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志賀原発防災・避難計画の検証 その2~21:50 警戒本部廃止に異議あり!

 2024年1月1日 16:10の発生した能登半島地震後の内閣府や原子力規制委員会がどのように対応したか、時系列にまとめ整理した。

合同警戒本部の設置と廃止

 1月10日の原子力規制庁の資料「令和6年能登半島地震における原子力施設等への影響及び対応」によると、「警戒事態に至ったことから」中央と現地に警戒本部が設置されその後廃止されたと記載されている。

16:10 石川県能登地方を震源とする地震発生(志賀町;震度7)
16:19 志賀原子力発電所に係る原子力規制委員会・内閣府事故合同警戒本部を設置
16:22 石川県能登において大津波警報を気象庁が発表
16:26 志賀原子力発電所に係る原子力規制委員会・内閣府事故合同“現地”警戒本部を設置
16:49 原子炉の「止める・冷やす・閉じ込める」の機能及び使用済燃料の「冷却」の状態に異常がないことを確認
20:30 大津波警報を津波警報に気象庁が切り替え
21:50 志賀原子力発電所に係る原子力規制委員会・内閣府事故合同警戒本部を廃止

事故合同警戒本部(中央)と事故合同“現地”警戒本部(オフサイトセンター)

警戒事態とは?

 内閣府の「原子力緊急事態等現地対応標準マニュアル(2023/3/24)」によれば、緊急事態は、情報収集事態、警戒事態、施設敷地緊急事態、全面緊急事態(フェーズ1及びフェーズ2)に分類されている。
 石川県地域防災計画原子力防災編(2022/5/23)によれば、情報収集事態とは「志賀町で震度5弱又は震度5強の地震の発生、又はその他原子力施設の運転に影響を及ぼすおそれがある情報が通報された場合」とし、警戒事態は「志賀町において震度6弱以上の地震が発生したとき、志賀町沿岸部を含む津波予報区において大津波警報が発表されたとき、ほか」と基準が定められている。
 16:10の地震は、志賀町で震度7であり、16:22には沿岸に大津波警報が発令されたことから、情報収集事態を超えて警戒事態が発生し、中央と現地に警戒本部が設置された。

警戒事態での対応

規制事務所所長と原子力防災専門官

 志賀原子力規制事務所は、志賀原発オフサイトセンター1階に設置されている。内閣府の「原子力災害対策初動対応マニュアル~情報収集事態及び警戒事態における対応~(2022/12/16)」によれば、現地原子力規制事務所の所長又は原子力運転検査官は「当該原子力規制事務所の担当する原子力施設の緊急時対策所に移動する。」
 現地規制事務所副所長等は、「事故現地警戒本部を立ち上げ事故警戒本部に原則として電話で報告する。」となっている。
 その1で山中委員長の記者会見を紹介したように「サイトの状況については、当然オフサイトセンターでモニターできる状況でございましたので、特にサイトには行かなかった」と述べている。規制事務所長は原発の緊急時対策所に行くことができなかったので、どのように情報収集を行ったのかも不明だ。さらに、山中委員長は「1月2日朝にオフサイトセンターに規制庁の現地職員が到着」とコメントしている。
 また、「オフサイトセンターを開設した現地職員2人は40人以上の避難者の対応にもあたっていた」ので情報収集が十分できていたとは考えられない。
 志賀原発の原子力防災専門官が、どのように行動したかは不明だが、1月1日の2回目のブリーフィング資料には、「17:30現在 柿本上席放射線防災専門官(大飯担当)が志賀OFCへ移動中」と記載がある。
 原子力緊急事態等現地対応標準マニュアルによれば、事故現地警戒本部長は「原子力規制庁及び内閣府が契約するオフサイトセンターの運営支援業者等及び道府県に対して、事態発生から2時間以内を目安として、可能な限り速やかにオフサイトセンターの立ち上げ作業を支援するよう要請する。」
 原子力防災専門官は、「地方公共団体及び原子力事業者と連携して緊急時モニタリングセンターの立ち上げ準備を実施する。」とともに「原子力防災設備・機器等の機能確認し中央の本部に報告する」ことになっている。
 事故現地警戒本部長は、関係地方公共団体及び原子力事業者に対して、事故警戒本部及び事故現地警戒本部を設置したこと並びに今後の連絡先を通知し、オフサイトセンターの入館管理及びセキュリティ対策を行うことになっている。
 以上のように、警戒態勢時に現地事務所長・副所長、原子力災害専門官の役割がマニュアルに書かれているが、どのように対応したのかは規制庁から説明がない。

現地警戒本部広報担当

 広報についても記載されている。事故現地警戒本部広報担当は、「事故警戒本部総括担当が警戒事態の発生後約30分、その後概ね1時間ごとに作成する広報資料を用いて、関係地方公共団体、現地報道機関宛てに情報発信する。ただし、被災状況により、事故現地警戒本部における広報活動が困難な場合には、事故現地警戒本部広報担当は、事故警戒本部広報担当に連絡し、事故警戒本部から関係地方公共団体、現地報道機関宛てに発信するよう依頼する。」となっていて、今回は、現地本部からの広報はなく、中央の規制庁からの記者ブリーフィングが2回行われた。
 さらに、「緊急時対策所及び事故現地警戒本部における記録保存」と書かれているので、今後検証される必要がある。

