも10条通報には該当しないらしい。
 北陸電力の記者会見第1報(1月1日20:00)では、「地震に伴い、(1号機)原子炉建屋4階において、使用済燃料貯蔵プール水の床面への飛散が発生した。それに伴い、一時的に燃料プール冷却浄化系ポンプが停止した。」と報告した。

2-5. 高圧電源車移動ルート損壊 (SE 25)

 SE25の解説では、「全ての非常用交流母線からの電気の供給が停止」とは、全ての非常用交流母線が外部電源及び非常用ディーゼル発電機からの受電に失敗し、かつ、常設代替交流電源設備から受電ができていない場合をいう。
 
 1月4日の報告では、1号機その他の被害状況として、管理区域外、a.構内状況、(c) 高圧電源車アクセスルートの段差発生 として、「高圧電源車のアクセスルートに3箇所段差の発生を確認したが、通行には支障なし。今後、詳細に状況を確認し補修する予定。」となっている。
 また、1月9日の報告では、「・1号機高圧電源車使用箇所付近の道路に数cm程度の段差が発生していることを確認。⇒高圧電源車は、近傍の別の場所に配置しても支障なく対応できるため影響はない。」とし、以下の図が添付されている。

道路等の段差が発生した場所


道路・地盤の段差

 「支障なく対応できる」と判断できたのは1月9日であり、外部電源が喪失していた1月1日には電源車に接続する試みも行われなかったらしい。 「電源車から受電できない状態ではなく接続しなかっただけ」であり、電源喪失も10条報告には該当しないと言い訳消するのだろうか。
 3月25日の発表では、「【建物・敷地内道路関連】○地盤沈下、傾き等 機能上影響があった段差等の変状(物揚場埋立部のコンクリート舗装(共-②)等※)については公表済。
 敷地地盤に生じた変状は、盛土・埋戻土の範囲及び舗装部で確認されている。これらの変状については、掘削調査を実施した結果、ごく表層のみで発生しており深部の岩盤に連続しない。なお、これらの変状は、地震に伴う盛土・埋戻土の揺すり込み沈下や地震力を受けた舗装の変形が原因と考えられる。重要施設は十分な支持性能を有する岩盤に直接支持されていることから、発電所施設の機能に影響を与えるものではない。⇒いずれの設備においても必要な機能を満足するとともに、被害は軽微であり、安全および使用上の支障なし。」と記載した。

2-6. 津波モニタリング

 1月9日の資料、発電所前面海域の水位上昇について(補足)では、以下のようになっている。
・2号機取水槽(下図●赤まる)内に取り付けた水位計で、1月1日17時45分頃約3メートルの水位上昇を計測。(第4報でお知らせ済)
・第4報(2024年1月3日2 時00分公表)において今後実施するとしていた、2号機取水槽内の水位データを用いた発電所前面海域における水位変動を解析した結果、取水口付近(下図●緑まる)において約3メートルの水位上昇と評価。
・さらに、上記の検証として、物揚場付近の海底(下図●青まる)に設置された波高計から伝送されたデータ※を収集し、当該位置での水位変動を復元した。復元した水位変動においても、17時45分頃約3メートルの水位上昇を確認。
※地震の影響により地震直後から伝送が停止していたが、1月3日15時50分に復旧したことから、その後、データの収集、分析、評価を行ったもの。

水位の変化

 3月25日の発表では「敷地前面の漂着物の最大到達点を測量した値」を「今回の津波による痕跡高に対応すると想定」し「約4mであることを確認した」と記載した。

2-7. モニタリングポスト欠測

 モニタリングポストの欠測についても情報が混乱していた。原子力規制員会の17:30現在の発表では13局が欠測になっていた。19:00現在の発表では2局が復帰し11局が欠測と発表された。20:00時点の図では、101局中12局が欠測と発表されていた。

1月1日20時の欠測地点 12か所

 1月10日の資料では、「志賀原子力発電所周辺のモニタリングポスト116 局のうち、一時期、主に発電所北側15km以遠の18 局が欠測した。その後、徐々に欠測箇所は減少し、令和6年1月9日18:00 時点で欠測しているポストは、7局であり、そのうち3局においては、可搬型モニタリングポストが設置済。」と発表され、これが正しい数値で、1月1日の発表は大混乱していた。
 原発敷地内のモニタリングポストの管理は原子力防災管理者になるが、敷地外のモニタリングポストは石川県が設置している。石川県の防災計画~原子力災害編では、「緊急時モニタリングは原子力規制委員会の下、緊急時モニタリングセンターが設置される。緊急時モニタリングセンターは原子力規制委員会、関係省庁、県、原子力事業者等により構成され、これらが連携して緊急時モニタリングを実施する。また、上記以外の関係省庁(海上保安庁等)はその支援を行う。」と書かれている。
 情報の混乱についても、責任のなすり合いが行われているのだろうが、原子力規制員会が責任をもって問題解決に当たるべきであろう。

3. 原子力事業者の責務

 1月のマンスリーレポート(2月9日発表)として、「志賀原子力発電所の事故・故障等の情報および運転保守情報(2024年1月分)」が公表されている。これは、連絡基準覚書(石川県、志賀町との間で締結した「志賀原子力発電所における石川県・志賀町への連絡基準に係る覚書」)に基づいて、連絡区分I,II,IIIとして列挙されているが、10条通報についての記載はない。
 地震が起き、志賀原発でも重大な事象が発生したにもかかわらず、情報公開があまりにもお粗末だった。その後の検証もなく、北陸電力は何の動きもない。原子力規制委員会へ報告した資料と報告するべきだった事象について検証し、全て公開するべきだ。
 3月7日には、志賀原発が2か月以上たってから報道陣に公開されたが、記者会見の動画は公開されていない。
 原子力所長は警戒体制を発令し、原発では重大な事故が発生していたが、迅速な事故の把握、ルールに基づく報告、情報公開が全く不十分だった。
 原発の再稼働はするべきではないが、基本的な作業ができない事業者には原子炉を管理することもできない。再稼働とは別に、原発の安全管理について見直す必要がある。
 
<北j陸電力 志賀原発防災業務計画 2023年3月15日>
原子力災害対策特別措置法第7条第3項の規定に基づく原子力事業者防災業務計画作成(修正)届出書
https://www.nra.go.jp/disclosure/law_new/ER/330000876.html
原子力事業者防災業務計画作成(修正)届出書(原第74号)
https://www.nra.go.jp/data/000430506.pdf

志賀原発防災・避難計画の検証
その3~北陸電力は計画に沿った防災対応できず
https://note.com/otake_susumu/n/n29a68b437a83
 
その2~21:50 警戒本部廃止に異議あり!
https://note.com/otake_susumu/n/n76b14d29ca6d
 
その1~オフサイトセンターに住民40人以上が避難
https://note.com/otake_susumu/n/n86cf5dd0f576