1月1日の出来事 時系列

16:45 2号機主変圧器で火災発生、噴霧消火実施
16:48 北陸電力 第1報 確認中
16:49 停止していた1号機冷却ポンプ再起動
16:51 2号機火災現場を確認し火災と判断
16:57 北陸電力 第2報 現時点で異常なし
17:00 官房長官記者会見で火災と発表
17:18 2号機の外部電源が500kvから275kvに切り替えを確認
17:30 山中委員長 警戒本部に到着
17:52 北陸電力 第3報 現時点で異常なし
18:20 1号機燃料プールスロッシングあるも冷却に異常なし
18:30 馳知事官邸からオンライン参加 記者ブリーフィング(第1回)
18:49 2号機外部電源 275kvから66kvに切り替え準備中
19:24 2号機外部電源 手動で切り替え完了
20:00 モニタリングポスト欠測12局 斎藤大臣国交省に到着
20:30 記者ブリーフィング(第2回) 大津波警報を津波警報に切り替え
21:50 志賀原子力発電所に係る原子力規制委員会・内閣府事故合同警戒本部を廃止
 志賀原発内では、警戒本部が廃止された頃は混乱の真っただ中にあった。北陸電力本社も状況把握ができずプレス発表も「異常なし」としていた。外部電源の切り替え作業が続き、変圧器の火災、油漏れ、津波についても情報が混乱していた。

警戒本部廃止の基準

 原子力災害対策初動対応マニュアル(2022/12/16)~情報収集事態及び警戒事態における対応~に、警戒事態の解消に係る判断の目安及び手続きが示されている。

(参考4)警戒事態の解消に係る判断の目安及び手続き
○警戒事態の解消に係る判断の目安
(判断の目安)
施設・設備に異常が生じた場合、必要な対策が講じられ、異常が生じた機能の復旧又はその機能を必要としない状態となり、その状態を維持できること。
(目安の具体例)
原子力災害の発生を未然に防止するために必要な対策として、①運転の停止、②異常が生じた施設・設備の機能復旧、又は、③代替設備による異常が生じた施設・設備の機能復旧が完了し、その結果、施設は安定した状態(原子炉が停止した状態や核燃料物質の閉じ込め機能が維持された状態など原子力災害に至るおそれがない状態)を維持することができること。

○警戒事態の解消に係る判断の手続き
① 原子力事業者から、解消の判断の目安を満足していることの説明を受ける。
② 原子力検査官が、必要に応じて現場確認を行い、解消の判断の目安を満足していることを確認する。
③ 原子力事業者と事故警戒本部の双方が認識を共有した後、警戒事態の解消を判断する。また、関係省庁、関係地方公共団体及び原子力事業者等に対する情報提供並びに一般への公表を行う。

本部廃止の判断に異議あり

 廃止の理由として、「止める、冷やす、閉じ込める」機能が維持され大津波警報が解除されたことをもって本部廃止を判断したようだが、その判断にはいくつもの問題が明らかになった。
 原発では、電源の確保、使用済み燃料の冷却維持が綱渡りであったことが、その後の報告で明らかになる。被害の状況は、以下のように五月雨式に報告された。
1・2号機燃料プール水の飛散、津波波高計欠測・防潮壁の被害、変圧器油漏れ、建物や敷地内道路の被害、純水タンク水位低下、燃料プールへの落下物、低圧タービン警報、モニタリングポスト欠測などなど。
 これらの被害を見ても、「警戒事態の解消に係る判断の手続き」のすべてが行われることなく、廃止されたことが分かった。あらゆる場面で、事実確認をして検証してほしい。

<シリーズ その3>では、電源確保を中心に北陸電力の記者会見資料を整理して、事業者として防災対応ができていなかったことを明らかにする
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令和6年能登半島地震における原子力施設等への影響及び対応(2024/1/10)
https://www.nra.go.jp/data/000465120.pdf

原子力災害対策初動対応マニュアル(2022/12/16)~情報収集事態及び警戒事態における対応~
https://www8.cao.go.jp/genshiryoku_bousai/keikaku/pdf/03_shodoumanual_r2.pdf

原子力緊急事態等現地対応標準マニュアル
https://www8.cao.go.jp/genshiryoku_bousai/pdf/03_kinkyuumanual_r5.pdf

石川県地域防災計画原子力防災編
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/bousai/bousai_g/bousaikeikaku/documents/genshiryokubousai.pdf

志賀原発防災・避難計画の検証
その3~北陸電力は計画に沿った防災対応できず
https://note.com/otake_susumu/n/n29a68b437a83
 
その2~21:50 警戒本部廃止に異議あり!
https://note.com/otake_susumu/n/n76b14d29ca6d
 
その1~オフサイトセンターに住民40人以上が避難
https://note.com/otake_susumu/n/n86cf5dd0f576